<編集履歴> 04Mar.2020公開、30Aug.2024見直し更新(第4回目、見直し実施)
【はじめに】
どこで用廃機が発生するかって?「今までその機体を使っていた基地に決まってんじゃん!」という方は少々間違ってます。
私自身は防衛関係者ではないので、外から見たコト、聞いたコト、資料等を読んだコトをまとめてみました。情報を得たのは10年以上の長い期間に渡っておりますので、現時点での要領や手順とは異なっているかもしれませんが、その辺はお許しください。「ご参考程度」として読んでいただければ幸いです。
【用廃とは】
「用途廃止」の略語。「用途廃止」という言葉は国有財産法に出てくる言葉だそうだ(ホントかどうかは私自身は未確認)。逆にいうと「国有財産法が適用される範疇でしか(公式には)使わない言葉」ということになる。「同義」の言葉として普通財産や個人の財産に使う分には全く問題はないのだけれど、一応は「定義」として述べておく。
【航空自衛隊】
1. 原則として「耐用命数の尽きた(用廃となった)」機体を直前まで運用していた基地で管理します。運用中の同機種で使える部品や防秘に該当する部品、輸出されて他国で使われるとマズイ部品などは基地内の整備担当部署で取り外します。この時点までに基地内展示や訓練機として活用する話や、無償貸与の話が無ければ、スクラップ、あるいは他国への譲渡/売却となります。本Blogの他記事で都度書いていますが、一機種あたり導入数の大部分(80%程度かな)はスクラップとなります。(スクラップの話は2へ、無償貸与の話は3.へ進む)
2. 機体を廃棄してスクラップにする場合には、機体を直前まで運用していた基地で必要な部品や機密部品を取り外したうえで、「有価物(金属くず)としての売り払い」や「廃棄物(防衛省としては不要かつ保有していても価値のない物品)」という形にしたのち、「有価物の売り払い」や「解体と廃棄物処分をお願いします」という内容の公告を発し、入札を行って処分業者を決めます。公告は各基地の調達情報で見ることができます。事故機を処分する場合も同様です。また廃棄処分の際の条件として「二度と飛べないように」、「コクピット後部から主翼前縁の間」、「胴体と翼」「垂直尾翼の前、主翼後縁辺り」、「胴体と垂直尾翼」を切断することが求められます。これは公園などに永らく展示されていた古い機体についても適用されます。
3. 航空自衛隊の戦闘機を庭先に飾りたい!という場合には、お近くの地方協力本部か本庁の広報担当部署にご相談。話がまとまれば、恐らくは申請書提出→本省審査・承認→本省から機体を持っている近隣の基地・部隊への指示→基地側で搬出準備(借用者側で移送準備)→めでたく設置という流れになるハズです(ザックリ説明です)。広報展示を行う場合には「無料で貸し出す」ので、機体自体の費用は不要ですが、事前に展示場所の整備費用、基地から展示場所までの移送費用、展示中の管理費用が発生します。また「返却時の移送費用」も必要となります。さらに用廃機を貸与されることが決まってから移送するまでに時間がかかる場合には、用廃機の地面への投影面積に対して「国有地を借りて置かせてもらっている」状態となるので「土地使用料」が発生します。展示までの準備にかかる費用は機体の大きさや搬送距離にもよりますが、1千万円以上(1990年代ごろに聞いた価格)とのこと。現在では人件費などの経費が上がってますし、機体も大きくなっているので数千万円程度(3千万円~5千万円程度)と考えておいてよいでしょう。
さて、無償貸付となる広報展示機の場合には、書類手続き上は基地所属の「航空機」から防衛省の保有する「物品」へ変更されます。これを地方協力本部が窓口になって展示場所に貸し与える形になるようです(防衛省のモノだが、地方協力本部が窓口になって書類のやり取りや展示状況の確認、撤去の段取りなどフォローを行う)。もともと当該機を運用していた部隊もしくは展示場所に近い同機種の運用部隊に対しては、(設置者から、窓口である地方協力本部を経て)本省からその機体の貸与に際して各種のフォローをする旨の業務命令・依頼が発せられる形になるのでしょう。この無償貸付に関する業務のフローは十分に確認できていない事項ですので、ご注意ください(いつか、誰かがキチンと取材して、まとめて公表してくれることを希望しちょります)。
4. 永らく近隣の公園等に貸与展示し、ボロボロになった機体を処分する場合には展示場所側と取り決めの上、現地で解体して廃棄物業者に搬送するか、一旦基地に返送してから、改めて解体処分するかのどちらかとなるハズです。現地解体、基地もしくは処分場への搬送、その後の処分などは状況に応じた形で入札を行い、業者を定めて実施します。ルール上では「貸与」した機体は一度防衛省(基地)に「返却」したのち、所有者である防衛省(基地)が処分を行う(上述の廃棄物処分の公告を出す)という流れとなっていますが、これを律義に行うと移送費がかさみますね。現実的には書類上で返還手続きを済まし、実機は公園で解体して、廃棄物業者に直接搬送することをやるケースが多いように思われます。なお、律儀に基地に返還したうえで、別途、業者に依頼して解体するケースもあります。詳細は知りませんが、規定を杓子定規に実施すると「無駄がありそうだな~」という疑問を提起しておきます。
写真1 動翼など使用可能な部品を外され、解体を待つRF-4EJの用廃機群。(2012年10月21日航空祭にて撮影)
【陸上自衛隊】
1. 陸上自衛隊の機体の場合、現地で教育用に使用するとか駐屯地の近隣で広報展示するなどの特別な理由が無い場合は最後に霞ヶ浦駐屯地の関東補給処航空部に飛来して航空機としての生涯を終えます。これが冒頭で「今まで使っていた基地で用廃になるワケではない」と書いた理由です。霞ヶ浦駐屯地内(関東補給処)で機体から使える部品や機密部品を取り外して保管し、必要に応じて部隊に供給したり、一括して廃棄するための諸手続きを行っているのですね。
このため倉庫の中でUH-1、OH-6、AH-1などの用廃機がズラリと並んでいる様子が公開日に見られることがあります(近年は管理が厳しくなって見られないことが多い)。またネット上には用廃となったAH-1が並んでいる様子などがありますので、興味ある方は検索してみてください。
2. 陸上自衛隊機を展示したい!という場合の手続きは航空自衛隊と同じです。しかし関東補給処に一度運び込んでから、展示用に搬送すると費用が嵩む場合がありますので、なるべく早めに相談して、近くの基地から搬送できるようにしましょう。
3. 貸与・展示された機体を処分する場合は航空自衛隊機と同様ですが、感覚的には駐屯地に持ち帰らず、現地で解体して廃棄物業者に直接搬送する例が多いように思います。駐屯地の廃棄物置き場に置かれている元展示機の目撃例が少ないだけかもしれませんが・・・。
写真2 広報展示予定機や教材用機/訓練機は、用廃となった後も駐屯地内に残されている。(2015年10月11日木更津駐屯地祭にて撮影)
【海上自衛隊】
1.海上自衛隊の機体の扱いは原則として航空自衛隊同様です。ただし舞鶴航空基地および硫黄島基地の所属機は、用途廃止となる1~2年くらい前には、その他の基地に移籍させます。その基地で用廃としたあと、管理・保管・廃棄物としての処分を行うようです。恐らくは近隣に適切な解体処分業者がいないための処置でしょう。
写真3 必要な部品を外し、解体を待つHSS-2。(2005年6月30日下総基地祭にて撮影)
以上