用廃機ハンターが行く!

アジア各地に転がる用廃機を見に行くためのガイド(?)

【韓国】A-37Bの展示機(ブラックイーグルス使用機のその後)

<編集履歴> 13May.2022公開、19May.2022見直し更新(第1回目、字句表現見直し等)

 

 韓国空軍で使用されていたセスナA-37Bドラゴンフライの展示状況を紹介しよう。

【概要】

 韓国空軍で使用されたA-37Bの大部分は南ベトナム空軍に引き渡されたあと、ベトナム戦争終結時にタイに亡命し、のちにアメリカに返還されて保管されていた機体だ。個別の機体の動きについてはこちらのHPで知ることができるが個人のサイトということもあり”完璧・完全な情報ではナイ”ことに注意する。

Joe Baugher's Home Page

 アメリカに返還されてから、韓国に引き渡されるまでの様子はこちらで確認できる。こちらも個人・有志のサイトなので全機の完全な情報ではない。上述のサイトとScramble on the webのDB、そしてこのサイトをまとめると若干の齟齬があることが分かる。

AMARC Experience - The AMARC Experience

 さて韓国空軍で使用された機数はWikipedia(2022年5月12日閲覧)では23機とされているが、Scrambleのデータベースではでは29機が登録されている。Scrambleのデータベースでは状況不明の機数が6機あるのでWikipediaでは所在の分かる機体だけを取り上げたのだろうと考えている。本Blogでは総数29機説をベースにして話を進める。

 2007年10月末に行われたソウルエアショーにてブラックイーグルス(以下、本記事ではBEと略す)が展示飛行を行ったのを最後にA-37Bは運用を終えたが、のちに8機がペルーに無償譲渡された(2009年11月6日付国防日報によると韓国とペルーは2009年11月4日にA-37Bをペルーに無償譲渡する為の合意書に調印したという。現在はペルーでも全機が退役済)。
 事故抹消が確認されているのは次の2件だ。

1998年5月8日 江原道春川で訓練中に空中接触して1機が墜落、パイロット死亡。機番不明。ScrambleやAviation Safty Networkでは本件を取り上げていない。2006年の水原基地で起きた墜落を報じたニュースの中に過去の事故事例として紹介されているが、1998年の事故発生当時の報道は見つけていない。

2006年5月5日 水原基地での公開演技中(ナイフエッジ実施中と伝えられている)にBENo.6(69-06336 cn.43181)が墜落し、パイロット死亡。

すなわち19機(29機からペルーに譲渡した8機と事故抹消2機を引いた数)が韓国国内に残されていたことになる。

写真1 演技飛行に向けタキシーアウトしたブラックイーグルスのA-37B。(2007年10月20日ソウルエアショー)

 

【A-37Bのシリアルナンバーについて】

 韓国内に残る19機のうち、展示機となった機体を紹介するが、その前にシリアルナンバー(以下、S/Nと略す)の話をしておこう。

 韓国空軍のA-37BのS/Nは米軍S/Nの末尾から5桁を使用している。

 米軍S/Nは「”発注年度西暦下二桁”-”連番で4桁もしくは5桁の発注順の番号”」となっている(4桁に満たない発注番号の場合には頭に”0”をつけて、例えば "0302" のように4桁にする)。このため「末尾から5桁」を取ると頭の数字が「西暦下一桁」となる場合と「発注数の5桁目(通常は1万機台を超えないので”1”しかない)」となる場合が生ずる。このため韓国空軍S/Nを基準にして表計算ソフトで並べ替えると古い機体と新しい機体が混ぜこぜとなってしまうのだな。

 そこで本記事では韓国S/Nを最初に書きながらも米軍S/N順(イコール製造番号順)に並べて記載することにした。また本記事では製造番号をcn.(製造番号construction numberの略)と表記する。他の記事では「cn:」とか「c/n」と表記していることもあるし、参考本によってはMSN(製造者のシリアルナンバーmanufacturer's serial number)と表記する場合もあるが、どれも意味合いは同じだ。自分の頭の中でどの表記を用いるかという基準ができていないだけの話なので、サラリと流してほしい。

 韓国空軍のA-37Bは5桁のS/Nを垂直尾翼に記していたが、BE機の場合には韓国S/Nの下3桁(米軍S/Nの下3桁)のみを垂直尾翼下の胴体に記していた。

 最後に一番大切な話だが、韓国の展示機にはS/Nの書き換え事案がとても多いということを記しておこう。国防上の理由なのか、そもそもリペイントする際に気にしていないのかは分からないが、とにかく多い。以下に記すS/Nや他の韓国関連記事に記載した展示機のS/Nが本当のS/Nではないという可能性を含んでいることを覚えておいて欲しい。

