用廃機ハンターが行く!

アジア各地に転がる用廃機を見に行くためのガイド(?)

陸上自衛隊 AH-1Sの用廃機

<編集履歴> 26Dec.2019公開、11Apr.2024見直し更新(第20回目、帯広駐屯地に展示)

 

【はじめに】

 陸上自衛隊では1979年より2機のAH-1S(AH-1Eに相当)を導入して評価を行い、その後90機のAH-1S(AH-1Fに相当)を調達(納入は89機、後述するトリビア参照)して第1~第5対戦車ヘリコプター隊に配備した。2023年3月31日時点での保有機数は44機となっている。保有機数の減耗により2021年3月17日付で目達原駐屯地の第3対戦車ヘリコプター隊はAH-1Sの運用を終了して閉隊し、これまで第3対戦車ヘリコプター隊に配備されていたAH-64DとOH-1は新たに編成された第1戦闘ヘリコプター隊に移籍・改編されている。2022年(令和4年)12月16日に閣議決定された「防衛力整備計画」によりAH-1S(およびAH-64DとOH-1)を無人機で代替する方針が明らかになった。計画は2027年から2032頃までに実施することを想定しているとのことだ。コストパフォーマンス的には直ちに無人機部隊を必要数立ち上げ、初度作戦能力を獲得したら速やかにAH-1Sを廃止して世代交代を進めるべきなのだろうが、実際には予算の都合で完全に置換されるまでに数年程度はかかることだろう。UH-1シリーズのように多くの隊員が利用する機体ではないので各駐屯地にて搭乗訓練や物資等の搭載訓練用として設置されることは無く、帯広・八戸・木更津・明野・霞ケ浦の各使用部隊が積極的に残す活動をしない限り、消えていくものと考えている。

 

【展示機/保管機】

(1) AH-1E相当の初号機73401号機が陸上自衛隊広報センターりっくんランドに展示されている。

【東京都】陸自 りっくんランドと朝霞駐屯地 - 用廃機ハンターが行く!

写真1 りっくんランドに展示されているAH-1S初号機。(2019年8月11日撮影)

 

(2) AH-1F相当の量産初号機73403号機がSUBARU航空宇宙カンパニー宇都宮製作所南工場(宇都宮飛行場/北宇都宮駐屯地の北東部エリア)に保管されている。本機は2022年4月10日および2023年5月14日に行われたサポートカー集合イベント(緊急車両等の展示イベント)の際にエプロンに引き出されて展示されたが、Flyteamさんへの投稿画像を見るとエンジンや風向データセンサ部は取り外されている。今後も同種のイベントの際には展示される可能性が高い。

 

(3) 2024年3月28日に帯広駐屯地正門脇に1機のAH-1Sと1機のOH-6Dが展示された。2024年4月11日時点ではいずれの機体もS/Nは判明していない。報道記事によると広報に事前に連絡すれば、コクピット搭乗も可能とのことだ。

 

【用廃機の推定】

 現在までに何号機までが用廃となっているのか、入手可能な情報から推定してみよう。

<推定の手順>

(1) Wikipediaや既刊の雑誌などから調達数を確認する。

(2) 防衛白書の「資料」の部にある保有機一覧から前年度末日時点での保有数を確認する。

(3) 「用廃機数」=「調達数」マイナス「保有機数」と考える。

また「用廃機数」=「飛行時間が尽きて用廃になった機数」+「事故等で抹消となった機数」と考える。

(4) 新聞、雑誌、Wikipediaなどから事故抹消機の機数を調べる。

(5) Flyteamさんの写真投稿で近頃撮影されていない機体を探し出す。

(6) 上記(1)~(5)の結果を突き合わせて推定する。

 

<調達数の確認結果>

 AH-1Sの調達数は92機だが、納入前に事故を起こして1機が抹消されているので納入数は91機だ(事故に関しては最下段のトリビアの項に記載する)。Wikipediaにある予算別調達機数は次の通りだ。以下、調達機数(92機)を基準として話を進める。

