用廃機ハンターが行く!

アジア各地に転がる用廃機を見に行くためのガイド(?)

【メモ/備忘録】Kawasaki EC-1

<編集履歴> 20Feb.2024公開、03Apr.2024見直し更新(第5回目、ALE-41の記述見直し)

 

【はじめに】

 2024年度末までに引退するという地元説明会用の資料が存在するEC-1。世界にたった1機の貴重な機体だけれど、用廃後に展示機となることは、まず間違いなく無いだろう。ならば、せめてその記録をキチンとまとめておくことが必要かな、などと思う。

・参考;EC-1、2024年度末までに退役 - 用廃機ハンターが行く!

 だけど電子戦機に関する航空自衛隊の公式資料はほとんど無いし、推測しようにも、物理で波(光・電磁波)の性質を理解していないと電子戦理論を説明することも、理解することも難しい。ここは無難に一般に入手可能な書籍や資料等から得られる「ヒコーキ写真マニア目線」でのEC-1のお話として、まとめておこうと思う。

 例によって資料を集めつつ、書きながら進めるので、本記事が「大作」となるのは数年後の見込みだ(そもそも電子戦の知識が無いのに書けるのか?>自分)。

 記事をUpすると一時的にアクセス数が増えるけれど、今日の時点では中身はありません。あしからず。年単位の間隔で「話が増えているかな?」と見に来ていただければ幸いです。

 最後に、本記事に掲載した写真は特記しない限り、全て入間基地周辺で撮影したものです。

写真1,2 EC-1の左右側面写真。日によって当たり外れはあるものの、今のうちに入間基地に通って、その姿を自分の目で見ておこう。(写真1: 2022年6月27日、写真2: 2024年1月17日)

 

【概要】

(1) C-1(78-1021)を「レーダー妨害用」の電子戦訓練機に改造した、世界に1機しかない超ド珍機。訓練用とはいえ「使おうと思えば(実戦で)使える」(もちろん自殺行為に近い)ので、2020年頃に発行された韓国の国防白書(英語版)では「日本の保有する電子戦機」の中にカウントされている。(ちなみにJ/ALQ-3を搭載したYS-11Eも「レーダー妨害用」訓練機であったが、搭載機器をJ/ALQ-7に更新して「通信妨害用」支援機のYS-11EAとなった)

(2) 国産の機上ECM訓練装置J/ALQ-5(のちにJ/ALQ-5改へ換装)を搭載。外形的には機体前後に大きなレドーム、側面に小さなレドーム4個、機体下面に小さなレドーム2個を装備する。機体前後のレドーム形状からずんぐりむっくりとした感じとなり、(特にノーズ形状から)「カモノハシ(さらに転じて”カモちゃん”)」とマニアの間で呼ばれることが多い。

写真3 機首の形状から、マニアの間では「カモノハシ」と呼ばれることもある。

(2024年1月18日)

 

【中身の話(J/ALQ-5とJ/ALQ-5改)】

 機上ECM訓練装置J/ALQ-5(部隊使用承認前の型式名称は頭に”X”がついた”XJ/ALQ-5”)は警戒管制レーダーや地対空ミサイル用のレーダー、戦闘機や偵察機のレーダーに対して電子妨害をかける装置だ(文書上では”電子戦環境を模擬する装置”という)。電子戦の内容にはレーダー妨害、通信妨害などがあるが、レーダーに「目潰し」を仕掛けて、探知されなくするのEC-1の役目。探知されたとしても、その情報を迎撃機に渡さないようにする(通信情報妨害)のがYS-11EAの役目と思ってくれればよいだろう(どんなに遠くのものをみつける能力のあるレーダーであっても、その探知情報を迎撃機に伝えることが出来なければ意味がない)。

 ちなみにYS-11Eに搭載していたJ/ALQ-3は「電波妨害」(レーダー妨害)装置なので、「通信妨害装置」であるJ/ALQ-7を搭載したYS-11EAに改造された時点で、その役割は大きく変化している。

