<編集履歴> 17Oct.2022公開、08Mar.2023見直し更新(第3回目、考察見直しと写真追加)
【はじめに】
陸海空の三自衛隊で使用されたタンデムロータのヘリコプター、通称”バートル”。
航空雑誌等では「KV-107II」、「V-107」、「V-107A」などと表記されているが、どの表記が「正しい」自衛隊機の呼称なのだろうか。結論を先に書くと「自衛隊の使用機種」を語る場合には「V-107A」とするのが妥当だと考えられた(ただしパワーアップ前の型式は単に"V-107"とするのが妥当なのかもしれない)。この考えに至るまでに調べてきたことを以下にまとめてみる。
本稿に先立ちS-62ヘリコプターとMU-2において、サブタイプ(”A”とか”S”とか”J”)は何かということを調べているが、その調査過程において”バートル”についても「呼称が正しくない」あるいは「その呼称を使用するのが妥当ではない」と思われる事例がいくつか確認されていた。このため自衛隊での「正式呼称(制式名称)」は何と呼ばれていたのかを確認してみようと思い、いくつかの調査・確認を行った。2022年10月17日時点において全てを確認したワケでは無いが、読者に対して問題提起をできる程度の情報は集まったように思う。
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【調査方法】
次のものにおける記述・記載を調べてみた。
(1) 航空雑誌等の記述:私人の同人誌やHP等の記述・記載を含む。雑誌名称は次の通り略す:航空情報(AR)、航空ファン(KF)、航空ジャーナル(AJ)、エアワールド(AW)、Jウイング(JW)
(2) 機体銘板: 展示機を実際に眺めて確認した
(3) 公的文書:防衛白書、予算関連書類、部隊使用承認、公式HPの記述・記載など
【1. 陸上自衛隊】
(1) 航空雑誌等の記述の確認結果
1) AR1968.5(No.239) p.51-59「特集 自衛隊航空1968」の中で、陸自機は「KV-107」、海自機と空自機は「V-107」と表記。
2) AR1971.5「特集 自衛隊航空1971」p.37およびp.40の一覧表および記述の中では「V-107」と表記。
写真1-1 おやべクロスランドのV-107A。(2021年10月6日撮影)
(2) 機体銘板の確認結果
陸上自衛隊のV-107は2022年10月17日時点で25機が残存していると考えられるが、この調査を思い立ってから、私自身が銘板を確認した機体は善通寺駐屯地にある51735号機だけだ。この機体も「銘板」は無く、「MODEL KV107II HELICOPTER」と記したプレートとIRAN記録のプレートのみが残されていた。「KV」と「107II」の間にハイフンが無いコトに注目しておこう。
写真1-2 善通寺駐屯地にある51735号機の機内に残されていたプレート。社内モデルは「KV107II」であることが分かる。文字を見やすくするため通常よりやや大き目の写真を貼り付けておく。(2022年12月16日撮影)
(3) 公的文書上の記述の確認結果
1) 過去の防衛白書を含め、確認はしていない。
2) 日本航空学園能登キャンパスにて教材として使用されている複数のCT-58-IHI-140-1エンジンに付けられていた伝票(修理票など)には、それぞれ「機種別 V-107A」と記されていた。
写真1-3 日本航空学園能登キャンパスにて教材として使用されているCT58エンジン。(2022年10月15日撮影)
写真1-4 写真1-2のエンジン一台ごとについている伝票や修理票の機種別欄には全て「V-107A」と記されていた。(2022年10月15日撮影)
【2. 海上自衛隊】
(1) 航空雑誌等の記述の確認結果
1) AR1968.5(No.239) p.51-59「特集 自衛隊航空1968」の中で、陸自機は「KV-107」、海自機と空自機は「V-107」と表記。
2) AR1971.5「特集 自衛隊航空1971」p.37およびp.40の一覧表および記述の中では「V-107」と表記。
3) 日本ヘリコプタ技術協会2002年度会報p.10-15, 「マグロを釣ったヘリコプタ V-107A」(義若 基 氏)ではタイトル通り「V-107A」と表記。
http://www.helijapan.org/pdf/kaihou/Fy2002JHS-kaihou.pdf
写真2-1. 鹿屋航空基地史料館のV-107A。(2008年5月17日撮影)
(2) 機体銘板の確認結果
現存する機体は下総航空基地と鹿屋航空基地にそれぞれ1機があるのみで、銘板の確認はしていない。なお鹿屋航空基地史料館展示機の場合には柵内に入る必要があるため、事前に調査のための許可を得ることが前提となる。下総航空基地展示機の近年の状況は不明。
(3) 公的文書上の記述の確認結果
1) 過去の防衛白書や予算関係資料の確認はしていない。
2) 準公的資料として海上自衛隊第111航空隊が発刊した「しらさぎ、V-107A除籍記念写真集」という冊子が存在している。これは平成2年3月30日に岩国航空基地でV-107A除籍記念式が行われた際にPlaqueと共に関係者に贈呈されたものだが、その内容に関しては私自身は未確認だ。Plaqueにも「V-107A」と記されているようだ。
写真2-2 下総航空基地のV-107A。説明板には「V-107A」と記されているが、銘板にどのように打刻されているのかは未確認だ。(2014年9月27日撮影)
【3. 航空自衛隊】
(1) 航空雑誌等の記述の確認結果
1) AR1967.12(No.233), p45. 「このほど完成した航空自衛隊向けの救難型V-107ヘリコプタ」として1967年10月7日に各務原飛行場で撮影された74-4801号機の写真掲載。
