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【メモ】不明のUH-60JA ローターは何故長い?

<編集履歴> 11Apr.2023公開、12Apr.2023見直し更新(第1回目、文書内容見直し)

 

 宮古島北方でUH-60JAが行方不明になったのは4月6日。翌日夕刻までにいくつかの漂流物が回収されている。その中にローターブレードが1枚含まれていたが、その映像を見た時「ゲッ!」と感覚的に思った。

 私自身は趣味でヒコーキをやっているが、物理(工学・力学)や数学は大の苦手。本業はどちらかと言うと生物化学系の人間だ。だから「原因究明の参考になれば」なんてコトはこれっぽっちも思っちゃいない。でも何だか気持ちの上で不自然に引っ掛かるものを感じるので、メモとして記録しておこうと思う。この感覚が当たるかどうか、後日検証できるようにするために。

 

<回収されたローターブレード(以下、単にロータと称する)は何故長い?>

資料によるとUH-60系統のローター直径は16.4mとのことだ。1枚の長さはローターヘッドからヒンジ部分を含めて8.2m。

先端部が描く円周の長さ =2×半径×円周率= 2×8.2×3.14=51.5m

ロータ先端の回転速度が音速(340.3m/s)を超えることはない。このため;

ロータ回転数(回/秒)<340.3/51.5=6.61 (1秒間に6.6回転未満)

=396rpm未満

 一般にヘリコプターのローター回転数は250~300rpm程度だそうだから、こんなモンだろうかいね。なお250rpmというと1秒間に4.16回転だ。

 もしも正常にローターが回りながら墜落すると、1秒間に4~6回程度はローターが海面にブチ当たることになる。youtubeにあるヘリコプターの事故映像を見るとおおよその状況が分かるが、ローターは折れ曲がり、ひしゃげ、バラバラになるのが通常だ。

それがなぜ、揚収した巡視船の船側に置くくらいの長さを保っていられるのだろう?

目測だが5~6m程度の長さはあるぞ。

それに根元の切断部分以外はあまり傷ついていないように見える。UH-60系統のローターの先端には後退角が付いているが、この部分(特にその先端前縁部分)が「破損していない」ように見えるのだな。もちろん、ネットで出回っている画像の質が悪いから「見えない」だけということもありうる話だ。

それはさておき、どうしたらこのような状態になるだろうかと考えてみた。

(推測1) 回転しているローターが突然ピタリと止まってしまい、ロータによる揚力を失った機体が「石のように」落下して水面に落ちた際の衝撃で折れたとき。(注:なぜロータが回転を止めたかということには言明しない)

(推測2) ローターの根元から千切れて吹き飛んだあと、空気抵抗で減速して海面に「軟着陸(着水)」したとき。(注:なぜロータが千切れたかということには言明しない)

 

 ロータが回転している時に着水すると「これほど表面がキレイな状態で、かつ長いままのロータ」は残らないように思うのだな。逆をいうと、上記(推測1)のようにローターが突然止まって機体が落下し、海面に叩きつけられた際に折れたなら、他の3枚のブレードが同様にほぼ無傷で見つかっても良いように思う。今後、機体が発見・回収されたら、ロータ取り付け部の様子をジックリと観察してみよう。

 一方で(2)のように1枚だけが千切れて飛んだのなら、機体はバランスを崩して直ぐに落下するし、残る3枚のローターは毎秒4~6回転の速さで回転しながら水面を叩くのでバラバラになる。結果として「千切れ飛んだ一枚のロータは綺麗なままで見つかる(綺麗なままなのでハニカム構造部分の空気により海面に浮遊する)けれど、残り3枚はバラバラになっていて(水が浸透して浮力が無くなるので海面に浮遊しないため)見つからない」という状況が成立する。

 

<ローターの切断部分の様子>

巡視船に回収され夜間に撮影されたロータの画像(後退角の向きから考えて下面から見たところ)と、巡視船が入港した際に舷側に置かれたものを撮影した画像(上面から撮影された画像)が存在する。下面から見た写真ではローター断面の前縁から1/3程度を占めるスパー(桁)がスッパリ綺麗に切断されているように見える。破断面はスパーの後端(ブレード幅の前から1/3程度付近)までは前縁から真っ直ぐローターの長さ方向の線とは垂直に走っているが、スパー後端からは根本側の方に伸びている。上下面が激しくめくれあがって剥がされたり、曲げたり、ねじ切れているようには見えない。また全体的には切断面が互いに押しつぶしあったような感じには見えない。これらのことから「ローターが止まって機体が落下し、水面にブチ当たった際の衝撃で根元から折れて千切れた」という感じはしないのだな。一方でロータブレードの後縁部が少し押しつぶされているように見えるので、ブレードの前縁(あるいはスパー)に傷が入り、遠心力で外側にひっぱりつつ、空気抵抗により後縁部を支点にして、やや後ろ向きに引き裂くような形になったとしたら、こんな感じになるかしらん?