<XJ/ALQ-5とJ/ALQ-5>

(1) 前述の通り、開発期間中の装置名称はXJ/ALQ-5、部隊使用承認されてからはJ/ALQ-5となるが、本Blogでは特にこだわらない限りはJ/ALQ-5と称する。1978年9月に主契約企業を三菱電機として基本設計が開始された。XJ/ALQ-5の試作が開始されたのは1979年10月とされる(1979年度下期スタートということやね)。

(2) J/ALQ-5のシステム構成は電源部、受信部(周波数変換器、狭帯域受信機)、信号処理/計算機、表示/操作部、送信部、妨害電波発信アンテナ(高域帯用に左右胴体側面に4基)、妨害電波発信アンテナ(低域帯用に機首に2基、機尾に2基の合計4基)といったところかな。

(3) 性能的な話をまとめると次のようになる;

・各種レーダー(警戒管制、地対空誘導弾の目標補足、誘導、戦闘機)などに対して”電子戦環境を模擬する”(要は電子妨害をかける)。

・アンテナにフェイズドアレイ(電子走査)式を採用

・信号処理を自動化することで多目標へのECMが可能

・広い周波数帯で妨害電波を発信し、多数のレーダーを妨害可能

・発信用電源の強化により、EC-46D/YS-11Eに搭載していたJ/ALQ-3の10倍程度(以上)の出力で妨害電波を発信可能

(4) C-1への搭載設計は、川崎重工にて1980年11月に始まったという。年度内にその結果をまとめ、技術研究本部に提出した。予算や準備の都合か、機器開発の都合なのかは不明だが、1981年度は何事もなく終わり、C-1の021号機がIRANに入るタイミングとなった1982年度~1984年度にかけて、XJ/ALQ-5を搭載するための機体改造を行った。改造後の初飛行は1984年12月3日。1985年1月末に航空自衛隊に引き渡されたとされる(文献により1985年3月末であったり、1986年1月末だったりする。85年3月末は「1984年度末」の読み替えだろう。また1986年1月末説は85年と86年を間違えたか、あるいは単なる誤植と推定)。

<J/ALQ-5能力向上型とJ/ALQ-5改>

(1) 周辺環境の変化により、2000年代初頭にJ/ALQ-5の更新を図ることになった。新たに整備するECM訓練装置を”J/ALQ-5能力向上型”と称するが、部隊使用承認が得られた際に”J/ALQ-5改”となった。本Blogでは、特にこだわらない場合には、部隊使用承認を得られる前のものも含めて”J/ALQ-5改”と称する。

(2) 2008年に搭載機器をJ/ALQ-5改へ換装。当初の評価・確認試験は1年間の予定であったが、雨漏り(文書表現は「雨水による不具合」)による異常を生じたため、その対策等を実施するために試験は1年間延長された。おかげでマニア的には2008年と2009年の2回、岐阜基地公開の際に本機を間近に見る機会に恵まれている。

https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11339364/www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/results/24/jigo/youshi/05.pdf

https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11339364/www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/results/24/jigo/honbun/05.pdf

https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11339364/www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/results/24/jigo/sankou/05.pdf

https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_1283286_po_TRDI50_09.pdf?contentNo=9&alternativeNo=

https://www.mod.go.jp/atla/soubiseisaku/vision/rd_vision_kaisetsuR0203_01.pdf

写真4 入間基地の滑走路南端に向けてタキシングするEC-1。YS-11EBが後ろに続く。(2019年2月7日)

 

【外形的な特徴】

 J/ALQ-5(改を含む)を搭載したEC-1の細部を「ヒコーキ写真マニア目線」で見てみよう。モデラーさんほど細かくは見ていないので、突っ込んでやってください。

 なお、私たちが見ている(見えている)”黒色の丸い部分”は、あくまでアンテナフェアリング(アンテナの覆い)であって、「J/ALQ-5」や、「そのアンテナ」ではない。自衛隊側ではこれを通常「レドーム」と称しているようだ。本来「レドーム」とは「レーダーアンテナ」の覆いのことを指すのであって、「妨害電波発信用の”アンテナ”」の覆いのことは、やはり「アンテナフェアリング」というべきかな、などとも思うが、私自身が明確な定義を知らないので、本Blogでは両者を混在させて記載する。文字数が少なくて済む「レドーム」という用語を多用すると思うが、気になった方は指摘してください。

