<編集履歴> 03Jun.2021公開、19Sep.2025見直し更新(第13回目、見直し実施、写真追加)
「国内に一機しかない機体」を見に行こう!
本記事では原則としては一機種一機しか現存していないものを取り上げるが、気が向いたらサブタイプごと(A型とかB型など)も加えたり、特別仕様機もカウントする。また複数機が存在していても、一般公開されている機体は一機だけという場合も取り上げておこう。「あの装備品を取り付けた機体はアソコにあるヤツだけ」とか「コッチの機体はココが他と違う唯一の機体」などという話を取り上げていくとキリがないが、まぁ固いことは言わずに緩い括りで「唯一の機体」ということにしておく。読者の皆さんご自身の基準で再構成したり、「あの機体がリストから抜けてるのは許せないっ!」などと話のネタにしていただければ幸いです。なお「国内唯一の機体」の対象は私の趣味の範囲から自衛隊機とします。在日米軍の展示機と大戦機はほぼ全てが「一機種一機のみ」なので、原則としてここでは扱いません。あしからず。
さて経験上の話となりますが、「唯一」となっている機体は早めに訪問しておくと良いでしょう。「いつまでも あると思うな 用廃機(詠み人知らず)」
【航空自衛隊】
航空自衛隊で用廃後に展示機となった機種のほとんどは複数機が存在しており、本記事で取り上げるものはごく少数でしかない。純粋に「唯一の機体」をリストアップとすると、浜松のT-28Bとバンパイア、そして美保基地のC-1の3機だけとなってしまう。そこで「特別仕様機」と「一般公開されている機体は一機だけ」という機体なども合わせて紹介しておこう。
1. C-1 (38-1003) 美保基地
国産初の中型ジェット輸送機C-1は2024年度末をもって全機が退役する予定だ。”銀ちゃん”ことC-1初号機が岐阜基地もしくは岐阜かかみがはら航空宇宙博物館に展示されるのではないか?とか、浜松広報館に1機が展示されるのでは?とか、所沢航空発祥館が建物の前に展示する計画を持っているとか囁かれているが、2024年12月31日時点では本機が国内唯一の展示機だ。米子や境港の観光協会関係者は、今のうちに「国内唯一」のタイトルを使い、「観光名所」としてイロイロと盛り上げて欲しいと思う。
写真1 美保基地のC-1は国内唯一の展示機だ。(2021年4月1日撮影)
2. F-15J (52-8846) 大慶園
スクラップとなった機体の操縦席部分のみを展示している。「本Blogで紹介するのに適切な展示物か?」と常に悩む存在だ。他に垂直尾翼を用いたモニュメントが築城基地と那覇基地の2か所に存在するので「唯一の胴体部分(本体部分)の展示機」としておこう。
写真2 大慶園に置かれたF-15Jの機首部分。(2021年3月4日撮影)
3. RF-4E (47-6901) 百里基地
機首にカメラを装備した偵察型ファントム。2022年1月に先代展示機906号機が解体され、その後に901号機が展示された。2022年3月末には再塗装によりオモチャのような色合いになってしまった。
写真3 国内唯一のRF-4E偵察機なのだが、塗装がねぇ・・・。(2022年5月29日撮影)
4. RF-4EJ (87-6412) 茨城空港
戦闘機型から改修された全15機の偵察ファントムのうち、7機存在した限定改修型(初期改修型)。機首にカメラを装備したRF-4Eとは異なり、戦闘機を改造したRF-4EJは胴体下に偵察機器を収めた3種類の偵察ポッドを装着して運用していたが初期に改修された本機はこのうち1つのポッドしか搭載できない限定改修型だ。この機体のほかには機首部分のみが福島県のオールドカーセンタークダンにあったが、2025年春に撤去された。また垂直尾翼を利用したモニュメントが百里基地内に存在するが、全機展示機となっているのは本機だけだ。
なお、試作機1機(87-6406)を含む8機の量産改修型のうち、47-6347号機はBDR(Battle Damge Repair:戦時損傷修理)訓練機として浜松基地の格納庫内に置かれていた。機体の現状は不明だが、2023-2024年ごろであっても、スクラップとはならずに残されていたようだ。これらRF-4EJが使用していた特徴ある偵察ポッドが残されていないのが少々残念だ。
写真4 2022年3月末に再塗装されたRF-4EJ。(2022年5月29日撮影)
5. バンパイア T.55 (63-5571) 浜松基地保管(非公開)
戦後初の国産練習機を開発する際に、航空自衛隊では事前検討を行うために操縦者が横並びになる本機と前後に並ぶT-28B(後述)を、それぞれ一機ずつ購入して評価した。浜松広報館に展示されていたが、2021年3月8~12日のリニューアル工事に際して格納され、非公開となってしまった。
