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【妄想・雑談】ブルーインパルス ソロディスプレイ

<編集履歴> 21Jun.2024公開

 

 新型コロナウイルスの感染予防対策として延期・中止が続いていた自衛隊関連イベントが再開されつつある昨今。ブルーインパルスのフライト予定もいくつか発表されており、以前の流れに戻りつつある。

 それはそれで良いのだけれど、展示飛行がほぼ壊滅した過去2シーズンには「どれだけ”新たな展示機会への挑戦”ができたかな?」などとも思う。オリンピック・パラリンピック関連フライトはあったが、ブルーインパルスはそれだけのための存在では無かろう。

 東北以外の都市における都市上空フライバイや「密」にならない海水浴場でのフライバイ(注:シーショアショーではなく、海岸線に沿ったスモークフライバイをいう)・簡易展示などはどれだけ検討したのだろうかと思う。広報部隊なのだから「こんなことも考えています」「こういう検討をしましたがコレコレの理由で却下しました」という検討内容とその結果の公表をしても良いと思う。「却下理由」などは国内事情を対外的に知らしめることになり、巡り巡って自衛隊の立場の理解につながるのではないだろうか。

 コロナだろうと何だろうと、ブルーインパルスは広報部隊である以上は「一般の目の前で飛ばすかしかないだろう」というのが持論だ。「展開訓練」で松島基地以外の基地に展開し、無観客で第一区分をやるのも良いが、「技量維持のために移動訓練をします。つきましては何月何日何時ごろにどこそこを移動する際にスモークを引いて通過しますので空を眺めてくださいネ!」というような”後半部分”の方が大切ではないだろうか。

 

 こんなことを考えてかなりの時間が経った。

 メモを見ると1996年には同様のことを書き残しており、その一部は当時の”パソコン通信”「NiftyServe」の航空機関連話題のコーナーある「FAEROA 軍用機会議室」で披露している。その文書は残念ながら手元に残っていないが、最近になって当時を知る複数の方々より「あれは面白い考察だった」と言われる機会があった。そこで、話のネタとして、その後に得られた知見や現在の状況を加味して再度紹介しておこう。

題して「ブルーインパルス ソロディスプレイ」だ。

「こんなコトいいな、出来たらいいな、あんな夢、こんな夢一杯あるけれど・・・。」

出来るところまで書いてみよう。

 

【目的】

1. 航空自衛隊第11飛行隊”ブルーインパルス”を通じて航空自衛隊の存在や在り方を広く国民に伝えること。

2. ブルーインパルスは編隊ではなく単機でフライトディスプレイを行うことにより、より多くのイベントに参加して、広報機会を増やすこと。

 

【基本方針】

1. 航空自衛隊機が「煙を吐いて飛び回る姿」を一般大衆に見せつけること。

2. 上記以外の要因は可能限り省略することで、機材や人事関連費用等を削減する。

 

【手段】

1. ブルーインパルス海上自衛隊陸上自衛隊イベント、その他自治体等が行う小規模イベントに積極的に参加させる。

2. 参加させる機体は単機とする。尾翼に描くポジションナンバーは特に指定しない。

3. 別途記す課目の実施による上空通過を基本とするが、可能ならば地上展示も行う。

4. 操縦者の訓練・練習的要素を強く含む。よって操縦者は原則としてTRとして、空自基地等でのフルショーにおけるORパイロットの負担を軽減する。

5. 陸自、海自および自治体・一般などがブルーインパルスを招聘しやすくするように招聘基準を公開する。また年度集計として、どれだけ招聘・問い合わせがあったか、どれだけ応えることができたかを公開する。具体的な依頼先は公開せずとも招聘するのに「3年待ち、5年待ち」などの状況が分かれば良い。

 

【実施候補地】

1. 海上自衛隊イベント: 大湊、八戸、下総、館山、厚木、徳島、小松島、小月、大村

(注:岩国と鹿屋はフルショーを検討する)