<前部胴体>

(1) 機首に妨害電波発信アンテナ(前方方探妨害空中線(低域帯用))を2基収めた大型レドームがある。これは本機の最大の特徴だ。このレドーム内の機軸上中心部には気象レーダーのアンテナがあり、その両脇に2基の妨害電波発信用アンテナが、機軸から45度くらい(正確な角度は不明)傾けて、外側に開くよう(上からみてハの字になるように)に設置してある。前述のように妨害電波発信用のアンテナは電子走査式なので首を振ることはなく、アンテナ自体は固定されている(注:気象レーダーは首を振ります)。操縦席の左右の窓下には、高さの低い整流板のようなものが取り付けられている。小さな模型では、この整流板(?)が省略されていることがあるので、注意しておこう。

(2) 機体左右の主翼前の胴体側面には妨害電波発信アンテナ(前方方探妨害空中線(高域帯用))のレドームがある。これは上側を胴体側との接続部(ヒンジ)として上側に開く。上部の取り付け部には整流版のようなものが取り付けられているが、これは上前方から垂れてきた雨水がレドーム内に侵入しないようにしたレインチャンネル(雨樋)とのことで、後部のレドームにも同様のレインチャンネルが設けられている。これも小さな模型では省略されていることがあるので、注意する。

(3) バルジ前下方にはALE-41チャフディスペンサー装着時のハードポイントがあるが、通常は塞がれていて、よく見ないと、どこだか分からない。

(4) 装備とは関係ないが、左側面の乗降ドア(特に風上側)はやたら汚れていることが多い。機首レドームからの気流や機器冷却後の空気が当たることが原因なのか、与圧シールが甘く、与圧時に機体内部からの汚れ(ロック機構など可動部のオイルやグリス)が機体内部から浸み出して来るのか・・・?

写真5-1 機首部(2017年10月23日)

 

<中胴部>

(1) 胴体下面中央の主脚扉前あたりとバルジ後縁部あたりの二か所にアンテナフェアリングがあるが、用途は不明。(相手側レーダーの受信アンテナかしらん?)

(2) 左右のバルジ側面にはそれぞれ2か所のエアスクープ(冷却用空気取入口)が設けられている。

写真5-2 中胴部。主脚前後に見える、機体下面2か所の半球状アンテナに注目。(2017年10月23日)

 

<後胴部>

(1) 機体左右のドア上後方の胴体側面には妨害電波発信アンテナ(後方方探妨害空中線(高域帯用))のレドームがある。前述した通り、胴体取付部上部にはレインチャンネルが設けられている。

(2) 機尾に妨害電波発信アンテナ(後方方探妨害空中線(低域帯用))を2基収めた大型レドームがある。妨害電波発信用アンテナは機首のものと同様に機軸から45度くらい(正確な角度は不明)傾けて、素子面が外側に開くよう(上から見て機尾側がすぼまったハの字のように)に設置してある。レドームの上後部には、かなり大きめの整流版が取り付けられている。

(3) 垂直尾翼の付根前縁付近の左右胴体上部にエアスクープ(冷却用空気取入口)がある。

(4) 胴体下面中央、日の丸の前縁の下あたり(下に開くカーゴドアの先端下部付近)に小さなアンテナフェアリング(?)がある。通常のC-1にも見られるが、それよりはやや大きいように思われる。通常のC-1であれば、カーゴドアを降ろした際にドアを傷つけることを防ぐための衝撃干渉装置(ショックアブソーバー:簡単にいうと整形したクッション用ゴムの塊)だと思うが、カーゴドアを降ろさないはハズのEC-1でも必要なのだろうかね?搭載機器着脱の際にはカーゴドアを下げることもあるだろうか?)

