用廃機ハンターが行く!

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【検証】ブルーインパルス東京上空飛行の経費

<編集履歴> 11Jun.2020公開、21Mar.2024見直し更新(第6回目、見直し実施)

 

<はじめに、の前に(2022年9月23日記)>

ブルーインパルスを飛ばすのにいくらかかるのか?」というこの記事は、本Blogの中でもアクセス数の多い記事だ。本Blogの記事のアクセス数は、その時々のニュースやTV番組などの影響を大きく受けているが、常に安定してアクセス数の上位に位置している。ちなみにファントム引退フィーバーが去ったあと、ここ2年ほどは「ゼロ戦を見に行こう」「大戦機を見に行こう」「ブルーインパルス関連(F-86F、T-2およびT-4)」の記事へのアクセスが安定して上位を占めている。この辺りが一般読者の興味の範疇なのだろう。

 さて本題の「いくらかかるか?」については、計算のやり方の基本(考え方)は読者の皆さんが自家用車を維持して運用しているものと変わりはない。燃費がどのくらいで何キロ(あるいは何時間)飛ぶかということと、運用・維持にどれくらいの人と時間と部品交換や”車検”に相当する金額がかかるかということを積算していけばよい。

 それぞれの費用(例えば燃料代)などは”時価”であるため、価格を求めるためのヒントを紹介する。この記事の内容だけ(すなわち東京上空で飛んだ時の話だけ)を引用した発言がネット上にいくつか見られるが、あくまで算出例を示しているだけなので、各自が興味を持つ「***で飛んだ時の費用」は「最新の価格情報」を元にして「現在の費用」を算出してみて欲しいと思う。この記事は「ブルーインパルスが東京上空を飛行」した時のモノではなく、ブルーインパルス以外の機体であっても運用コストを試算するためのヒントを込めて書いているつもりだ。ネット上で「いくらかかるんだ?!(私は計算できないよ)」と声高に宣言して、そこで思考停止している人を一人でも減らし、次の段階での議論へと促すことができれば幸いに思う。

 

<はじめに>(以下、本文です)

 2020年5月29日に行われた東京上空でのブルーインパルス(以下、B.I.と略すことがあります)のフライトにかかる費用は約360万円だったそうな。その内容を確認してみたので記しておこう。 用廃機の事を取り上げる本Blogの趣旨とはかけ離れているのだけれど、Facebook以外に他に残しておくネット上の場所がないので「雑談」として残しておこう。確認した内容は次の通りだ;

<直接的な費用>

(1) 東京上空フライトにかかる燃料代

(2) スモーク発生にかかる費用

<間接的な費用>

(1) 松島基地ー入間基地往復にかかる燃料代

(2) 浜松基地のT-4を借りたときの燃料代

(3) T-4の機体償却金額(仮)

(4) C-1による輸送(整備員と支援機材)にかかる燃料代

(5) C-1の機体償却金額(仮)

なおこれに人件費がかかるが本Blogでは省略する。一つの目安として読者の皆さんやその周囲におられる方々の月給や年収からパイロットや整備員一人当たり一日にいくらかかるかを計算して、加算してみてください。

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写真 入間基地祭で飛ぶブルーインパルス。(2017年11月3日撮影)

 

1.ブルーインパルスが消費した燃料の費用について

1-1.東京上空フライトに要した燃料費の確認

<T-4B.I.機の搭載燃料の確認>

そもそもT-4という機体にはどのくらいの燃料を搭載できるのかをネット情報やマニア本を用いて確認しよう。通常のT-4の機内燃料タンクの総容量は600galだが、B.I.改修機はNo.3タンク(約85gal、322 L)をスモークオイル専用としている。よって機内搭載燃料量は515 gal (= 600 gal - 85 gal)だ。 

今回のフライトでは120galドロップタンクを2本つけているので両翼で240gal。

搭載燃料の合計は最大で755gal (=515 gal + 240 gal)となる。

ここで1gal =3.785 Lとしておく。またジェット燃料の比重(密度を読み替え)を1L = 0.8kgとしておく(以下、同様)。本記事は考え方を伝えることが目的なので、細かい数値が欲しい方は各自で調べ、好きな数値を用いてくれればよい。

・燃料の量をLで表すと:755gal = 755gal × 3.785L/gal = 2,857.675 L ≒ 2,858 L

・燃料の量をkgで表すと: 2,858 L × 0.8 = 2,286.4 ≒ 2,286 kg

 

<ジェット燃料のお値段>
ジェット燃料のお値段は防衛装備庁の「契約にかかる情報の公表(中央調達分)」の「月別契約情報 競争(基準以上)」の契約結果から求める。しかし時々の変動が大きいので本記事では50円/Lとしておく。(本記事を書いたころの2019-2020年の契約単価は41-48円/Lくらいであったが、2023年6月頃のジェット燃料A-1の単価契約では77円/L程度になっていた。計算の考え方を伝えることが目的の記事なので、50円/Lという試算値は変更しない)。

燃料の量と単位当たりの価格が分かれば搭載する燃料代が分かる。
一機あたりの燃料価格: 2,858 L × 50円/L   = 142,900 円

 

 東京上空飛行では通常の6機編隊に加えて監視役の「全般統制機」の合計7機が飛んだので7倍して1,000,300 円となるが、これは7機分が燃料を目いっぱい搭載した場合の燃料代だ。これでも十分な試算はできるが、実際に消費した燃料を元に計算してみよう。その前にスモークのお値段だ。

参考:

(1) 正確な燃料代を知りたい場合はこちらを読んで応用を利かせてください。

調達情報を読もう - 用廃機ハンターが行く!

