用廃機ハンターが行く!

アジア各地に転がる用廃機を見に行くためのガイド(?)

航空自衛隊 F-4ファントムIIの展示機

<編集履歴>10Aug.2018Mixiにて公開、18Feb.2019はてなブログにて公開、18Dec.2023見直し更新(第58回目、百里基地のモニュメント存在再確認、記事見直し)

 

【一般】

 航空自衛隊第7航空団第301飛行隊では2020年12月10日(木)にF-4EJ改(07-8436、”青蛙塗装機”)による最終フライトを行い、14日(月)に第301飛行隊の移動に伴う部隊改編行事を実施した。これにより戦闘部隊としてのファントム飛行隊は幕を閉じたことになる。翌15日(火)には三沢基地にて第301飛行隊新編行事が行われF-35Aによる飛行隊が生まれた。また岐阜基地で運用している機体は2021年3月17日に最終飛行を行い、これをもって航空自衛隊からファントムは全て引退した。

 航空自衛隊ではF-4EJ、F-4EJ改、RF-4E、RF-4EJという四種の異なるタイプを運用していた。現在ではF-4EJが3機(うち2機は保管機)、「改」が11機、RF-4Eが1機、そしてRF-4EJが2機(1機は訓練使用機)の合計17機が全機展示機(機体丸ごとの展示)として各地に遺されている。(注:本記事において「展示機」という言葉には保管機や訓練使用機を含む場合がある)

 これらのほか、福島県のオールドカーセンタークダンにはRF-4EJの機首部が展示されている。また千葉県内のサバイバルゲーム場にF-4EJ改3機分の機首部分が置かれている。実機の計器盤を利用した前席コクピット模型は百里基地広報展示館内、岐阜地方協力本部自衛隊広報センターおよび岐阜基地広報館に存在する。三沢基地百里基地には合計4機分の垂直尾翼がモニュメントとして残されている(三沢基地のものは新田原基地から移設されたもの)。これらをまとめて紹介しよう。

<まとめ:航空自衛隊のファントムシリーズの全機および部分展示機数一覧>

機種  全機展示機数   機首部分展示機数   垂直尾翼展示機数

F-4EJ    3(*1)        0          0

F-4EJ改         11        3          1

RF-4E      1                             0                             1

RF-4EJ             2(*2)       1                             2

合計      17                        4                             4

*1 F-4EJの全機展示機数には岐阜基地築城基地の保管機を含む

*2 RF-4EJの全機展示機数には浜松基地のBDR課程訓練機を含む

*3 個人宅にある機首部分やパーツなどはカウントに含まない

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写真1 ゆいレール車窓から見た那覇基地のF-4EJ改。(2020年3月13日撮影)

 

さて国内のF-4ファントムIIの展示機を以下に紹介する。型式別におおむね北から南の順に記す。
【F-4EJの展示機】 

 能力向上改修計画に基づく改修を実施せず、納入当時のままの形態を残す機体は87-8409号機のみが岐阜基地に展示されている。このほかに岐阜基地に17-8301号機と築城基地に07-8429号機が保管されている。429号機は公式Twitterより基地内に今後展示予定となっているが、現在は基地内の施設工事のために展示用地が定まっておらず、飛行場地区の一角に留め置かれている。岐阜基地の301号機(初号機)の行先は決まっておらず「当面は基地内で保管」という中ぶらりんの状態だ。

(1) 17-8301 岐阜県 岐阜基地 展示場所の定まっていない「保管機」の状態 

(2) 87-8409 岐阜県 岐阜基地 航空機展示場(緑色系の特別塗装だが2023年度末までに通常塗装に戻される予定)

(3) 07-8429 福岡県 築城基地 2024年度下半期以後(工事予定が判らないため、文字通り「2024年下半期より後の時期」という意味)、基地内に広報用展示機として設置される予定

※37-8318と47-8327(岐阜の通常型)は2022年1月31日ごろに解体された。

 