 

<海面に接するまでの時間>

真空中で(空気抵抗が無い状態で)自由落下した場合の距離と時間の関係をネット上の高精度計算サイトに数値を入れて確認してみた。

自由落下(距離から計算) - 高精度計算サイト

高度200mで落下時間は6.4秒、300mで7.8秒、400mで9,0秒、500mで10.1秒を要することが分かる。たとえ上記(1)のように「突然ローターが停止してストンと落ちた」場合であっても実際には空気抵抗があるので1割程度は落下時間が増えるハズだ。

 

さて別記事「C-1 菅島墜落事故」の中で、「2番機が無線連絡をした後消息を絶った」というのは誤報であることを述べ、その根拠として急峻な山腹の高度変化に対応する時間が0.8~1.2秒程度しか無かったことを挙げた。

C-1 菅島墜落事故 - 用廃機ハンターが行く!

 だが今回の場合はどうだろう。たとえ低空の200mで飛行しており、上記(1)のように「突然ローター止まり、ストンと落ちた」場合でも「6秒はあった」。このくらいの時間があれば「無線機(送信装置)をオンにする」くらいはできなかっただろうか。そこで、ただ落ちるだけではなく「何か」が生じていたのではないかと考える。上記(1)の場合なら「エンジンが故障(爆発)してローターは急停止、破片で乗員が負傷して送信できなかった」なんて場合がある「かもしれない」。(2)が起きていたなら機体はバランスを崩して振り回されながら落下する(落下速度はローター3枚分の抵抗と揚力があるので(1)より遅い)ので、機内は振り回された際に発生する上下のGと横からのGで「何かにしがみつくのが精いっぱい」だった「かもしれない」。

 これだけの情報ですが、上記(1)よりも(2)の方がストーリーとしては成立しそうだなぁとボンヤリ考えています。「某国の工作員宮古島に潜入し、個人携帯型誘導弾を用いて要人の乗ったヘリを撃墜してから逃亡した」と言う話より、「メインローターに生じた傷(亀裂)を見逃しており、たまたま今回のフライト中に破断。千切れたロータは回収された。4枚のロータのうちの1枚を失ったことにより機体はバランスを崩して落下。この際に機体は大きく振れたことで乗員はしがみつくのが精いっぱいで緊急連絡をすることもできなかった」というほうが現実的で無理のない説明が出来そうな気がするのでありますよ。

 

 ここで「ストーリーとして成立するかどうか」というのは大事な点だと思う。1966年2月4日に発生した全日空B-727の羽田沖墜落事故の「影の報告書」といわれる「最後の30秒 羽田沖全日空機墜落事故の調査と研究」(山名正夫著、朝日新聞社1972)のp.271に当時の事故調査団員北岡龍海氏の言葉が記されているので引用したい。

「山名団員の報告に対し、数多くの項目について反対があったが、個々の項目について、ただ否定するだけでは駄目で、反対の意見を総合して一つの矛盾のない体系をつくってみたらどうか。山名団員の報告には一貫した体系があると思う。もし反対意見による体系ができないなら、山名団員の報告を中心として検討を続けるべきである」(引用終わり)

しかし結局は当時の調査団では体系的な話を作ることができず、公式報告書では「原因不明」となってしまった。

・参考(事故報告書):

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsass1969/19/207/19_207_155/_pdf/-char/ja

 

 現在はSNSやニュースのコメント欄で誰もが好き勝手なことを書き残すことができるが、その説が「無理のない一貫した体系の話」であるかどうか。「科学的ストーリー(物理・工学的に。また検査体制や検査項目・手段など人的要因を十分に加味したもの)として無理なく成立するか)」という目で見極めることが重要だろう。

 

 少しばかり脱線しちゃいましたが、現時点で私自身が「ローターが長いまま発見されるって、何かおかしくね?」と感じている内容はおおむね以上です。繰り返しますが事故原因を追究しようなどとは考えちゃいません。どうしたらローターがこんな状態で残っていられるかな?と疑問に思っただけのお話です。

 原因究明は大事ですが、当面は行方不明となられている皆様が早期に見つかりますことをお祈りしております。

 

以上