2) AR1968.1(No.234), p9-13ほか. 特集記事「出そろったKV-107II」、「航空自衛隊がかねて注文していたKV-107IIヘリコプタが、このほど川崎航空機の岐阜工場で完成、11月21日にその納入式が行われた」(p.10)、「この頁はいずれも航空自衛隊型でKV-107-II-5と呼ばれるもの」(p.12)、「3軍共通機種となった大型ヘリコプタKV-107-IIご紹介」(p.116-120)
3) AR1968.5(No.239) p.51-59「特集 自衛隊航空1968」の中で、陸自機は「KV-107」、海自機と空自機は「V-107」と表記。
4) AR1971.5「特集 自衛隊航空1971」p.37およびp.40の一覧表および記述の中では「V-107」と表記。
5) JW2023.02「那覇基地の50年 Part.3 かつて沖縄の空を飛んだ翼たち」(石原肇、編集部)p.52に「なお空自での制式名称「V-107」およびエンジン強化型の「V-107A」」との記述あり。(参考:その隣にMU-2”S”の紹介記事があるが、パワーアップ型のMU-2”A”については一切触れられていない)
写真3-1 浜松広報館のV-107A。(2022年3月20日撮影)
(2) 機体銘板の確認結果
航空自衛隊のV-107Aは2023年3月9日時点で国内には4機が残存している。このうち私自身確認した機体は浜松広報館、小牧基地、新田原基地の3機だが、新田原基地展示機では銘板を確認することができなかった(外されているようだ)。浜松広報館と小牧基地展示機の2機の銘板を確認したところ、「MANUFACTURER'S MODEL "KV107IIA-5"」(注:KVと107の間にハイフンはない)と「CUSTOMER’S MODEL "V-107A"」と打刻されていることを確認した。
2022年12月4日に新田原基地に展示されているV-107Aを見てきたが、上述の通り「銘板」は確認できなかったものの上記写真1-2で紹介したものと同じ「MODEL KV107II HELICOPTER」と記したプレートを確認することができた。こちらも「KV」と「107II」の間にハイフンが無いコトに注目しておこう。
写真3-2, 3-3 上は浜松広報館にある832号機の銘板、下は小牧基地にある851号機の銘板。いずれも「CUSTOMER’SMODEL V-107A」と打刻されている。やや大きめのサイズで張り付けておく。(上:2022年3月20日、下:2023年3月5日撮影)
写真3-4 新田原基地の852号機では銘板は確認できなかったが、上記写真1-2と同じ社内モデルを示すプレートは残っていた。(2022年12月4日撮影)
(3) 公的文書の確認結果
過去の防衛白書をいくつか見たが「KV-107」と表記されたものはなく、「V-107」であった。
【まとめ】
(1) 上記の確認結果より「自衛隊の使用機種」を表記する場合には「V-107」もしくは「V-107A」とすることが妥当だと思われた。おそらくは初期のKV107II-3/-4/-5は「V-107」、エンジン能力向上型のKV107IIA-3/-4/-5は「V-107A」となるのであろうが、初期型が現存していないので確認することができていない。
(2) 海自機(KV107II-3 / KV107IIA-3)については空自のMU-2S/Aで見られたように「部隊内呼称」がいつの間にか定着して「V-107A」となった可能性が捨てきれていない。現存する2機の銘板の確認や公式文書の存在を確認をすべく、調査を継続したいと思う。
(3) これまでの調査結果から想像するには「KV107II-3 / KV107IIA-3」(海自機)、「KV107II-4 / KV107II-4A、KV107IIA-4」(陸自機)、「KV107II-5 / KV107IIA-5」(空自機)はそれぞれ「メーカー名称」(より正確に言えば「MANUFACTURER'S MODEL」)だ。上述した参考文献「マグロを釣ったヘリコプタ V-107A」の文章中には「海上自衛隊の掃海ヘリコプタV-107A(KV107IIA-3は川重コード)」という記述があるので、まず間違いないだろう。なお銘板打刻と義若氏の寄稿文の記述より、川崎重工における名称は「KV107II****」であり、「KV」と「107」の間にハイフンは入らないのが「正しい表記」のようだ。
(4) 現代において自衛隊の使用機種を語る場合、例えば航空自衛隊のU-680Aを表記する際に、メーカー名称である「サイテーション680A(サイテーション・ラチチュード)と表記するだろうか。表記するのはあくまで自衛隊呼称である「U-680A」だろう。バートルの場合であっても「KV107II」というメーカー呼称そのものは「正しい」けれど、「自衛隊の使用機種を語る」際にメーカー名称を使うことは「妥当ではなく」、自衛隊呼称である「V-107/V-107A」を用いるべきと考える。もちろん、例えば「陸上自衛隊で使用していたV-107A(メーカー名称KV107IIA-4)は・・・」などと自衛隊呼称とメーカー呼称を併記する場合は一向に構わない。
(5) 上記の考えに基づき、本Blogでは今後「V-107」もしくは「V-107A」を用いることとし、「KV-107」の表記は順次書き換えていく予定です。なお、この表記は皆様に強制するようなものではありません。あくまで「私が調査結果を元にして、このように考えたから、私自身の文書中ではこうするよ」というものです。この考えをひっくり返すような事実、証拠、記録などが見つかった場合には直ちに更新することもあり得ますことをご承知おきください。
いかがでしょうか。
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