(2) 燃料の密度(比重)などの正確な値を知りたい場合は「JIS K 2209 航空タービン燃料油」を参照してください。https://www.jisc.go.jp/


<スモークの値段>
 白色スモークオイルは通常のスピンドルオイルだ。80円/Lとしておこうか。これを先に書いたが約85gal(=85gal × 3,785 L/gal ≒ 322 L)の容量があるNo.3タンクに搭載するので、1機あたり80円/L × 322 L =25,760 円。6機分なので6倍して154,560円也。

 なおオリンピックの際に使用したカラースモークはその開発費を含めて数千万円~数億円程度と言われている。仮に数億円だとすると1機あたり1億円程度。1億円として単純に白色スモークの25,760円/機で割り返せば、概ね3,900倍のコストがかかったことになる。実際に使用したオイルで計算しても一機あたり100万円程度かと思う(一回限りの特注ですからね)。だいたい40倍くらいですか。


<消費燃料量>
さて、ここで実際に使用した燃料代を燃費から求めてみる。

「中等練習機(XT-4)の開発」(日本航空宇宙学会誌第38巻第434号、1990年3月p.111-23)の「第3表 XF-3-30エンジンの性能表」に記された数値を用いて計算してみよう。

用いる数値は次の通りとする:XF-3-30の燃費は0.679kg/h/kgf。最大推力は1,670kgfだ。最大推力の80%で離陸から着陸までをこなし、飛行時間は12:35から13:15の40分間(40/60h)としておこう;

一機あたりの燃料消費量は0.679×40/60×0.8×1,670×2基=1,210 kg/機 =1,513 L/機。
残燃料は2,286 kg - 1,210 kg=1,076 kg/機(燃費より約35分の余裕)
お値段的には1,513 L/機 × 50円/L = 75,650 円/機
実際に使った燃料は7機で飛んでいるので、7倍して約53万円也。

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写真 入間基地に着陸する増槽タンク付きのブルーインパルス機。2015年10月18日撮影。

1-2.松島ー入間基地間の往復フライトに要した燃料費の確認

松島基地ー入間基地間は直線で約320km(Google Mapによる)だが、多少の大回りをするだろうから400kmとしておく。この距離を最大推力の80%、速度650km/Hで飛んで37分(実際の離陸時間と着陸時間をTwitter発言で調べようとしたけれど、東京上空飛行のコメントであふれていてみつけられなかった)。

往復の消費燃料量は0.679 × 37/60 ×2工程 × 0.8 × 1,670 × 2基  = 2,238 kg/機 = 2, 798 L/機。
消費燃料の費用は2,798 L/機 × 50円/L = 139,900 円/機
7機で移動しているので往復の燃料代は約98万円也。

 

1-3. 全般統制機を浜松基地から借り、また返した際の燃料費の確認

今回は全般統制機を浜松基地から借りてきて使用しているので、これを受け取りに行った時と返しに行った時の燃料も計算しておこう。行程は次のようになる。

1)松島基地から1機のT-4B.I.機に二人が乗り、浜松基地に行く

2)浜松基地で機体を借り、二機にそれぞれパイロット1名が乗って松島基地に戻る。

3)松島基地から二機にそれぞれパイロット1名が乗って浜松基地に行き、機体を返却。

4)浜松基地から1機のT-4B.I.機に二人が乗り、松島基地に戻る。

松島基地浜松基地間は直線で約510km。多少回り道をして600kmとする。この距離を最大推力の80%、速度650km/Hで飛んで55分。単機片道の消費燃料量は0.679 × 55/60 ×  0.8 × 1,670 × 2基 = 1,663 kg = 2,079 L/機。
燃料費は片道2,079 L × 50円/L = 103,950 円
都合単機で6行程分なので6倍して燃料代は約62万円だ。

【注1】

T-4B.I.は松島から浜松へはクリーン形態で飛べる。すなわち機内燃料の515Gal ( =1,950 L)で余裕をもって飛べるのだ。上記の計算式において、必要量は片道 2,079 Lとしているので10%程度は多めに見積もっていることになる。まぁシロウト計算で誤差10%ならイイところかね?と自己評価。

【注2】

2020年7月7日、移動訓練のためにD2形態(ドロップタンク2本を付けた形態)で松島基地を13:10ごろ離陸した1番機の浜松基地到着時刻は14:14ごろだったとのこと。所要64分。上記の計算では55分としているが、そこそこ良い値だったろうと思っている。(2020年7月7日追記)

 

1-4.ブルーインパルスT-4の燃料費とスモーク代のまとめ

  東京上空飛行     53万円

  松島基地往復     98万円

  浜松のT-4レンタル  62万円

  スモーク油代     15万円

    合計      228万円

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写真 2009年10月12日岐阜基地にて撮影

 