写真2 ソウルエアショー2007が韓国空軍A-37Bの最後の晴れ舞台となった。(2007年10月20日

 

【展示機(衛星画像で存在が確認できる機体を含む)】

 前述のとおり韓国内には19機のA-37Bが残されていたハズだが、2022年初頭の時点で恐らく全機が国内に存在している。このうち16機が展示機や教材機となっており、13機がBE塗装機だ。T-37Cの用廃機にBE塗装を施したものが韓国各地に存在しているが、これらはT-37Cの展示機の話の中でまとめてみたいと思う(おそらくは数か月程度先の話になると思うが・・・)。さぁ、それではA-37Bの展示機リスト、行ってみよう!

(1) 14-817 (67-14817, cn.43042)  ソサン基地(36.7025 / 126.4990)、衛星画像を見ると2機並んでいるが展示機の先行機がA-37Bだ。後方機は恐らく以前近傍に置かれていたT-37C (31-690)をBE機塗装としたものだろう。


(2) 87-934 (68-7934, cn.43081)  清州の空軍士官学校(空軍博物館)(36.5804 / 127.5252)、空軍博物館前の通り(モニュメントのある交差点脇)にある。2007年ソウルエアショー時のBE.No.2だが、展示された機体のポジションナンバーはNo.1となっている。屋外展示場の北端部(現在T-103練習機のある位置、36.5791 / 127.5247)に2012年9月には置かれていたが、博物館前の道路の整備に伴い2015年10月28日から2016年12月6日の間に現在の場所に移転した。なお空軍士官学校の屋外展示場にはもう一機のA-37Bがある((7)参照)。

【忠清北道】韓国空軍士官学校・空軍博物館とその周辺(清州) - 用廃機ハンターが行く!

(3) 87-938 (68-7938, cn.43085)  慶北航空高等専門学校(36.8803 / 128.5251)、屋内にある三色迷彩の教材機。ネット上の写真で"938"と書かれていることを確認しており、Bob Ogdenの著書にある"398"は誤記だ。


(4) 87-960 (68-7960, cn.43107)  大田市炭坊交差点(36.3431 / 127.3848)、2007年ソウルエアショー時のままBE.No.4。スモークパイプ有り。

【デジョン(大田)】ボラメ公園周辺の展示機 - 用廃機ハンターが行く!

写真3 街中の交差点で旋回中。(2010年8月14日大田市炭坊交差点)


(5) 87-961 (68-7961, cn.43108)  原州タトゥー広場(37.3356 / 127.9474)、2007年ソウルエアショー時のままBE.No.3。スモークパイプ有り。本機は1971年5月にGrissom AFBの 71SOSに配属となったが4年後の1975年7月にはMASDC入り。翌76年9月に韓国にMAP供与されたことになっているが、ScrambleのDBでは元南ベトナム空軍機とされている。前歴がよく分からない機体だ。

【江原道】原州タトゥー広場のA-37B(ウォンジュ(原州)) - 用廃機ハンターが行く!

写真4 2機編隊飛行の形で展示されている原州タトゥー公演場のA-37B。(2014年3月21日)


(6) 10-797 (68-10797, cn.43148)  済州航空宇宙博物館(33.3043 / 126.2997)、BE.No.7として展示中だが、最終公開となった2007年のソウルショーに本機は参加していない(この時No.7として参加したのは後述する(12)の01-280号機だ)。スモークパイプ無し。

【済州島】済州航空宇宙博物館ほか - 用廃機ハンターが行く!

写真5 天井から吊り下げられている済州航空宇宙博物館のA-37B。うっすらと埃をかぶっている。(2016年3月26日)

 

(7) 10-823 (68-10823, cn.43174)  空軍士官学校(空軍博物館)(36.5783 / 127.5234)、近年は三色迷彩塗装となっているが2005~2008年頃はT-37C同様の銀地に警戒色の赤の塗装で垂直尾翼のS/Nは”40905”だった。2012年9月には"40823"と書かれており、以後はこのNo.での記載が続いている。韓国に供与されたとされる29機のS/Nの中には”40905”と

”40823”に該当する米軍S/Nは見つからず、"10823"に修正しようとして頭の”1”を”4”と書いてしまったのではないかと思っている。

写真6 かつては”T-37Cもどき”の塗装だった空軍士官学校航空機展示場のA-37B。この時の垂直尾翼のS/Nは”40905”だった。(2005年10月24日)