【F-4EJ改の展示機 】 

 以下の11機が展示・公開されている。
(1) 47-8345 北海道 千歳基地

(2) 57-8375 青森県 県立三沢航空科学館、無償貸付機*1

(3) 17-8437 茨城県 百里基地

(4) 37-8319 茨城県 茨城空港、無償貸付機*1

(5) 17-8440 静岡県 浜松広報館 航空自衛隊最終納入機、かつ世界で最後に製造された機体。

(6) 07-8431 岐阜県 岐阜かかみがはら航空宇宙博物館 能力向上型改造初号機

(7) 87-8404 石川県 小松基地 垂直尾翼の左右でマークが異なる。

(8) 17-8439    鳥取県 美保基地

(9) 87-8415 福岡県 メタセの杜、無償貸付機*2

(10) 57-8360 宮崎県 新田原基地

(11) 37-8321 沖縄県 那覇基地

*1 Jウイング誌2021年8月号付録より

*2 Jウイング誌2021年10月号p.30より

 

<展示後廃棄>

(1) 17-8302 茨城県 百里基地 雄飛園展示後、2022年1月17日解体。

 

【F-4EJおよびF-4EJ改の部分展示】

<その1>

 千葉県山武市サバイバルゲーム場「サバゲーパラダイス」にF-4EJ改3機分の機首部分が置かれている。

(1) 97-8421(? ) (35.6579N / 140.3391E) 駐車場からフィールドに行く坂の途中にある

(2) 97-8427 (35.6584N / 140.3389E) 坂の脇の屋根付展示場にある

(3) 97-8425(?) (35.6585N / 140.3384E) フィールド内にある。

参考URL:

【千葉県】サバゲーパラダイスのファントム他 - 用廃機ハンターが行く!

HOME│サバゲーパラダイス

<その2>

 春日基地に所在する西部防空管制群では2020年10月2日に「F-4戦闘機の退役にあたり、西の空の守りを担い一時代を共に歩んだ戦闘機部隊と春日防空司令所の歴史を繋ぎ、飛行の安全を堅く誓う象徴として、機体の一部が付設された記念碑」の完成除幕を行った(公式Twitterより)。これ以前に百里基地裏手に置かれていたF-4EJ改の用廃機57-8353号機の垂直尾翼左側、部隊マーク付近の外板が切り取られ、中の構造材が露出している写真が撮影されTwitter上に投稿されていたことから、これが記念碑に使われた可能性がある。

<その3>

 百里基地広報展示館内にはF-4EJ改87-8408号機の前席コクピット部分が存在する。造り物の「機首部分」に”408”と描かれているので、SNSなどではこの機番のことを言っているのだろうと思っていたが、見学者の写真から実際の408号機の計器盤が使われていることが判明した(2021年6月)。

<その4>

JR岐阜駅近くの岐阜地方協力本部1階「自衛隊広報センター”自衛館”」にF-4EJ(77-8393)のコクピット模型が置かれ、2022年7月12日から一般に公開されている。これは岐阜基地で用廃となったF-4EJ #393号機の前席計器盤を取り出して架台に据え付けたもののようだ。#393と書かれた機首部外板は別途作成したものであり、機体から切り出したものではないようだ。

<その5>

 岐阜基地では2022年8月中旬ごろより年度末にかけてF-4EJ(47-8336)の前席操縦席部分を利用して、先に77-8393号機の部品で作成したものと同様の「体験搭乗用」模擬操縦席を製作した。広報館内に展示されており、基地祭や基地見学時に「体験搭乗」することができる。

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写真2 青森県立三沢航空科学館のF-4EJ改。(2014年2月1日撮影)

【展示機:RF-4E】

 機首にフィルムカメラを装着した偵察機RF-4Eは14機を輸入して運用し、2020年3月9日に最後のフライトを行い全機が引退した。運用期間中に510号機と511号機の2機を事故で失っている。国内にある全機展示機は初号機(47-6901)の1機のみ。2022年1月24日に設置された際には青色の洋上迷彩にファイナルイヤーの特別塗装であったが、年度内に塗装が変更され、緑色系のものになっている。なお八雲分屯基地にはカメラ部のみの展示物が存在している。またTwitter(現X)投稿写真より、詳細は不明ながら少なくとも1機の機首部分が個人宅にあるようだ。