写真5-3 後胴部。目につくのは尾部と空挺降下用ドアの上後方に設けられたレドームだ。垂直尾翼の付け根先端付近のエアスクープも要チェック。(2017年10月23日)

 

【AN/ALE-41チャフディスペンサー】

(1) AN/ALE-41チャフディスペンサーは、ポッド内部にアルミ箔のロールを搭載し、設定された適度な間隔で、これを切り刻みながら排出するというタイプのチャフ散布装置だ。長さ約3,363mm、直径約498mm、重さは空で99.8kg程度、中身が入って250kg程度といわれる。諸元には諸説あるので「大体これくらい」という感覚で捉えていて欲しい。チャフロールを切り刻む間隔設定などの細かいハナシはシミュレーションゲームWarThunderのサイトの記述が良さそうだが、原典/出所不明な情報なのでホントの話かどうかは判らない(注:WarThunderのサイト以外にAN/ALE-41の英文スペック記事をまだ見つけていない)。国産ライセンス生産品はJ/ALE-41というが、本記事では単にALE-41と記載する。

・参考URL:Dispensing Set, Countermeasures Chaff AN/ALE-41

(2) 航空自衛隊では1982-83年頃に岐阜基地で評価試験を行っていた。1983年2月16日にはsta.2/8にALE41を搭載した97-8422号機が岐阜基地にアプローチする姿が目撃されている(AR誌1983年5月号No.454, p.100、なお、この時のキャプションは”AN/ALE-40”となっている)。1983年8月31日には303sqn.に所属替えとなった同機(97-8422)がALE-41を搭載している姿が小松基地にて目撃されている(KF誌1983年12月号p.60)。また翌月9月5日からは岐阜基地でALE-41を搭載した67-8389(7空団301sqn.からのリース機)が目撃されている(KF誌1983年12月号p.60)。1982年度はALE-41を入手/搭載して空力的に問題の無いことを確認し、1983年度に運用試験を行っていたものと考えている。その後、数セットを購入して、F-4EJやT-2に搭載して訓練に用いていた。(1985年前後に、岐阜基地でALE-41を両翼下に搭載したT-2の写真を雑誌で見たような記憶がある。F-4での運用試験が終わった後にT-2での運用検討が行われたのだろう。) 

(2) EC-1にはこのALE-41ポッドを左右のバルジ前の前部胴体側方下部に1本づつ、計2本を取り付けることができるよう、ハードポイントが追加されている。取り付ける際にはハードポイントにパイロンを取付け、そこにALE-41ポッド取付ける。なお、ALE-41を取付けることはできるが、その形態で運用する姿の目撃例は少ない。Flyteamさんに投稿されたALE-41を装着したEC-1の撮影日は1987/3/26、1992/10/28(パイロンのみ)、1993/5/1頃、1994/3/1頃、1996/6/1頃、1997/3/1頃、1975/1頃(パイロンのみ)と、年間1~2回程度。5~6月頃と年度末に目撃例が多かったようだ。

 J/ALQ-5改を搭載した2008年以降では、試験評価飛行時を除くと2011/7/8、2011/7/26、2012/12/7の3回のみ。2013年以降のALE-41搭載例は今のところみつけていない(X上にはALE-41を搭載したEC-1の写真が数多く投稿されているが、撮影日が不明なものが多く、歴史的検証用としては使えない)。

 航空自衛隊のレーダーサイトでは2004年から6か所のレーダーをJ/FPS-4に換装している。6か所目を換装した時期は不明だが、毎年1か所の予算を付けていれば、2010年には換装終了となる。J/FPS-4以降のレーダーではECCM能力が向上して、レーダー反射物が空中を漂ってチャフコリドーを形成しても、ある一定速度未満の移動距離しかない反射物は(レーダー反射の受信データから)排除してしまえば意味をなさなくなる。このような機能がレーダー側に備わったため、チャフコリドーの形成という妨害手段がつかえなくなり、よってALE-41の存在意義が無くなったのではないだろうか。

 また2014年度にはパトリオットミサイルPAC-3が全国配備完了している。これに伴うレーダー関連の仕様変更(探知能力向上)も関係しているのではないかと、なんとなく思っている。