 予算年度 /調達機数 / 機番 / 備考(2023年8月時点の状況)

 1977年度  1機     73401    用廃、りっくんランドに展示

 1978年度  1機  73402    用廃

 1981年度   12機    73403-73414 全機用廃

 1982年度  5機  73415-73419 全機用廃

 1983年度     5機  73420-73424 全機用廃

 1984年度     8機  73425-73432 全機用廃と推定

 1985年度  8機  73433-73440 全機用廃と推定

 1986年度  0機  調達無し

 1987年度  8機  73441-73448 用廃が始まっている  

 1988年度  8機  73449-73456 用廃が始まっている

 1989年度  9機  73457-73465

 1990年度  8機  73466-73473

 1991年度  6機  73474-73479

 1992年度  4機  73480-73483

 1993年度  2機  73484-73485

 1994年度  2機  73486-73487

 1995年度  2機  73488-73489

 1996年度  1機  73490

 1997年度  1機  73491

 1998年度  1機  73492

写真2 木更津駐屯地祭にて編隊で会場を通過するAH-1S。5機以上の多数機編隊はもう見ることはできないだろうなぁ。(2012年10月13日撮影)

 

保有機数の確認結果>

 防衛白書の「資料」にある「主要航空機の保有数・性能諸元」を確認した結果は次の通りだ。

平成29年(2017年)3月31日 59機

平成30年(2018年)3月31年 56機(前年度-3機)

令和元年(2019年)3月31日 55機(前年度-1機)

令和  2年(2020年)3月31日 52機(前年度-3機)

令和  3年(2021年)3月31日 50機(前年度-2機)

令和  4年(2022年)3月31日 47機(前年度-3機)

令和  5年(2023年)3月31日 44機(前年度-3機)

 

<事故機数の確認結果>

事故機は次の通りだ(S/N順)。事故後に復帰したものもあるので注意を要する。

(1) 73413 2005年09月18日 相浦で展示飛行中に墜落

(2) 73433 2006年11月06日 鴨川付近の山中に墜落

(3) 73451 1990年10月19日 引渡し前の試験飛行中に墜落(後述)

(4) 73454 2004年02月23日 鳥羽市付近で73474と空中接触、2名死亡

(5) 73458 2004年07月21日 北富士演習場内に落着

(6) 73463 2001年02月14日 午後6時ごろ千葉県市原市上空で訓練中にOH-6D(31260号機)と空中接触し、機首部分を小破したが修理され飛行可能となった。相手側のOH-6Dは墜落し、乗員2名は死亡した。

(7) 73474 2004年02月23日 鳥羽市付近で73454と空中接触、2名負傷

(8) 不明   2003年05月20日 青森県内に墜落

(9) 不明   2000年06月23日 東富士演習場内に落着大破、2名重傷

 

<推定の結果>(2023年8月2日改訂)
1. 用廃機数

「用廃機」=「調達機数」マイナス「保有機数」の式より、「調達数92機」、「2023年3月末時点の保有機数44機」なので「用廃機数は48機」だ。

2.現用機の内訳(推定)

 単純に考えれば機番の新しいものから44機分を数えた73449号機以降が残っているハズだ。ただし49号機以降では51、54、58、74号機の合計4機がすでに事故で抹消されている。よってさらに4機分を遡って73445号機以降の機番が残っていると仮定する。

 1985年予算調達分である(おおむね1988-9年頃に納入された分の)73433-73440号機は2023年度には全て退役している状況と言えそうだ。

3. 推定の検証

 上記2.で述べた推定が正しいのかどうか、FlyTeamさんに投稿されたAH-1Sの写真から1984-5年度予算調達分の機体撮影日を確認してみよう。機番と最終撮影日を確認した結果を以下に記す。2020年度は新型コロナウイルス感染予防のため、基地祭・駐屯地祭などの公開イベントはほぼすべてが中止となり、また緊急事態宣言発令などによる外出自粛も相まって目撃情報は極端に少ないが、1984年予算調達分の73431号機が2021年9月度にSUBARUで試験飛行を行っているので、2024年度ごろまでは運用するのだろう。一方で85年予算調達分の73440が2017年以降の目撃例が無いなどから、1985年度調達分の機体に用廃機が発生し始めている可能性がうかがえる。