(1) 47-6901 百里基地

<展示後廃棄>

(1) 57-6906 百里基地の雄飛園にて展示されたのち、2022年1月17日解体


【展示機: RF-4EJ】 

 能力向上改修を行わない戦闘機F-4EJの胴体下に偵察ポッドを運用できるように改造した偵察機RF-4EJは、試改修機1機(のちに量産改修型へ改修)、限定改修型7機、量産改修機7機の合計15機が存在した。限定改修機は2012年ごろには全機が引退し、量産改修機の一部はRF-4Eとともに2020年3月9日に最後のフライトを行ったのち、全機が引退した。限定改修型の全機展示機が1機、同じく限定改修型の機首部分のみの展示機が1機存在するほか、浜松基地内にて1機がBDR修理訓練機として使用されている。量産改修機および試改修機は残されていない。なおTwitter投稿写真より詳細は不明ながら少なくとも1機の機首部分が個人宅にあるようだ。

(1) 87-6412 茨城県 茨城空港、無償貸付機( Jウイング誌2021年8月号付録より)。

 第三駐車場の利用時間(0530-2200)に見学可能(茨城航空公園の開場時間は0900-1700とのネット情報もあり)。2019年9月の台風15号により、後席キャノピーが吹き飛ばされたが約一か月後に修復された。

<RF-4EJの部分展示>

(1) 57-6376 福島県 オールドカーセンタークダン。

 スクラップ業者から入手したと思われるコクピット後方までの機首部のみを展示中。2018年10月28日に訪問者が確認したのが恐らくネット上で最初の報告例だ。機首左側には新谷かおるのコミック「ファントム無頼」登場機にちなんで#680と記入されている。機体番号の詳細は以下の記事をください。

【福島県】オールドカーセンター・クダンの展示機 - 用廃機ハンターが行く! 

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写真3 オールドカーセンタークダンにあるRF-4EJ(57-6376)の機首。機体左側S/Nは680とされていた。(2019年08月24日撮影)

  

【RF-4EJ余談:BDR課程訓練機となった47-6347】

RF-4EJ量産改修機47-6347は2006年9月29日に百里から浜松への最終飛行を行い航空機としては用途廃止となった。その後は術科校でBDR(Battle Damge Repair:戦時損傷修理)訓練機となっており、主にABDR課程での教育に使われていた。BAG課程でも使っていたという話がX(旧Twitter)に投稿されている。ABDRやBAGが何の略であるかは調べていないが概ね想像はつく。対空火器などにより軽微な損傷を受けた機体を(整備工場ではなく)前線で修理することであり、訓練では機体に物理的に小さな損傷を作ったうえで、この損傷部分を補強したり、ヒビ割れの広がりを止めるための修理を行う。修理後の機体はパッチだらけになる。一術校ではツルハシで傷をつけ、その脇に傷をつけた年月日と誰がやったのか氏名を書き込んでいたという。この機体は浜松基地見学時には見ることができたようで、「浜松基地」「見学」の単語でGoogle 検索を行うとその写真を見つけられるが、参考までにURLを貼りつけておく。https://livedoor.blogimg.jp/tabinozasshi/imgs/d/3/d35bb1f7.JPG 

また2020年10月12日時点ではInstagram上に一枚の写真が投稿されている。

 本機は廃棄されたと思われていたが、2023年になってからも基地内に存在していたとの発言がX(旧Twitter)の2023年9月18日付で投稿されている。

蛇足ながら書いておくと、ソウルの戦争博物館に展示されているF-4Cも元はBDR訓練機だ。よく見るとあちらこちらにパッチの跡を見ることができる。



垂直尾翼のモニュメント】

 ファントムの垂直尾翼を用いたモニュメントは以下の4機分が存在している。

(1) 27-8305 F-4EJ改 三沢基地 第301飛行隊マーキング。かつて新田原基地に設置されていた本モニュメントは、新田原基地の公式Twitter(現X)が2022年9月30日ごろに移転する予定である旨を発信していた。その年の12月の航空祭では既に撤去されていたが、移設先は分からなかった。その後、2023年3月20日付の三沢基地公式Xは2023年3月17日に本モニュメント設置の除幕式が行われたことを伝えた。新田原基地内での移設かと思っていたが、モニュメント全体を他基地に移設するとまでは思ってもいなかったので、驚いたものだ。