写真5 格納されたため、現在は見ることができないバンパイアT.55。(2007年1月6日撮影)
6. T-28B (63-0581) 浜松基地保管(非公開)
上記バンパイアの項で記したが、戦後初の国産練習機を開発する際の参考として購入した機体。2021年3月のリニューアル時に格納保管されてしまい、現在では見ることができない。
写真6 T-28B。(2018年8月13日撮影)
7. UF-104J (76-8698) 浜松広報館
本機(698号機)は展示に際してUF-104J仕様に改修した機体で、この仕様でフライトしたことはない。操縦席近傍上下に増設された無線操縦用のアンテナに注目しよう。貴重な機体でも次々に廃棄される中にあって、小さなアンテナの増設だけとはいえ展示用として、従来機を改修してまで展示したことの意義は極めて大きいといえるが、あとが続かなかったのはつくづく残念に思う。
写真7 UF-104J仕様機。(2019年4月20日撮影)
8. T-33A (61-5221) 岐阜かかみがはら航空宇宙博物館
TPC(Test Pilot Course)で使用されていた時を再現し、標準ピトー管を装備。見えないところではデータレコーダーを搭載したり、胴体前方に重りを搭載して安定性を変えられるようにしてある。T-33Aは201号機からが国産機だが、221号機は「全ての部品が国産となった」初号機でもある。岐阜基地で使用されたあとは入間基地で運用されていたが、展示に際して岐阜基地TPC仕様に戻された。
写真8 T-33Aに標準ピトー管を装着した特殊仕様機。(2019年11月11日撮影)
9. T-2CCV (29-5103) 岐阜かかみがはら航空宇宙博物館
T-2の試作3号機に魔改造を施した特別仕様の実験機だ。ただし「T-2CCV実験機」は「単座機」で後席には計測機器を搭載していたが、試験終了後に計測機器を取り除き、複座に戻してTPCで数年間使われていた。博物館では引退当時の「複座機」の姿で展示されているので、もはや「実験機」ではなく「特別仕様機」というべきなのだろう。市販模型の一部にはベントラルフィンが付いているものがあるが、写真を見ての通り実機には付いていない。こだわる方は自分で手を加えて実機に近づけよう。
写真9 T-2CCV。(2020年12月16日撮影)
10. T-2特別仕様機 (59-5107) 岐阜基地
F-1のプロトタイプ2号機で、。プロトタイプ1号機(106号機、解体済)より数日速く初飛行を行っている。なお本機を「F-1」と称し、プロトタイプの初飛行日を「F-1の初飛行日」とする記事がネット上に存在するが、背景確認のおろそかな記事だと思っている。歴史は正しく後世に伝えよう。
【主張】三菱F-1の初飛行日は1977年6月16日 - 用廃機ハンターが行く!
写真10 T-2特別仕様機。後席内部は金属板で目張りされている。(2022年11月13日撮影)
11. H-19C (91-4707) 芦屋基地
20年以上前から番号を”91-4777”と記入して展示されている。浜松広報館の91-4709号機が2021年3月に格納されたため、現在見ることが可能な唯一の展示機となった。
写真11 現在、唯一見ることのできる芦屋基地のH-19C。(2018年2月18日撮影)
12. H-21B (02-4756) 浜松広報館
国内に2機あるが展示されてるのは本機のみ。もう一機は岐阜基地内で格納保管されている。
写真12 貴重な機体だが屋外展示のためキャノピーが劣化している。(2018年8月13日撮影)
13. サーブ・サフィール91B改/X1G研究機 (TX-7101) 岐阜かかみがはら航空宇宙博物館
三自衛隊ではなく、防衛庁技術研究本部(当時)が保有していた機体だが、ここで紹介しておく。では、飛鳥は?というと、こちらは科学技術庁(当時)の機体であり、防衛関連とは明らかに管轄が異なる航空行政の開発機となるので、ここでは紹介しない。
さて、本機は高揚力を発生させるための機構の試験や、翼周辺の空気流制御の試験に供された機体だ。現在は岐阜かかみがはら航空宇宙博物館にて展示されている。
写真13 空力的制御のデータを残したサーブサフィールX1G。(2018年8月19日撮影)
【海上自衛隊】
サブタイプを含めるという条件で「唯一の機体」をまとめると、S-61シリーズとHSS-2シリーズ(つまりH-3系統ですね)がリストに加わることが判明した。紹介する機数を増やすためにリストに加えておく。鹿屋基地史料館を訪問すると「海自唯一の機体」のほぼ半数を一度に見ることができる。これはもう、行くしかないネ!
