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【中国】基礎編 機種名表記について

<編集履歴> 09Dec.2021公開、13Dec.2021見直し更新(第2回目、教練機の説明追加)

【はじめに】 

 アメリカや日本では開発した機体に対しては用途に準じた英語の頭文字と識別のための番号を付与している(戦闘機はFighterのF、爆撃機はBomberの”B”など)。イギリスでは名称の後に用途に準じた英語の頭文字を付与している(Hawk T1など)。ロシアは主たる設計を行った組織の略称と識別のための数字を付与している(Su-35など)。製造会社の略称や固有記号に識別番号を付与したものもある。世界各国で統一した命名法などは存在していないことが分かるだろう。ここでは中国の軍用機の命名法・表記方法についてまとめておこう。

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写真1 文書だけではつまらないので一枚。JH-7A“飞豹”。(2008年11月8日、珠海航空展にて撮影)

 

【基本原則】

(1) 中国の機体命名法はアメリカ方式に近く、機体の用途を中国語(簡体字、以下同じ)一文字もしくは二文字で示し、これと識別番号を付与して示している。

(2) 中国語で用途を示す部分を中国語の発音(ピンイン)表記の頭文字一文字で示すこともある。

(3) 用途を示す中国語(簡体字)の後ろ、識別数字との間にはハイフンを入れても入れなくてもよい。そもそもルールが無いようだ。すなわち資料や文献を記した著者の好みにより表記方法が異なるということを覚えておいてほしい。ただし慣習的に数字も中国語表記とした場合にはハイフンを入れない。

(4) 数字は中国語(漢字)でもアラビア数字でもよい。こちらも特にルールは無いが中国語簡体字のあとの数字はハイフン無しの漢字数字とすると中国機らしい雰囲気になる。

【例示】

 以上の原則に従った表記をしてみよう。例えば戦闘機系統であれば中国語の"歼”の文字を使うが、その読み(ピンイン)は”Jian”だ。そのピンインの頭文字”J”からピンイン表示をする場合には「J*」と記す。ハイフンはあってもなくても良く、数字は中国語かアラビア数字。すなわち「歼七」、「歼-7」、「J7」および「J-7」という表記になる。これらは全て同じ機種だ。ただし慣習として「歼ー七」と書かくことはほとんどない。

 

【サブタイプ】

 サブタイプは甲(jiǎ)乙(yǐ)丙(bǐng)丁(dīng)あるいはI、II、IIIで、もしくはA、B、Cで付与される。ABC・・・は甲乙丙丁に対応した英語版である場合と、純粋にABC・・・である場合があるようだ。近年(おおむね2000年代以降、J-10以降)に開発された機体の場合には甲乙丙丁という中国語表記ではなくABCD・・・とアルファベット表記でサブタイプを付与しているように思える。

例えば「歼五甲」は「J-5A」と表記されるが、一方で「JH-7A」を「歼轰七甲」とは言わない(書かない)ようだ(「歼轰-7A」あるいは「JH-7A」と表記することが多い)。

 

【本Bogでの表記方法】

 本Blogでは「ピンイン表記でハイフンをつけたアラビア数字」にて記載することにしている。サブタイプ表記は「その時の気分」で甲乙丙丁にしたり、ABCにしたりする。これは私自身が中国の機種表記体系を完全に理解しておらず、参考書や参考としたネット上の記載をそのまま転記しているためである。

【日本語表記】

 日本国内においては中国語(簡体字)に相応する日本語の漢字が存在するため、「中国語(簡体字)に対応する日本語の漢字プラス識別番号」で表記する場合がある。

例: 歼教5 → 殲教5、歼7 → 殲7など  

【英語表記】

 上述の通り、命名方法の考え方はアメリカと同じなので「中国語(簡体字)に対応する英語の頭文字プラス識別番号」で表記することがある。主に輸出機や対外的な発表などにはこの形式で表示されることが多いようだ。

例: 歼教5 → FT-5、歼7 → F7など 

【実例】 

中国語(簡体字)/ 日本語(漢字)/ピンイン頭文字/英語頭文字:意味や使用例の順で記す。

1) 歼 / 殲 / JiānのJ / FighterのF:戦闘機だが中国語を直接日本語の漢字に当てると"殲撃機"(歼击机Jiānjíjī)となる。 歼-5、 歼-10など