機番 / 最終撮影日と撮影場所

73430 2020年06月03日、木更津

73431 2021年09月21日、北宇都宮駐屯地SUBARU試験飛行)

73432 2020年10月13日、丘珠

73433 2006年11月6日に墜落、大破抹消

73434 2013年11月03日、海田市

73435 2017年09月26日、丘珠

73436 2019年11月03日、明野 本機もしくは73438は2021年1月夜間移送

73437 2020年02月13日、熊本

73438 2018年11月25日、浜松 本機もしくは73436は2021年1月夜間移送

73439 2019年11月16日、防大

73440 2017年04月16日、霞目

 

【まとめ】(2023年8月02日改訂)
(1) 陸上自衛隊では2023年3月31日時点で44機のAH-1S保有し、4個対戦ヘリコプター隊(および明野駐屯地の教育部隊)にて運用しているが、1985年度予算で調達した8機(73440)までは全て用廃となっているものと考えられる。

(2) 2022年(令和4年)12月16日に閣議決定された「防衛力整備計画」によりAH-1S(およびAH-64DとOH-1)は無人機で代替する方針であることが明らかになった。この計画は2027年から2033年頃までの5年間に実施することを想定しているが、2027年度には機体の残存状況と納入から約30年経過した機体数を考えると「防衛力整備計画」で想定している期限の初期である2027年度には運用を終えるものと考えている。防衛費の増加により無人機部隊の設立が進むのであれば、数年早い2024~25年度ごろには運用を終えるかもしれない。毎年6~7月頃に公表される防衛装備庁の調達予定(回転翼室)に目を通し、定期点検整備の項目やエンジン整備の項目などが記載されていなければ、当該年度から遅くとも3年度経過後には全機引退するものと考えることにしよう。

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写真3  文章が続くので1枚貼り付けておきます。(2013年5月12日木更津駐屯地祭にて撮影)

 

トリビア ”民間の”AH-1S

 92機が「調達・製造」されたAH-1Sだが、このうち73451号機は「納入前/引き渡し前」に富士重工(株)(現(株)スバル)で試験飛行を行っている際の1990年10月19日に墜落しているため「発注・製造は合計92機」、「納入・運用は合計91機」となる。ウンチクを語る際には前提条件など定義づけには十分注意して数値を記載していただきたい。なおこの事故は引渡し前に生じたことから機体の所有権は民間企業である富士重工(株)にあり、「民間機の事故」扱いとなった。このため運輸省(現国土交通省)の航空機事故報告書に記載された唯一の軍用ヘリとなっている(注:自衛隊機と民間機が絡む事故(空中衝突など)を除く)。

なお「引渡し前で民間企業に所有権がある状態」で事故を起こした例は2021年に”航空自衛隊”の岐阜基地で領収確認飛行を終えた”川崎重工海上自衛隊に納入する前の”P-1哨戒機が着陸時に滑走路を逸脱した事案がある。この事故直後には発生場所(航空自衛隊岐阜基地)/所有者(川崎重工)/納入予定先・運用(海上自衛隊)が全て異なる組織であったため、非常に混乱した報道やコメントが見られた。今後、この事案について取り上げる際には各組織の立場関係をよく確認したうえで話を進めていただきたい。

事故報告書はコチラ;http://www.mlit.go.jp/jtsb/aircraft/rep-acci/90-6-none.pdf

 

トリビア2:夜間陸送(26Jan.2021公開)】

 2021年の恐らくは1月10日の夜から13日の夜にかけて、用廃となったと思われるAH-1S明野駐屯地から関東地方にトラックで夜間に運ばれたようだ。

h&k on Twitter: "コブラ!?!?… "

 関連する話をTwitter上で追っていくと、機体番号は明野基地に配備されていた73436か73438ではないかというTweetがあります。おそらくは用廃機を関東補給処のある霞ヶ浦駐屯地に移送したのでしょう。移送先を霞ヶ浦駐屯地とした理由の詳細はこちらにて;【基礎講座】用廃機の発生するところ - 用廃機ハンターが行く!