1. UF-XS (9911) 岐阜かかみがはら航空宇宙博物館
永らく三保で屋外展示となっており、ボロボロだった機体を復元させた。
写真14 綺麗に復元されたUF-XS。見るべき点は多い。(2019年11月11日撮影)
2. T-5 (6334) 小月基地 現用機だが、展示機となったものは本機のみ。一時期、用廃機が廃棄物処理業者の敷地に展示されていたが現存していない。
3. TC-90 (6810) 徳島航空基地、他に消火訓練機が存在するが展示機は本機のみ。
写真15 徳島航空基地の正門奥にあるTC-90。(2022年10月1日撮影)
4. S-61A (8181) 名古屋港の南極観測船ふじ
写真16 撮影時間によってはブリッジの影が機体にかかる。(2017年10月8日撮影)
5. S-61AH (8941) 鹿屋航空基地史料館
S-61の救難仕様機。前部胴体のみ、というかキャビン部後部にて尾部を切り落として展示している。
写真17 S-62AHの前半部が館内に展示されている。YS-11のエンジンやプロペラも脇にある。(2022年1月20日撮影)
6. ベル47G-2A (8753) 鹿屋航空基地史料館
写真18 (2008年5月17日撮影)
7. HSS-2A (8074) 鹿屋航空基地史料館。B型は数機残存するもA型は本機のみ。
写真19(2020年10月8日撮影)
8. OH-6J (8763) 鹿屋航空基地史料館
陸上自衛隊では数多くのOH-6シリーズが使用されたが、海上自衛隊では訓練用途としてOH-6J/D/DAの3機種がそれぞれ少数機が鹿屋基地で使われていた。
写真20 海自のOH-6シリーズで現存するのは本機のみ。各地にあるように感じるのは陸自の展示機が多いから。(2020年10月8日撮影)
写真21 P-2Jとどこが異なっているのか現地で見比べてみよう。(2009年5月16日撮影)
10. R4D-6 (9023) 鹿屋航空基地史料館
国内で運用されたC-47/DC-3系統の機体で、一機丸々残っているのは本機のみ。青森県のとびない旅館に機首部分が保管されている。また国内運用機ではないが、映画撮影用にタイから運んできた元AC-47が浜名湖畔に置かれている。
写真22(2008年5月17日撮影)
11. P-3C (5020) 下総基地
現役機だが、調達数の概ね2/3がすでに退役している。大型機を広報展示用に残すのは流石に維持管理が大変なので、展示機となった機体は存在しない。1機のみが第3術科学校にて教材として使用されている。なお「P-3系統の機体」という括りでみると、三沢基地に隣接する青森県立航空科学館に米軍から貸与されたUP-3が展示されている。
写真23 第3術科学校のP-3C教材機。ラダーは外されている。(2015年9月26日撮影)
【陸上自衛隊】
「陸上自衛隊唯一の機体」の大部分は所沢航空発祥記念館に集められていることが判る。つべこべ言わずに行って見てくるべ。ついでにりっくんランドに立ち寄れば「陸自機唯一の機体」の62.5%を一日でゲットできる・・・。
試験評価のために先行導入したAH-1Sの1号機と2号機は米軍のE型相当の機体で、後のF型相当の機体とは排気口の形状が異なっている(細かい点では、その他モロモロ違う)。このうち初号機が朝霞駐屯地の一角にある陸上自衛隊広報センター”りっくんランド”に展示されている。
量産型(F型相当)はその初号機(通算3号機)がSUBARUの宇都宮事業所にあるようだし、帯広駐屯地の正門脇にも展示されている(これは一般人が目にすることのできる唯一のF型相当機の展示機)が、りっくんランドにあるのは”2機しか調達されなかったE型相当の機体”だ。
写真24 陸上自衛隊の広報施設りっくんランドにあるAH-1S初号機。(2019年8月11日撮影)
2. L-5E (S/N?) 所沢航空発祥記念館(リニューアル工事のため閉館中)