(2) 57-8373 RF-4EJ 百里基地第302飛行隊マーキング。RWRが付いていないRF-4EJ限定改修型の用廃機から作成されたものなので、厳密には「57-6373」と記載すべきものなのだろう(注:すでに”航空機”では無く、単なる物品の扱いなので、どのように”ペイント”しようとも構わない位置づけにある)。2023年12月の百里基地航空祭時に現存していることが確認された。

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写真4-1 百里基地内にある373号機の垂直尾翼のモニュメント。RF-4EJ限定改修機の垂直尾翼から作られたためRWRアンテナが無い。(2019年12月1日撮影)

 

(3) 97-8418 RF-4EJ 百里基地305飛行隊マーキング。2020年11月29日には残っていた尾翼端のカラーチップおよび梅組マークが、翌11月30日には消されていることが視認された。このときSNも消されているようだ。その後はコロナ禍により基地祭が中止となったため、2年ほどは状況を確認することができなかったが、2023年12月の百里基地航空祭時には元通りのカラーリング、SN、第305飛行隊の梅マークとも復活した姿が確認されている。このモニュメントもRWRが付いていないRF-4EJ限定改修型の用廃機から作成されたものなので、厳密には「97-6418」と記載すべきものなのだろう。

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写真4-2 百里基地内にある418号機の垂直尾翼のモニュメント。こちらもRF-4EJ限定改修機の垂直尾翼から作られたため、RWRアンテナが無い。(2019年12月1日撮影)

 

(4) 47-6902 RF-4E 百里基地 第501飛行隊マーキング。第501飛行隊は閉隊されてしまったので、モニュメントや塗装はどのようになるかと注目していたが、2023年12月の百里基地航空祭時に色褪せているものの、現存していることが確認された。

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写真4-3 百里基地内にある902号機の垂直尾翼のモニュメント。かつて青色をベースとした洋上迷彩塗装とされていた時期もあった(2019年11月撮影)

 

在日米軍のファントム展示機】

 在日米軍基地に目を向けると次の3機が展示されている。各機の詳細はそれぞれの基地の紹介記事中に記すので、そちらを参照して欲しい。

(1) F-4C (40679 / 64-0679) 三沢基地 

【青森県】在日米空軍/航空自衛隊 三沢基地の展示機 - 用廃機ハンターが行く!

 

(2) F-4S (Bu.155807) 厚木基地

【神奈川】在日米海軍/海上自衛隊 厚木基地の展示機 - 用廃機ハンターが行く!

 

(3) F-4C (37433, 63-7433)  嘉手納基地、本当のS/Nは64-0913と言われている。 

※嘉手納基地の展示機に関する記事はまだ書いていません!

 

【今後の予想】  

(1) 17-8301:初号機。「引取り手はないか?」とJウイング編集部が2021年3月18日付でTweetしたものの、結局は引受先が決まらず「当面は岐阜基地で保管」となった。2023年10月の基地祭で公開されており、今後数年は基地公開イベントで展示/格納庫内にて公開が行われるものと予想する。

(2) 07-8429 築城基地に搬入済。基地内工事が終わり、展示場が整備されたら展示されるものと予想する。早くても2024年度末頃で、2025-2026年度ごろというのが妥当な時期だろうか?

 

【余談】

 ファントムは内翼と胴体下面が一体構造なので、分解するのも、運ぶのも、また再組立てするのも大変だとのこと。このため、岐阜基地にある301号機にあえて手間をかけて分解し、陸送してまで展示をすることはナイだろうという見解があります。(ちなみに韓国では80機以上のファントムが各地で展示機やデコイとなっており、ヤル気があれば可能であることを証明していますネ♪)

 あいち航空ミュージアムや石川県立航空プラザ、その他民間企業等が入手を検討したものの輸送費・維持費などの予算がつかずに断念したというウワサがあります。現実的に適切な展示場所を確保し、輸送費および展示後の維持管理費を工面し、場合によっては地元との調整(自衛隊機・戦闘機を展示するということに対する反対派との調整)を行うなど、相当な困難が予想されます。

 一方でファントムは多くの国で使われていたため、海外マニアの人気も高く、そこそこの場所に展示されれば、外国人マニアや元関係者らの集客が期待されます。

 今後は301号機の動きに関するニュースに注目したいと思います。 

以上