(3) 余談となるが、私自身はF-4EJやT-2にALE-41を搭載している姿は見たことがあるが、EC-1がこれを搭載した姿は見たことが無い。また、ネット上には「F-1やT-4に搭載可能」という記載があるが、私自身はF-1やT-4に搭載した姿は雑誌上の写真を含めて見た記憶がない。F-1の場合には「F-1迷彩のT-2」に搭載した例を見間違って伝えているのではないだろうか。なお自分の記憶に自信がないので、搭載可能機種と搭載例についてはチョイトばかり調べてみる必要がありそうだ。読者の皆様にはF-1やT-4にALE-41を搭載した例の写真が掲載されている雑誌等をお持ちでしたら、ご紹介いただければ幸いです。

 

垂直尾翼の部隊マーク】

 EC-1に改造されてから38年間は、APW/ADTWでの試験期間も含めて垂直尾翼に部隊マークが入れられたことは無かった。だが、2023年11月04日に入間基地で行われたEC-1/YS-11EA/海自UP-3Dを集めた部隊間交流行事の際に、EC-1の垂直尾翼に「ヘルメットを被ったカラスが脚先から電光を発している」図案のマークが初めて入れられた。イベント時だけの余興かと思われたが、2日後の11月06日には、このマークをつけたままでフライトをする姿が初めて確認された。これ以後はマークを入れたままでフライトが行われている。

 ※部隊マークでは無いが、航空自衛隊50周年となる2004年度には「JASDF50」という記念ロゴマークをALE-41用のハードポイント上部やや前方に貼付して運用していた。

写真6 垂直尾翼に入れられたマーク。(2024年1月18日)

 

【空撮写真】

 EC-1の空撮写真が公表されたケースは次の2例だけかと思う(ちなみにYS-11EA/EBの空撮写真の公表は皆無じゃないかな?)。そんなワケで、関係者の皆様には「空撮で機体を上から見下ろしたショットを残してよぉ!」というリクエストを記しておく。ホントに希望する方はSNSでつぶやくのではなく、入間基地の電子戦隊あてにファンレターを直接送付した方が、おそらくは効果的かと思う(まぁ、ダメ元でやってみなはれ)。

(1)「空撮・電子戦訓練機 EC-1&YS-11E 妨害と欺騙の空」瀬尾央、航空ファン1999年10月号p.41-47(EC-1の写真はp.41-44): 民間人カメラマンが公表を前提に空撮を行うことができた、おそらくは唯一の空撮機会の写真を掲載したもの。

(2) 「やや前方からEC-1の左側面を写した写真」撮影者不詳:恐らくは航空自衛隊の公式写真。撮影機と並行して飛行する、何のひねりもないEC-1を写したもの。いくつかの媒体で見ることができた。

 

【一般公開の記録】

 「怪しい機体」だが、岐阜基地航空祭にて過去4回の一般公開が行われている。いずれも岐阜基地で試験を行っている最中の公開だった。入間基地に配備されたあとの正規の運用期間中に、入間基地の公開行事で展示されたことはない(注)。

<一般公開日の記録>

(1) 1985年09月29日 岐阜基地 改造後に試験評価している最中の展示

(2) 1986年05月18日 岐阜基地 改造後に試験評価している最中の展示

(3) 2008年11月30日 岐阜基地 J/ALQ-5能力向上型に換装した後の試験中の展示

(4) 2009年10月12日 岐阜基地 J/ALQ-5能力向上型に換装した後の試験中の展示

注:2024年1月20日に開催予定だった2023年度の入間基地航空祭では、オープニングでEC-1がフライパスを行い、その後に地上展示される予定となっていた。しかし、同年1月1日午後に発生した令和六年能登半島地震の対応のため、基地祭自体がキャンセルされてしまい、「運用中のEC-1の地上展示」は夢と消えてしまった。なお、基地祭やランウエィウォークなどの公開イベント時に「正規の地上展示機」ではなかったものの、「そこそこ撮影できる場所に置かれていた」ことは何度かあったことは記録にとどめておこう。2024年度の入間航空祭では「実機として最後に展示されるか」「用廃機が展示されるか」「展示されないか」と期待ワクワクですね。

