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【雑談】SH-60K(救難仕様)機の見分け方

<編集履歴> 16Dec.2023公開、13Mar.2024見直し更新(第7回目、見直し実施)

 

 海上自衛隊第21航空群は2023年12月15日付の公式Xにて、11月中旬にSH-60K(8455号機/救難仕様)機が館山に配備されたことを発信した。投稿記事によると「航空救難、災害派遣など、捜索救助及び人員、物資の輸送等の任務に従事するため、哨戒装備を取り外し、機内スペースを確保しています」とのこと。また三菱小牧南工場(名古屋空港小牧基地)では2024年1月15日頃から改修2号機となる8457号機が試験飛行を始めている。

 救難仕様機は「直ぐに元の哨戒型に戻せるようにする」という前提条件の下、低コストで改装されている。このため、外形をサラリと見た程度では哨戒型と区別するのは難しい。数が少ないのでSNを覚えてしまった方が早いが、気づいた識別点を以下に列挙しておく。なお、塗装は従来のSH-60Kとは変わりないようだ。

 恐らくは2023年度内に館山航空基地にて実動訓練を行った後、年度末には硫黄島に配備されてしまい、目にすることは難しくなるだろうと予想される機体だ。

写真1 館山航空基地にアプローチするSH-60K(救難仕様)の8455号機。(2024年3月11日)

 

【哨戒型と救難仕様機の識別点(まとめ)】

通常の哨戒型と救難仕様機の外形的なチェックポイントは次の通りだ。

<救難仕様機のみの特徴>

(1) 機体下面にソナー用の穴が無い。

(2) 機内に増槽タンクが設置されている。

<哨戒型でも例外的に見られることがある特徴>

(1) 機内に吊下式ソナーとリールが無い。:物資輸送時などには取り外してして運用することがある。

(2) 機首のFLIRが無い。:哨戒型でも取りつけないで運用することがある。

(3) MADが無い:機体左側しか見えない場合には分からない。また哨戒型でも取外して運用することがある。

(4) 機首と垂直尾翼のミサイル警戒装置AN/AAR-60センサが無い:哨戒型でも取外して運用することがある。

(5) 左側のスタブウイング:試験飛行時には通常通り装着されていたが、2024年3月11日に館山航空基地で撮影した際には胴体から30cm程度のところまでしかなく、バブルウインドウからの下方視界を確保している。哨戒型でもスタブウイングは胴体から30cm程度のところで上方に折りたたむことができる。このヒンジ部分から取り外し、保護カバーを装着するだけなのだろう。このためスタブウイングの有無で哨戒型/救難仕様を識別することはできない。なおヘルファイアの運用などに関わる火器管制装置一式が取り外されているのかもしれないが、外形からでは分からない。

 

【外見的な識別点の詳細】

 外見的な識別点の詳細を以下に記す。

1.哨戒装置の撤去(HQS-104吊下式ソーナー、その操作卓などシステム一式)

 ドアを開ければ一目で分かるが、外撮りしている時には、機窓から見える範囲で機器の有無を判断するするしかない。荷物を搭載している場合には識別は難しそうだ。なお、ソナー撤去に伴い、機体下部のソナー吊下用の穴は塞がれている。これは目立つ識別点だ。

写真2-1, 2-2 救難仕様の8455号機と通常哨戒型の8447号機の下面を比べてみる。撮影時には胴体左側のスタブウイングが取り外されていた。また下面の吊下ソナー口に注目する。(2024年3月11日)

 

2.増槽タンクの機内設置

 ソーナーとソノブイランチャーのあった場所に高さ約1.5m、横幅ほぼ一杯(2.5mとしておく)、奥行約0.8mの増槽タンクを設けている。容量を計算すると3,000Lだ。

米陸軍のUH-60Lの外装タンク容量が230ガロン(1ガロンは約4.55 L)というコトなので1,046 L容だな(UH-60Jのタンク容量を記載したサイトをみつけていない) 。すなわちウイングパイロンを設けなくても、外装タンク3本分程度の燃料を積み込めるようになっているということだ。なお、フルに燃料を入れると機体が重くなり、航続距離が伸びなくなる。どのくらいの燃料を入れて運用するのかということは、私には分からない。

写真3 この写真は哨戒型のものだ。救難型では写真に写る機体右側後方のHQS-104吊下式ソナーやケーブル用のリール、機体左側の操作卓などシステム一式が撤去され、吊下ソナー口が塞がれた。代わりに増槽タンクが設置されている。これでも要救助者や資材等を運搬するためのスペースがかなり広がった。(2022年7月18日撮影)

 

3.哨戒装置(AN/ASQ-81, MAD)の撤去

 機体右側後部のウイング下に取り付けられたAN/ASQ-81 MADが撤去された。これは飛行中に数十メートルのケーブルを繰り出して、磁気検知部(赤黄に塗られた弾体のようなもので、MADバードと言われる)を機体後方に曳航して使う装置だ。外見的にはMADバードのみを取り外しただけで、胴体から突き出たウイング部とMADバード支持部(パイロン部分)は残されている。おそらくは支持部内部にあるハズの曳航ケーブル用のリールなど、MADバードの運用に関係する装置一式も撤去されているのだろう(写真2-1, 2-2参照)。