2. 陸上自衛隊イベント: 丘珠、東千歳、霞目、神町、木更津、高遊原、富士総火演など

3. 海水浴場などの"シーショアショー"および海岸線に沿ったフライバイ:三陸沿岸、大湊、九十九里浜、館山(鏡ケ浦)、江の島周辺、遠州灘から伊良湖岬周辺、石川県能登半島西岸(千里浜)、高知周辺、宮崎周辺など

※ 海岸線が長く、かつ交通手段がよい(駐車場が完備されている、乗客の鉄道輸送が可能であるなど)ことが基本条件。集客が比較的容易な都市部近郊であり、近隣の基地空港等の支援を受けやすい条件があれば、なお良いかと思う。

 

【展開】

1. 機体: 単機のみを派遣する。ポジションナンバーは問わない(アナウンスで”本日は〇号機による飛行を行います”と言えばよいだけのこと)。場所によりD2形態。

2. 操縦者: 操縦者1名(TR、松島基地内所属者による年次飛行でも可)、後席は安全管理者の合計2名。

3. 整備員:現地での機体地上展示が無ければ、原則として整備員は派遣しない。他基地に展開する場合には一般の外来機対応とする。スモークオイルを搭載した状態で可能なのかどうかは知見が無いので不明だが、必要に応じて最小限の人数(2~3名か?)を派遣する。

4. 現地:現地までの誘導と現地アナウンスやアッピールは原則として現地任せ。空幕広報室主導で地方協力本部が主体に動くという態勢が現実的か?気象条件などは事前に定めた「招聘基準」に明確に記しておき、パイロット判断でこれに合致しなければドライにフライトをキャンセルする。

※ 現状では招聘することのハードルが極めて高いので「何としても実施しよう・させよう」という気持ちになる。欧米のいくつかのチームのように「今年がダメなら来年また呼べばいいサ」というまでに「一般化」させることが「広報の最終目標」ではないかと思う。

 

【演技実施要領】

(1) ブルーインパルス(ひいては航空自衛隊)の「存在を示す」ことが主目的の参加なので、「スモークの航跡を見せる」ことを主とする。

(2) 一か所の展示ではおおむね3回程度、会場を通過することを基本とする。 会場での高度は航空法から2,000ft以上となるケースが大部分と思われる。

(3) 展示に際しては機体にかかる負担(G)が極力少なくなるように配慮する(機体延命と整備負担を軽減させるため)。このため機敏な動きやGをかけた最小旋回は不要。

(4) 周辺地形や機体燃料残量を考慮したうえで、以下の科目を適宜組み合わせる。

(5) 明確な”ショーセンター”は設けず、近隣の観客が「空を見上げればスモークを引いた機体が見える」程度で良しとする。

<実施課目>

(1) スモークを引いて直進通過(クリーン形態かダーティ形態)

(2) 360度旋回あるいは水平8の字旋回

(3) クローバーリーフターン

(4) ナイフエッジもしくは単機でのファンブレーク(バナナパス)

(5) ウイングロック

(6) 急上昇

 

【そのほかの要領】

(1) 会場では「本日はサワリの部分だけをお見せいたしますが、フルショーを見たければ近隣の空自の基地祭へ」という旨のアナウンスを必ず入れること。

 

【試行と評価】

1. 試行期間は3年とする。

 1) 1年目は基本計画を策定し、これに沿って実施する。

 2) 2年目は1年目の反省点を盛り込んだ修正計画を策定し、実施する。

 3) 3年目は評価年とする。前2年間で実施した場所での見学者の増減とSNSでの取り上げられ方を広報効果の効果と考える。これに対して機材繰りや担当者の負担の程度、費用対効果の検証を行う。

 

【その他の検討】

 ブルーインパルス機2機を用いた「ペアディスプレイ」についても検討した。

 この場合には見栄えのする科目(キューピッドやカリプソ・バックトゥーバックなど)の実施が可能となるが、機材繰りや要員計画などがより困難になりそうなこと、要員(操縦者、整備員)の負担が増えること、支援も大変になることなど、単機で「チョイとスモークを引いて参加する」ことから比べると大幅に負担が増えることが懸念されたため廃案とした。なおペアディスプレイでは対進課目の実施が可能となるが、タイミングを合わせるための事前訓練などが必要となり、操縦者の負担が増えることから、当初の「負担を増やさずに広報機会を増やす」という主旨に合致しない。このため対進課目の実施は廃案とした。