写真7-1, 7-2 岐阜基地航空祭で展示されたEC-1。(上:2008年11月30日、下:2009年10月12日)

 

【EC-1に関するウワサ話】

 基地外周で撮影をしていると、ヒマな時間のマニア同士の「情報交換」では、出所不明のウソかマコトか分からない話がイロイロと耳に入って来る。そんな話を3つばかり紹介しておこう。

<その1>

 1980年代に開発されたJ/ALQ-5は巨大なシステムとなった。EC-1の開発要求事項に「母機の改造は最小限にとどめること」とあったが、結果として「カモノハシ」になってしまった。計画図面を見た官側は「これが最小限?」と驚いたとか。メーカー側曰く「要求された装置を取付けた以外は、母機に手をつけていません!」

<その2>

 電子関連機器の小型化、高性能化の発展速度は目覚ましく、J/ALQ-5改のシステム構成アンテナは小型化することに成功したという。このため、換装後のEC-1ではレドームを小さなものにすることも可能だったが、外形を変えると空力試験を行う必要が生じる。そうするとお金も時間も人手もかかるので「このままでイイや」となったそうな。だから、今のEC-1のレドーム内はスカスカなのだとか・・・。

 念のために繰り返して書いておくけれど、基地外周でマニア同士の”情報交換”で聞いた、ホントかウソか分からない話だからね、これは。

 さて、以前はネット上で見られた「事後の政策評価」の中で、アンテナを含むJ/ALQ-5改の構成装置(試作品)の写真が掲載されていた(注:今では、この政策評価自体が見られなくなっている)。このアンテナが従来に比べて、どのくらい小さくなっているのかは、旧型のJ/ALQ-5の外観が公開されていないので、比べることはできなかったのだな・・・。

<その3>

 J/ALQ-5改の開発試験の総仕上げ段階では、全機最大出力試験を実施することになった。ところが困ったことに、日本国内でこれを実施する場所が無いのだ。陸上や日本近海(太平洋側)で試験をすると、恐らくは国内の無線通信網がズタズタになってしまい、経済混乱を引き起こしたうえ、トンでもない額の賠償金を請求される(防衛省が税金から支払うのだから、開発現場にゃ関係ねーや。オレ達は要求仕様通りの優れたモン作ったんだぜぇ。要求通りの性能を発揮させて、どこが悪い?との声あり)。日本海側のGエリアで実施すると、対岸の国々に性能がバレてしまう恐れがある。硫黄島まで飛ぶのは機内燃料の都合でリスクが大きい(EC-1にはC-1の末期生産型に設けられた主翼内の増加燃料タンクは装備されていないとされるが、これも真偽不明)。

 検討の結果、硫黄島に行くしか手段が無いという結論に至った。そこで機内の計器の隙間に小型燃料タンクをいくつか設置して飛んで行ったという。「急造の燃料配管から燃料が漏れることなく、空中で火災を起こさずに無事に到着できた!」ということの方が、最大出力試験よりも重要事項だったそうな。

 もちろん、最大出力試験は問題もなく終了したが、こちらは「成功して当たり前だろ」の一言で片づけられたとか・・・。また「これでアメリカには性能を知られてしまった」との声もあったそうな・・・。

 ハナシの流れ的には、よくできた「ウワサ話」だと個人的には思っている。ポイントごとに事実が混じっているのだろう。

 

【まとめ:C-1/EC-1 (78-1021号機)に関するイベント年表】

1976年12月04日 岐阜基地にて引き渡し前にタキシング試験をするC-1(78-1021)の姿が撮影されている

1977年01月28日     C-1(78-1021)引き渡し。第401飛行隊に配備

1978年9月    機上ECM訓練装置の基本設計開始、主契約企業は三菱電機

1979年02月03日 C-1(78-1021)に第401飛行隊マークが入っていた

1979年10月   XJ/ALQ-5の試作開始

1982年06月30日 C-1(78-1021)に第403飛行隊マークが入っていた

1982年度    IRAN入場、同時に改造開始

1984年12月03日 EC-1初飛行。チェイサーは航空実験団(APW)のT-33A(61-5213)