<疑問>
 どうして最後に霞ヶ浦まで飛ばさなかったのか、それが不思議ですね。燃料費は途中給油無し機内タンクのみで980 L、80円/Lとして78,400円程度。乗員2名を新幹線で明野まで返しても交通費は4万円とはかからない。2人分の出張手当などを考慮しても必要経費は20万円でお釣りがくるハズだ。一方でトレーラー借りて陸送すると50~100万円程度の予算が飛んでいくと思うのだけどなぁ。

 用廃の進むAH-1Sとはいえ、まだ50機近くが残っている。この胴体フレームって他機に転用できるのだろうか。最後のフライトで霞ケ浦まで飛ばせなかった場合には明野駐屯地で使用可能な部品のみを外して補給処に送付して保管させ、ガランドウになった胴体フレームは明野でスクラップにしちゃった方が安く済むような気がするのだけどな?整備員のワークロードの問題だろうか。「規則だから」というのは理解するが「運用最盛期の規則」と「運用末期の規則」が同じで良いものだろうか。規則の見直しを行う担当者の人件費を考えても「見直した方が経費の節約になる」事案のように思えるのだよな。「用廃機は関東補給処に搬入し、ここで処分するものとする。ただし部隊で処分した方が経費節約になると考えられた場合には部隊で処分する。処分方法は関東補給処の定めた手順に準拠する」というように”但し書き”で運用すれば文書改訂は楽だろうにとシロウトは思う。用廃機の処理手順については、まだまだ知らないことが沢山ありまする。

 

トリビア3:AH-1Sの解体と売り払い(02Feb.2021公開)】

 陸上自衛隊関東補給処調達会計部のサイトから「入札公告はこちら」のボタンを押すと、「入札公告の概要」のページが現れる。ここで関東補給処に集められた機体の解体と売り払いに関する入札が行われる場合には、その仕様書などを公告で読むことができる。仕様書には解体の際の切断場所などが記載されているので、一度は目を通しておこう。なお年度末を過ぎると前年度のものは消去されてしまうので、ご注意あれ。

関東補給処調達会計部ホームページ

<参考:AH-1Sなどの解体関連の公告>

令和2年度(2020年度)公告番号、入札日、内訳の順で列記する。

公告第 8号   2020年07月17日入札、内訳:AH-1S(7機)

公告第21号  2020年09月30日入札、内訳:AH-1S(7機)

公告第38号  2021年01月14日入札、内訳:AH-1S(7機)、CH-47J(2機)、LR-1(3機)

公告第71号  2021年02月15日入札、内訳:AH-1S(7機)、CH-47J(2機)、LR-1(3機)

※上に紹介した入札公告案件全てを合計すると令和2年度(2020年度)中にAH-1Sを28機、CH-47Jを4機、LR-1を6機処分したことになるが、公告8号と38号は不調(さまざまな理由により入札事案が成立しないこと)となって21号と71号で再入札を行っている可能性もある。民間の有料入札情報サイト(数日間の無料お試し期間あり)を見れば、その辺の情報も得られるのだろうけれど、そこまでして読むものでも無いと思っているので私は確認していない。

 

【73487号機の修理】

 防衛装備庁が公表している回転翼室の令和5年度調達予定を読むと「AH-1S機体定期修理および機体修理(73487号機)」という項目がある。どうやら2017年8月17日に東富士演習場に落着した第4対戦車ヘリコプター隊の機体のようだ。

以上