 なお(そもそも論として)ソロディスプレイであっても「機材繰りや要員計画がかなり大変」なのだが、あえて目をつぶって話を進めている。必要であるなら人員増加を考え、また機材疲労によりT-4ブルーインパルスを早期に引退させて次期機種への機体更新を行っても構わない。「今までの枠組み(予算、人員、機材ぐり、各種規制など)の範囲ではできない」というのであれば、その枠を外した場合の検討を行うことで次なる発展へつながるのではないだろうか。 

 組織が硬直化すると「決められたことの中」だけでやりくりすることに終始するが、一段高い所に目線を置き、「そもそも、その決め事が適切であったか」という見方も必要になるだろう。3年任期制だと「覚えるのに1年、実施に1年、後任教育に1年」となり、部隊を10年後にどのようにしようという展望までは、なかなか考えることができない「仕組み」になっているのではないだろうかと考える。広報戦略という点でみれば、これは”末端実施部隊”の第11飛行隊が考えることではなく、本来ならば中央の(空幕広報室の)お仕事かと思うが、おそらく広報室でも数年で人材が入替わるような仕組みなのだろう(ただし小説・ドラマ「空飛ぶ広報室」に出てくるようなベテラン広報官も確かにおられる。しかし”将来計画の検討や策定”に際して決定権を持つような職位であることは少ないのではないだろうか)。

 

【最後に】

 1996年頃に書いたメモを読み返すと、そこそこまとまっていたように思う。これは「雑誌とパソコン通信」程度の時代に得た知識以降、インターネットが普及した後の20数年で得た「情報の質」がほとんど増えていないという見方もできる。ホームページやTwitterなどで公式発信する機会が増え、またファンクラブサイトなどで相互に情報交換ができるようなってはいるものの本質的な理解につながる情報発信が行われていないのではないだろうか。もちろん基地内生活の一端(食事の内容や質、トイレットペーパーの管理など)が(主に不祥事が原因となって)一般に知られるようになり、「情報量」は格段に増えているとは思っているのだけれど。「末端や些細な事項・無難な事項・表面的なウケ狙いの事項」の情報は増えれども「本質的な情報」は少なくなっているような気がするのだな。「なにかと叩かれたから委縮して」しまったのだろうか。

 

 カナダのスノーバーズ(およびCF-18デモチーム)には「我々に来て欲しければコレを読んだうえでフルショーなら毎年8月1日までに、フライバイのみなら90日前までに様式に記入して申し込め」という案内が部隊のHPに掲載されている。「そこまで展示飛行に関する情報が整備されている」ことに注目して欲しい。

・参考URL:Booking request - Royal Canadian Air Force - Canada.ca

 

 2021年夏に次回のオリンピック開催を迎えるためにフランスのパトルイユドフランスがパリのエッフェル塔周辺を旋回したシーンを見て、その低さに驚いた人もいたことだろう。

 アメリカ合衆国を代表するナショナルチームは空軍のサンダーバーズだが、海軍では独自にブルーエンジェルスという”ローカル”チームを保持していることはご存じの通りだ。

 お隣韓国のBlack Eaglesは平均すると毎月2~3回程度の展示飛行を実施しているが、中国の八一表演隊は2年に一度の珠海ショーには参加するものの、これ以外の活動が報じられることはほとんどない。

 国情により、その国の空軍力を誇示するチームを支える予算も運営の考え方も違うので、「同じことをやれ」とは言わない。だけど他国がやっていることを見て「同じことをやれないか、なぜできないか、どうしたらできるようになるか」ということを「提案する・考える・考えた結果を公表していく」というプロセスは、一国の中でのチームの立場を理解することにつながるのではないだろうか。

 コロナが収束しつつある昨今、もとの「ルーチン展示飛行」に戻ってしまうのではないかな~という気がしている。この記事が「それでいいのか?」という話題のネタになれば幸いです。

以上