 なお哨戒型でもMADを外して運用するケースがある(整備後の点検飛行、人員等の輸送飛行の場合など)ので、「MADが無い」ということが「救難仕様」であるとは限らない。

・参考:

LDM #257: Magnetic Anomaly Detector AN/ASQ-81(V) - Part 1: Teardown - YouTube

写真4-1, 4-2 MAD一式は撤去されたが、外形的には赤黄の磁気検知部(MADバード)が無くなっただけ。機体左側から見た場合には識別できない。哨戒型であってもMADを取り付けずに運用する場合もあるので識別点とはならない。一例として2023年10月7日の小松基地航空祭に展示されたSH-60K (8420号機)にはMADもFLIRも装着されていなかった。(4-1: 2015年7月26日館山航空基地、4-2: 2023年10月7日小松基地にて撮影)

 

4.AN/AAS-44 FLIR

 公式発表写真やFlyteamさんに投稿された8455号機の写真を見ると機首右側にあるハズのAN/AAS-44 FLIRが無いが、その後の飛行中の写真をみるとFLIRは搭載されている。SH-60Kは、これまでもFLIRを搭載しないで飛行している機体が頻繁に確認されている。IRAN時に非搭載であっても、部隊配備後に搭載された例が多数あるので、部隊レベルで搭載可能な装備なのだろう。

写真5-1, 5-2 FLIRの有無は哨戒型と救難仕様機との識別には使えない。上記写真2-1を見て判るように、この時にはFLIRを搭載していた。(2枚とも2020年6月15日、館山航空基地外周より撮影)

 

5.ミサイル警戒装置AN/AAR-60の撤去

 機首左右に2か所、テイルフィンに2か所あったAN/AAR-60センサが無くなっている。取付けマウント部は残っているものの、全面白塗装になっており、黒いセンサ部分が見当たらない。ミサイル警戒装置とCMD (AN/ALE-47: チャフフレアディスペンサー)は一体運用されると思うので、この装置も機体内部的には撤去されていると思う。ただし機体左側にあるディスペンサーの取付基部は残されているようだ。CSARは全く想定してないということだろう。なお、哨戒型SH-60Kであっても、AN/AAR-60を搭載していない機体の写真が時々ネット上に投稿されている。SH-60Kが配備され始めた頃(初期ロットの機体)には搭載されていないことが多かったが、現在では鹿屋基地第212教育航空隊所属機に搭載されていない例が多いように感じる。装置の整備の都合で、優先的に実戦部隊へ装備や部品を回しているのかもしれない。

写真6-1, 6-2, 6-3, 6-4, 6-5 黒い四角形のユニットに丸いセンサー部があるAN/AAR-60ミサイル警報装置。救難仕様機では、これが無くなっている。ただし写真6-1のように哨戒型であっても、これを取り外している例もある。機首にある残り二つの黒いユニット(HLR-108 ESMセンサ。黒色の丸いモノと五角形の半球状のモノでワンセット)も中身は取り外してあるのではないだろうか。(6-1: 2010年5月23日大村航空基地、6-2: 2015年7月26日 、6-3: 2022年11月3日(横浜港護衛艦見学時)、 6-4: 2015年7月26日館山航空基地、6-5:2024年3月11日館山航空基地にて撮影)

 

あとは今後の航空雑誌等での解説記事を楽しみにしております。

【参考】(防衛装備庁の年度別随契契約状況より)

2022年度(令和4年度)末までの救難仕様改修機の調達機数は5機。

2023年度(令和5年度)の調達予算は計上されていないようだ。当初計画では3機を配備することとなっており、その予備機として令和4年度に2機、令和5年度に2機、令和6年度に1機、令和7年度に1機を整備する計画があったが、令和5年度分については予算が認められていない。今後、どのようになるか、フォローが必要だ。

<三菱重工との間で締結された機体改修に関する契約の状況>

令和2年度(2021年03月09日契約) 初度費 1,622,940,000円

令和2年度(2021年03月09日契約)    2機 1,055,450,000円

令和3年度(2022年03月31日契約)       1機    674,861,000円

令和4年度(2023年03月27日契約)    2機 1,318,427,000円

令和5年度(契約なし)        0機        0円

 

【おまけ】

 本機が配備されるとUH-60Jが用廃になります。本Blog的にはこの話の方が大事。

その予想などはコチラに書いてありますので、気になる方はご参照ください。なお、UH-60Jの用廃時期予想ですが、空自のC-1については今のところ的中したものはゼロ。100%外してます(笑)。このような実績を持つ者の予想だということを念頭に置いて読んでくださいネ。

海上自衛隊 H-60系統の展示機 - 用廃機ハンターが行く!

以上