<編集履歴> 21Jul.2025公開、11Aug.2025見直し更新(第2回目、投稿順番変更のため、投稿日時を変更、一部見直し実施)
【概要】
(1) F-86の発展型全天候迎撃機として開発された機体で、初飛行は1949年12月22日。鼻先にレーダーを取付けたり、アフターバーナーを付加したり、”原型”のF-86のアチラコチラに手を加えた結果、部品共通率は25%程度になったという。当初はYF-95Aという名称で発注されたが、朝鮮戦争による財政悪化(予算の取得困難)に対応するため、「新型機じゃないよ、従来機を少し改造しただけなんだよ」という理由で予算を取得するために「F-86D」という名称になったという流れがある(結構、意訳しているので、ホントのことは成書を読んでください)。ソ連から米本土にやって来る(であろう)爆撃機に対して、レーダー誘導で接近し、ロケット弾を一斉発射し、その弾幕で包み込んで撃墜するという発想で作られているので、基本的には自動収納式のロケット弾パックしか搭載していない。後期型および前期生産型の改修型はサイドワンダーを運用できるようにしたが、基本的には「格闘型」戦闘機ではないのだ。
でもってアメリカ空軍では1951年に運用が始まったが、各種技術が発展する速度に機体も人もついていけず、1965年には退役している(新型機種を買って使った方が、早くて、安くて、楽で、性能もイイ!ということになったようだ・・・意訳です)。そのくせ、NATO各国、中南米や東南アジア諸国などに、ダウングレード版(F-86K/L)や中古機を売りまくっているな>アメリカ政府
※太平洋戦争末期からベトナム戦争末期ごろまでに開発された軍用機には、技術的な試行錯誤の話と予算/政策の話がもつれあっているので、面白いエピソードが多々ありますね。ホントの話は成書を読んでください。
(2) 韓国空軍では1965年前後にMAP供与を受けて導入したが、正確な受領時期や機数はまだ調べていない(韓国内の全機展示場所確認作業を先行させているため)が、F-86D-35/-45が含まれている(ドラッグシュートを後付けした機体はサブタイプ+1となるので-36/-46)。航空自衛隊機との違いは自衛用サイドワインダーの運用ができること。このためランチャーを装着した展示機も現存している。
(3) 現在、韓国に残存するF-86Dは確実9機、不確実1機の合計10機だ。
【展示機 Displayed F-86Ds】(cn.順にしてみました)
(1) F-86D-35 (424, 51-8424, cn.173-557, 35.0710N / 128.0618E)
慶尚南道泗川市のKAI航空宇宙博物館の屋外に展示されている。元は汝矣島総合安保展示場の機体。F-86Dの武装はロケット弾パックのみという先入観があるが、本機は汝矣島に展示されていた頃からAero38ランチャーを主翼に取り付けている。かつてソウルの科学博物館屋上に展示してあったF-86D(後述)にもランチャーが付いていたのだが、この機体が撤去された現在では、韓国内で一般人が見られるF-86Dの中では唯一Aero3Bランチャー付の機体となった。
【慶尚南道】サチョン(泗川)市のKAI 航空宇宙博物館 - 用廃機ハンターが行く!

写真1 韓国内で唯一サイドワンダー用ランチャーを付けたF-86D。胴体下の120galタンクは「どこからか持ってきた1本をただ置いてある」だけ。F-86シリーズは主脚収納ドアのヒンジ部が胴体中央線に沿ってあるので、吊下物は搭載できない。胴体のハングル文字は「大韓民国空軍」。(2019年10月26日12時45分ごろ撮影)
(2) F-86D-35 (18456, 51-8456, cn.173-589, 35.8276N / 128.5893E)
大邱広域市南区の洛東江戦勝紀念館に展示。2008年5月訪問時には垂直尾翼に"8456"と記されていた。
【大邱広域市】洛東江勝戦紀念館の展示機 - 用廃機ハンターが行く!

写真2 洛東江戦勝紀念館のF-86Dにはタービンラインの赤帯が機首に描かれていたり、ノーズに赤いワンポイントがあったりするF-86D。胴体のハングル文字は「大韓空軍」。(2019年8月29日10時30分ごろ撮影)
(3) F-86D-35(28445, 51-8445, cn.173-578, 33.3034N / 126.3000E)
済州特別自治道西帰浦市の済州航空宇宙博物館にて屋外展示中。1963年2月25日MAP供与で"52445"として韓国へ。元はソウル顕忠院(国立墓地)の52445号機。現在、垂直尾翼に記入されている"28445"、ソウル顕忠院時代の"52445"共に米軍SN "51-8445"とは異なっているので注意。

写真3 済州航空宇宙博物館のF-86D。胴体のハングル文字は「大韓民国空軍」。(2016年3月26日14時50分ごろ撮影)
(4) F-86D-35 (51-8447, 51-8447, cn.173-580, 36.5929N / 126.2946E)
忠清南道泰安郡の韓瑞大学校に展示されている。
(5) F-86D-35 (18502, 51-8502, cn.173-635, 37.5361N / 126.9785E)
ソウル特別市龍山区の戦争記念館に展示。2019年以前には垂直尾翼にS/Nは記入されていなかったが、2023年秋に訪問した際には"18502"と記入されていた。ロケット弾ポッドを下ろしているが、ロケット弾は1本も入っていない。

写真4 戦争記念館のF-86D。 (2023年10月20日16時ごろ撮影)
(6) F-86D-45 (958, 52-3958, cn.190-361, 37.7222N / 128.9985E)
江原道特別自治道江陵市の江陵統一公園に展示されている。元はどこかの基地でデコイとなっていた機体のようだ。
【江原道】ガンヌン(江陵)統一公園(ガンヌン(江陵)) - 用廃機ハンターが行く!