2) 强 / 強 / QiángのQ  / AttackerのA:攻撃機だが中国語を直接日本語の漢字に当てると"強撃機"(强击机)となる。强-5のみが存在した(現用無し)。

3) 轰 / 轟 / HōngのH / BomberのB:爆撃機だが中国語を直接日本語の漢字に当てると"轟音炸裂"(轰炸机Hōngzhàjī)となる。轰-5、轰-6など

4) 教 / 教 / JiàoのJ / TrainerのT:練習機:歼教-7、轰教-5など既存の機体を複座型にするなどの改造を施して練習機にした場合、主となる機体を示す文字の次に”教”を置く形をとる。

5) 教练 / 教練 / 教はJiào、練はLiàn、頭文字を合わせて"JL"だ。 / 英語表記は”T”だが、最初から教練機として設計された機体は "JL-"あるいは”L-"を用いることもある。JL-8(K-8へ改称する前)、JL-9、JL-10など

6) 初 / 初 / ChūのC / 英語表記はしない :初等練習機の接頭語、初教-5など

7) 运 / 運 /YùnのY / 英語表記はしない:輸送機(运输机)、运-7など

8) 侦 /偵 / ZhēnのZ / ReconnaissanceのR:偵察機(侦察机)、歼侦-6、轰侦-5など、主となる機体を示す文字の次に”侦”を置く形をとる。

9) 空警 / 空警 / Kōng JǐngのKJ / 英語表記はしない: 早期警戒機、空警-200など

10) 水轰 / 水轟 / Shuǐ HōngのSH / 英語表記はしない:飛行艇、水轰-5のみが存在した(現用無し)

11) 油 / 油 / 油はYóuだが頭文字は运と同じYなので発音の似ているUを使用/ 英語表記はしない:空中給油機:HU-6(試行機か?)。なお2021年に台湾付近にてY-20を改造した空中給油機が確認された。台湾報道では本機を運油-20としているが中国側の機種名公表報道を見つけていない。このため本機についての記載はしない。

12) 干 / 干 / GānのG / 英語表記はしない:電子妨害機だが、中国語風に言うなら電子干渉機なのだろうか。轰干-5のみが存在した(現用無し)、2021年珠海航空展に登場したJ-16Dには、その名称の通りこの単語は使用されていない(名称付与体系がすでに変わっている)。

 

【例外事例】

(1) 歼轰-7(JH-7)シリーズは戦闘爆撃機に相当するが"Fighter Bomber China-1(1st.)"の意味で対外的にはFBC-1と称している。

(2) パキスタンと共同開発したJF-17(中国名FC-1, Fighter China No.1の略、中国国内では配備されていない)には上記の命名方式は採用されていない。

(3) K-8練習機の名称は当初はL-8(JL-8)であった。”L”は”練”、"JL"は”教练”に当てられた英文字だ。"教"のピンインは”Jiào”だが、英語でいう”T-*”という形にすると戦闘機の”歼Jiān”と同じ”J-”となり重なってしまうためアルファベットを練習機を示す”L”あるいは教練機を示す”JL”に変えたものと思われる。だが共同開発したパキスタンとの友好を示す意味で両国の間にあるKLAWQUELEN(喀喇昆仑山)の頭文字を使って”K”に変更された。えい、ややこしいなぁ!

 

【余談】

1. 一人の著者が書いた記事の中に特に断りもなく「J-7」と「歼7」という異なる表記体系が混在している場合、その著者の頭の中では中国語の機種の表記法が定まっていないと考えて良いだろう。これは中国のことを理解して書いているかどうかを見分ける指標になるのではないだろうか。

2. モノグラフなどの複数の著者の記述の集大成本である場合、著者により「J-7」や「歼7」など異なる表記体系を使用していることがある。これは編集基準が無いか、あっても各個に任せるという放任型の基準なのだろう。どちらの表現が良いという訳ではないが、「今回の特集ではこの表現に統一します」という形にしてくれると読者としては読みやすいように思う。昨今の人手不足や読者離れの現状から、いちいちチェックしてられるか!という編集側の実情・本音も聞こえてきそうだが、参考意見として一筆書いておく。

以上