2.支援したC-1が消費した燃料費について

整備員や支援資材を松島基地から入間基地に空輸した際に用いたC-1の燃料費について確認してみよう。ただし適切な算出根拠となる数値が無かったので、ネット上のアチコチにある都合の良い数値を組み合わせて算出を試みた。
<使用した燃料代の計算>
C-1は6.5tの貨物輸送時に最大燃料での航続距離は1,200 nmとのこと。機内燃料は15,708 Lとすると燃費は1200nm×1.852m/nm /15,708 L =0.141 km/L。ほほう!
入間基地ー松島基地400㎞を送迎のために二往復している。使用燃料量を求めると400×4/0.141=11,348 L。
燃料代は50円/Lから11,348 ×50 = 567,400円となる。

T-4の燃料代と合わせるとここまでの合計は285万円だ。大臣発表の「約360万円」との差額はこの段階で75万円だ。

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写真 入間基地祭で撮影したC-1。(2018年11月3日撮影)

 

3.参考計算、T-4B.I.のショー一回当りの償却金額

国有財産であるT-4の償却金額の計算は所定の方法(注)がある。新車を購入して1年で売却する場合と5年乗ってから売却する場合で査定額に差が生ずることから分かるように「新しいほど金額は高い」。

注)国有財産台帳の価格改定に関する評価要領について

https://www.mof.go.jp/about_mof/act/kokuji_tsuutatsu/tsuutatsu/TU-20111012-4670-14.pdf

 

 だけど計算がメンドウなので、ここでは以下に記す数値をもとにした「均等割価格(機体購入価格/使用時間で求めた飛行時間あたりの価格)」で考えてみよう。

<計算の根拠となる数値>

(1) T-4B.I.の機体価格は約23億円だけど、約24年間使用するので、割り返せば9600万円/年だ。

(2) 3年に1度は車検に相当する定期点検修理(IRAN)が行われる。1回あたりの費用は約1.1億円。

(3) 機体が用廃となるまでに7回(≒ 24年 / 3年)のIRANを実施するので7倍して7.7億円かかることになる。これを24年で割り返すと年間約3200万円だ。

(5) 年間当たりの機体価格+定期点検整備費の合計は上記(1)+(3)で1億2800万円だ。1日2回、年180日飛んだとして年間飛行回数360回、飛行1回あたりの金額(イコール償却金額)とすると約36万円/機/回になる。今回は7機飛んだので7倍して252万円だ。ただしこの金額は大臣発表の「360万円」には入っていませんね。大臣発表の金額はあくまで「直接経費」だけなのでしょう。

 

3.参考計算、C-1の償却金額

T-4と同様にして整備員や支援機材の送迎に使用したC-1の償却金額を「均等割」で考えてみる。計算に使った諸条件は次の通りだ。まずC-1の機体価格は約30億円。3年に1度、約2億円の定期整備を引退までに14回やるとすると機体プラス定期点検整備代の総額58億円。引退までの総飛行時間は過去に引退した機体の実績より17,800時間としよう(本Blog「航空自衛隊 C-1の用廃機」参照)。

飛行一時間当たりの経費は58億円/ 17,800時間 =325,842円/時間となる。

入間ー松島間の飛行時間を片道1時間として二往復4時間で約130万円だ。

 

<おわりに>

 さて、いかがだったでしょうか。シロウトのザックリ計算ですが根拠となる数値さえ得られれば、それなりに計算できるということが判れば良いかな~と思っています。

「計算にはこの数値や、この計算式を用いるべし!」「この項目も算出すべし!」という事項がありましたら、お教えいただければ幸いです。

 

【参考までに】

 ブルーインパルスの燃料代を看護従事者や自然災害被災者に支給せよという意見がある。仮に支給対象者を1万人として、一人あたり5千円を支給する場合にかかるコスト(投入される税金)をザックリ計算してみよう。

・支給金額: 5千円*1万人=5千万円

・通知にかかる郵送費: 事業用郵便の割引で73円/通として1万通で73万円

・通知書と封筒(返信用含む)、印刷代:合計で10円/件として、1万通で10万円

・振込先連絡などの返信用通信費:1万通でもう一度、73万円

・事務処理(企画まとめ、通知発送/返信受領、振込処理)にかかる人件費:合計10分/件として10万分=1667時間。時給1,000円(アルバイト)に丸投げしても166万7千円。

ここまでで投入される税金は支給金額5千万円と諸経費322万7千円だ。

 

 支給金額や支給対象者数によって使われる税金の総額は変動するが、すでに保有する資産であるブルーインパルスを飛ばすよりも一定額の給付金を支給せよ、という場合には「ブルーインパルスよりもはるかに多い税金を投入せよ」と言っていることになる。

自衛隊に反対」「税金は1円たりとも無駄に使うな」という意見は理解するが、(ブルーインパルスの燃料代を関係者に支給するという意見は)「より多くの税金を投入する施策を推進するよう、訴えている」というコトであると自覚したうえで発言した方がよいと思う。

以上