写真5 駐車場脇にあるF-86D。胴体のハングル文字は「大韓民国空軍」。(2014年03月22日15時30分ごろ撮影)
(7) F-86D-45 (52022, 52-4022, cn.190-425, 34.6475N / 127.1995E)
全羅南道高興郡の高興湾防潮堤公園に展示されている。2006-2007年頃までソウルのポラメ公園に展示されていた機体の垂直尾翼には”524022”と描かれていた(自ら撮影した写真にて確認)ので、この機体を移設した可能性がある。J.B.のリストを見ると、”52-4022(190-425)”はソウルのポラメ公園にあるとしたところで記述が止まっていて、こちらへの移設の話は記載されていない。
【全羅南道】高興郡(コフングン)の展示機 - 用廃機ハンターが行く!

写真6 高興湾防潮堤公園のF-86D。この時は太陽が厚い雲に覆われ、この周辺だけ光が無かった。(2023年11月4日10時30分ごろ撮影)
(8) F-86D (51928, SN?, cn.? 37.2457N / 127.0099E)
京畿道水原市、水原基地のゲートガード機。2025年4月度のスペースチャレンジおよび6月のファントム引退式典時に確認された。(注:私自身は未訪問)
(9) F-86D (51990, SN?, cn.? 37.0728N? / 127.0302E?)
京畿道平澤市の在韓米軍烏山空軍基地にあるとされるが、このことを記載しているのはBobOgdenのSN本第2版のみで、他サイト等での記録は見つけていない。GE-Proの衛星画像を見ると、基地内および隣接した飛び地に合計4機の”F-86”が確認できるが、いずれもF-86Fのようにも見える。今一つハッキリとはしない。当面は「FかDかハッキリとしない不明機」という中途半端な位置づけにしておく。
(10) F-86D (62935, SN?, cn., 36.5770N / 127.5236E)
【忠清北道】清州の韓国空軍士官学校(空軍博物館)と周辺の展示機 - 用廃機ハンターが行く!

写真7 空軍士官学校のF-86D。(2005年10月24日11時30分ごろ撮影)
【展示後に撤去もしくは移設】
(1) F-86D (55352, SN?, cn.?, 37.5819N / 126.9969E)
ソウル特別市鍾路区の国立科学館(現 国立子供科学館)の屋上に展示されていたが、2017年頃の改装工事の際に撤去された。その後は行方不明となっている。
【ソウル】国立科学館のF-86D(撤去済、記録) - 用廃機ハンターが行く!

写真8 かつて国立科学館の屋上に展示されていたミサイルランチャー付きのF-86D。(2009年5月5日撮影)
(2) F-86D (447, SN?, cn.?, 37.5508N / 127.0848E)
ソウル特別市広津区の子供大公園内に展示されていたが 2008年ごろの改修工事の際に撤去され、以後は行方不明となっている。後部胴体に"447"という3桁数字のみが記入されていた。
【ソウル】オリニ大公園の機体(撤去済、記録) - 用廃機ハンターが行く!
(1) F-86D (447) ロケット弾ポッドは下がっていたが、ロケット弾(ダミー)は入っていなかった。

写真9 かつてオリニ大公園に置かれていたF-86D。(2004年11月21日撮影)
(3) F-86D-35 (424, 51-8424, cn.173-557)
ソウルのヨイドにあった総合安保展示場の展示機で、1975年12月26日にはすでに展示されていた。この展示場は1994年頃に閉鎖され、機体はサチョンのKAI航空宇宙博物館(上述)に移設された。
【ソウル】ヨイドの総合安保展示場(閉鎖、撤去済、記録) - 用廃機ハンターが行く!
(4) F-86D-35(28445, 51-8445, cn.173-578)
ソウルの国立顕忠院(国立墓地)に展示されていたが、2009年頃に撤去された。2000年頃以前には迷彩色だったが、撤去前の頃には銀地に塗り替えられていた。機体はその後、済州航空宇宙博物館(上述)に移設されている。
【ソウル】国立ソウル顕忠院(撤去済、記録) - 用廃機ハンターが行く!
写真10 ソウルの顕忠院に展示されていたF-86D。胴体に書かれたハングル文字は「大韓民国空軍」。(2008年5月5日撮影)
(5) F-86D-45 (524022, 52-4022, cn.190-425)
2006-2007年頃までソウルのポラメ公園に展示されていた機体で、撤去後に全羅南道高興郡の高興湾防潮堤公園に移設されたものと考えている。J.B.のリストを見ると、”52-4022(190-425)”はソウルのポラメ公園にある旨を記述したところで止まっており、高興湾防潮堤公園へと移設されたことについては一言も触れていない。

写真11 整備前のポラメ公園に置かれていたF-86D。キャノピーが壊れていた。胴体に書かれたハングル文字は「大韓民国空軍」。(2006年3月13日撮影)
【参考】
(1)「韓国セイバー展示機総覧(前編)」大路聡、航空ファン2020年9月号No.813、p.70-75
(2)「韓国セイバー展示機総覧(後編)」大路聡、航空ファン2020年10月号No.814、p.68-73
(3) その他、航空ファン誌2008年7月号以降に掲載された大路聡氏による韓国関連記事多数。
※なお、上述リストとこれら参考文献の内容の照合はまだ行っていません。確認は後回し。全機リスト作成を先行させます。
以上