1984年12月17日 主に前胴に気流子を付けて社内飛行試験実施

1985年03月末  EC-1航空自衛隊に引き渡し

1985年04月   航空実験団(APW)による実用試験および技術試験協力開始

        (この時点での搭載機器の名称はXJ/ALQ-5)

1985年09月29日 岐阜基地航空祭で展示される

1986年01月31日 航空自衛隊に納入

世界の傑作機C-1(2022)p.132)より。1985年1月31日の間違いか?)

1986年03月   航空実験団(APW)による実用試験および技術試験協力終了

1986年05月18日 岐阜基地航空祭で展示される

1986年06月27日 部隊使用承認を受け、以後はXが取れてJ/ALQ-5となる

1986年07月16日 入間基地航空総隊司令部飛行隊電子訓練隊にて正式運用開始

1993年06月30日 電子訓練隊廃止

1993年07月01日 電子戦支援隊(EC-1/YS-11EA)発足

2002年度    J/ALQ-5能力向上型の開発開始

2006年度    IRAN入場と同時にJ/ALQ-5能力向上型への換装作業開始

2008年11月   飛行開発実験団(ADTW)による実用試験および技術試験協力開始

2008年11月30日 岐阜基地航空祭で展示

2009年10月12日 岐阜基地航空祭で展示

2010年03月   飛行開発実験団(ADTW)によるJ/ALQ-5能力向上型の実用試験

                              および技術試験協力終了

2010年度    部隊使用承認。以後、J/ALQ-5改となる

2011年度    正式運用開始

   (2010年度の部隊使用承認から2011年度初めまで、何もしなかったのかな?)

2014年08月01日 航空戦術教導団電子作戦群電子戦隊(EC-1/YS-11EA)発足

2023年11月04日 基地内行事の際に垂直尾翼に部隊マークが貼られる

2023年11月06日 上記マークをつけたままの姿で、初のフライト確認

2023年11月中旬~下旬 統合演習にて浜松基地に展開し、土日も含めてフライトを実施。快晴、順光、マーク入り、背景に雪を被った富士山入りという最高の条件下で本機を撮影された方は多かったのではないだろうか(私は浜松に行ってない)。

2024年度 用廃予定(YS-11EAも用廃予定なので、電子戦隊は閉隊か?)

写真8 離陸するEC-1。お腹の様子を残すために必要なカットだ。(2021年11月25日)

 

【参考】

私自身が目を通していないけれど、読んでみたいと思うものも混じってます。

(1)「空撮・電子戦訓練機 EC-1&YS-11E 妨害と欺騙の空」瀬尾央、航空ファン1999年10月号p.41-47(EC-1の写真はp.41-44)

(2)「航空自衛隊の電子戦飛行隊」小林健航空ファン1999年10月号p.70-74

(3)「空自の航空機搭載用ECM機材」小林健航空ファン1999年10月号p.75-77:ALQ-5/-7以外のお話。

(4)世界の傑作機「特集 川崎C-1」1979年1月号No.105、文林堂

(5)世界の傑作機スペシャル・エディションVol.9「川崎C-1」(2022)、文林堂:上記(2)、(4)の内容も再掲。現在入手可能な資料の中では最も充実した内容の良書

(5)「電子戦の技術 基礎編」デビット アダミー著、東京電機大学出版局(2013)

(6)「電子戦の技術 拡充編」デビット アダミー著、東京電機大学出版局(2014)

(7)「電子戦の技術 通信電子戦編」デビット アダミー著、東京電機大学出版局(2015)

(8)「電子戦の技術 新世代脅威編」デビット アダミー著、東京電機大学出版局(2018)

※航空雑誌のニュース写真として掲載されたEC-1やALE-41など、各種写真の出典は省略します。

写真9 着陸時にも機体下面の様子が判るカットを残しておきたい。(2024年1月18日)

以上