(8) 96-341 (69-6341, cn.43186)  蔚山大公園(忠魂塔近傍)(35.5273 / 129.2941)、2007年ソウルエアショー時のままBE.No.5。スモークパイプ有り。2009年10月29日に展示開始の除幕式が挙行された。


(9) 96-433 (69-6433, cn.43278)  済州航空宇宙博物館(33.3035 / 126.2995)、屋外に展示された三色迷彩塗装機。韓国内でいつでも見られる三色迷彩機は本機のみだ。コクピットのラジオコールNo.は機番と一致していたという(航空ファン誌2014年7月号より)。

写真7 済州航空宇宙博物館の屋外にあるA-37B。(2016年3月26日)


(10) 96-440 (69-6440, cn.43285)  南原航空宇宙展望台(35.3997 / 127.3877)、2007年ソウルエアショー時のままBE.No.8。スモークパイプ無し。

【全羅北道】ナムウォン(南原)市の南原航空宇宙展望台 - 用廃機ハンターが行く!

写真8 塗り直されて青色の色調が明るくなった南原航空宇宙展望台のA-37B。なお現役時代から機体右側には「Black Eagles」と書かれているが左側には書かれておらず、代わりにチームのエンブレムが描かれている(機体右側にはエンブレムは無い)。模型を作る際には注意しよう。(2019年9月20日


(11) 01-277 (70-1277, cn.43292)  原州タトゥー広場(37.3356 / 127.9474)、2007年ソウルエアショーのままBE.No.6。スモークパイプ有り。

写真9 写真4を反対側から見たショット。手前(右側)が277号機、奥(左側)が961号機だ。(2014年3月21日)


(12) 01-280 (70-1280, cn.43295)  蔚珍科学体験館(36.9958 / 129.4089)、2007年ソウルエアショーのままBE.No.7。


(13) 10-794 (71-0794, cn.43332)  原州基地(37.4354 / 127.9726)、2005年および2007年ソウルエアショー時のBE.No.1。恐らく原州基地のブラックイーグルテーマ公園(2014年8月13日開場)の2機のうちの1機。

写真10 発進前にスモークチェック!手前のBENo.1は794号機。(2007年10月20日ソウルエアショー)


(14) 韓国S/N? (US S/N?, cn.?)  原州基地(37.4354 / 127.9726)、原州基地のブラックイーグルステーマ公園にある2機のうちの一機。


(15) D-3 (US S/N?, cn.?)  原州基地(37.4369 / 127.9664)、原州基地にあるBE展示館の脇にBENo.1としてポールの上に置かれている。垂直尾翼下の胴体に書かれた”D-3”という記号から元は基地内にあったデコイにBE塗装を施したものと推定する。

 

(16) 韓国S/N? (US S/N?, cn.?)  原州基地(37.4315 / 127.9595)、GE-Proの2021年4月11日取得画像(最新版は2021年11月取得か?)に写る「迷彩塗装のA-37Bらしき機体」。

 

(17) 韓国S/N? (US S/N?, cn.?)  原州基地(37.4319 / 127.9594)、GE-Proの2021年4月11日取得画像(最新版は2021年11月取得か?)に写る「迷彩塗装のA-37Bらしき機体(その2)」。

 

(18) 韓国S/N? (US S/N?, cn.?)  原州基地(37.4258 / 127.9538)、GE-Proの2013年10月4日取得画像以降に写る「迷彩塗装のA-37Bらしき機体(その3)」。

 

(19) 韓国S/N? (US S/N?, cn.?)  原州基地(37.4258 / 127.9538)、GE-Proの2014年12月4日取得画像以降に写る「迷彩塗装のA-37Bらしき機体(その4)」。基地南西部のゲート内に並ぶ5機の展示機のうち、中央に置かれた一機。

 

【BEソウルエアショー2007参加機のその後】

 上述の記載と重複するがA-37BによるBE最後の公開となったソウルエアショー2007での機体のその後をまとめておく。

BE No.1 10-794 (71-0794, cn.43332)  原州基地

BE No.2 87-934 (68-7934, cn.43081)  清州の空軍士官学校(空軍博物館)、現在はNo.1のポジションマークを付ける。

BE No.3 87-961 (68-7961, cn.43108)  原州タトゥー広場

BE No.4 87-960 (68-7960, cn.43107)  大田市炭坊交差点

BE No.5 96-341 (69-6341, cn.43186)  蔚山大公園

BE No.6 01-277 (70-1277, cn.43292)  原州タトゥー広場

BE No.7 01-280 (70-1280, cn.43295)  蔚珍科学体験館

BE No.8 96-440 (69-6440, cn.43285)  南原航空宇宙展望台

写真11 BEのスモークパイプ。(2014年3月21日、原州タトゥー広場)

以上