L-5GのS/Nである”535025”を記入。
写真25(2018年8月22日撮影)
3. L-21 (12032) 所沢航空発祥記念館(リニューアル工事のため閉館中)
写真26(2018年8月22日撮影)
4. KAL-2 (20001) 所沢航空発祥記念館(リニューアル工事のため閉館中)
写真27 所沢航空発祥記念館のKAL-2。ここは「陸自唯一の機体」の宝庫だ。(2018年8月22日撮影)
5. H-19C (40001) 所沢航空発祥記念館(リニューアル工事のため閉館中)
全機展示されているのは本機のみ。河口湖自動車博物館のバックヤードにキャビン部が放置されている。現在はリニューアル工事で見ることはできない。なお当初計画では撤去されることになっていた機体だが、どうなることやら。リニューアルオープンを楽しみにしていよう。
写真28 開館当初から展示されているH-19C。(2018年8月22日撮影)
6. V-44A (50002) 所沢航空発祥記念館(リニューアル閉館中)
国内に残されているのは本機のみだが、現在はリニューアル工事で見ることはできない。なお当初計画では撤去されることになっていた機体だが、どうなることやら。リニューアルオープンを楽しみにしていよう。
写真29 同系統の機体は航空自衛隊に2機存在するが、陸自機ではこの機体のみ。(2018年8月22日撮影)
7. OH-6J (31058) 岐阜かかみがはら航空宇宙博物館
複合材ヒンジレス・ロータ・システム実験機。試験終了後は通常使用に戻され、用廃後は北海道日高弾薬支処に展示されていたものを新たな機体(茨城県霞ケ浦駐屯地の武器補給処から陸送)と交換することで入手した。さらに試験時のローター部品等の貸与を受けたため、実験当時の姿に蘇らせることができた。
写真30 ロータシステム実験機。上からロータ部を見られる配置が嬉しい。(2019年11月11日撮影)
8. V-107A (51736) 木更津駐屯地広報館
1機のみ製造されたVIP輸送型。側面に四角形の窓が8個並んでいるのが特徴だ。
写真31 用廃となり、木更津駐屯地祭で機内公開されたV-1074A。現在は展示館内にあり、駐屯地公開行事の際に見学・撮影できるが、撮影条件がよろしくないので、屋外にて展示された際の画像を用いることにした。(2006年2月12日撮影)
【在日米軍】
在日米軍機の展示機はほぼ全てが「国内唯一」の機体だ。ここで機種を列挙すると別記事と内容が被ることになるので、ここはどうか別記事の方を参照していただきたい。なお複数機が存在するのはF-4C(2機)、F-16A(2機)、A-4E(2機)の3機種だ。
【まとめ・余談】
結局のところ、国内の主要な航空博物館である浜松広報館、岐阜かかみがはら航空宇宙博物館、所沢航空発祥記念館、鹿屋基地航空史料館の4か所を制覇、もとい訪問すれば大部分を見ることができるということですね。
貴重なバンパイアとT-28Bを、一般の目からあえて遠ざける方策を執った浜松広報館の展示方針はやはり賛同できないなぁ・・・。
【本記事紹介後に撤去/廃棄/個人コレクターへ譲渡】
1. H-13KH (30217) 福島県 オールドカーセンター・クダン
機体番号を”30216”と記入して展示されていたが、2025年春に撤去された。個人コレクターへ譲渡されたものと考えている。なお同型式の民間機は静岡ヘリポートに置かれている。
写真32 同形式の民間機展示機が静岡ヘリポートにあるが、陸自機は本機が最後の1機であった。(2019年8月24日撮影)
【参考】
岐阜かかみがはら航空宇宙博物館展示機に関する背景・裏話は「航空機を後世に遺す 歴史に刻まれた国産機を展示する博物館づくり」(横山晋太郎、2018年、グランプリ出版)に詳しく記載されています。現在も入手可能な書籍ですので、お薦めです。
以上