<編集履歴> 24Feb.2020公開、22Feb.2025見直し更新(第14回目、見直し実施)
【はじめに】
海上自衛隊の救難飛行艇US-2の初号機(9901号機)は2003年12月8日に当時の名称である”US-1A改”として初飛行したが、21年間に渡る運用(各種開発試験を含む)の後、2024年度中に除籍された。US-2の開発経緯については月島冬二氏のマンガ「US-2救難飛行艇開発物語」(小学館ビックコミック増刊号に2020年まで連載。現在はコミック全4巻を入手可能)によって、広く一般に知られることになったが、連載当時から「本格的な理系漫画」などと評されていたので、描かれている内容が理解しづらかった方もおられることだろう。
さて、本記事ではコミック「US-2救難飛行艇開発物語」の中で描かれていた、過去に開発された飛行艇を間近に見ることのできる場所を紹介しよう。また、現用機US-2が見られる場所についても紹介する。機体をジックリ眺め、理解を深めようじゃないか。
写真1 赤白の試験塗装を施していたUS-2初号機。開発試験が終わって部隊使用承認が下り、名称は”US-1A改”から”US-2”となった。この写真を撮影したのは、時期的には運用試験を行っていた頃のものだろうか。(2009年5月17日、鹿屋基地航空祭/エアーメモリアルかのやからの帰投時の撮影)
【飛行艇の展示場所】
大型飛行艇を見ることの出来る場所を、機体の開発時期の順に紹介しよう。それぞれの展示場所へのアクセス等は、それぞれの展示場所を紹介したリンク先に記載しているが、最新情報は各自にて検索を行って確認して欲しい(他力本願モード)。
【1.二式大艇:海上自衛隊鹿屋基地航空史料館(鹿児島県)】
鹿屋航空基地の正門前には、第二次世界大戦中に開発/運用された二式大艇が屋外に展示されていて、いつでも見ることができる。その近くには航空史料館があり、原則として年末年始を除き、無料で見学できる。館内にはゼロ戦があり、また救難飛行艇US-1A(後述)などの海上自衛隊で使用されてきた航空機等が10機程度が史料館の周りに展示されている。アクセスは鹿児島空港から鹿屋バスターミナル(リナシティ)までバスで75~100分。そこからタクシーで数分程度、徒歩なら20分くらいだろう。鹿児島市内からは鴨池港から垂水港へとフェリーで渡り、鹿屋方面へのバスを利用する(「航空隊前」下車)。このバスは2時間に一本程度なので、事前に出発時間をよく調べておこう。
・参考/本Blogでの展示場所紹介記事;
【鹿児島県】海自 鹿屋航空基地史料館 - 用廃機ハンターが行く!
写真2-1, 2-2 鹿屋基地史料館の二式大艇。前方からの撮影は少々難しい。(2-1: 2005年5月14日、2-2: 2020年3月10日撮影)
【2.試験機UF-XS:岐阜かかみがはら航空宇宙博物館(岐阜県)】
戦後、新たに開発することになった対潜飛行艇(のちのPS-1)を設計する前に、必要な技術データを取得することを目的として、米軍からアルバトロス飛行艇の供与を受け、これを徹底的に改造した試験機UF-XSが展示されている。機体の左右の波消板の形状が異なる/主翼のエンジンおよびプロペラの羽根の枚数が内側と外側で異なる/操縦席の後上方にジェットエンジンを2基搭載しているなど、たくさんの見どころがある機体だ。屋外にはPS-1の発達型であるUS-1A(後述)も展示されているので、一日かけてジックリと見学したい。公共交通機関でのアクセスは、名鉄各務ヶ原線の各務ヶ原市役所前駅からコミュニティバスを利用するが、バスの本数が少ないので、事前に時間をよく確認してから出かけよう。
・参考/本Blogでの展示場所紹介記事;
【岐阜県】岐阜かかみがはら航空宇宙博物館(その1、概要と屋外展示機) - 用廃機ハンターが行く!
【岐阜県】岐阜かかみがはら航空宇宙博物館(その2、屋内展示の固定翼機) - 用廃機ハンターが行く!
写真3 岐阜かかみがはら航空宇宙博物館にあるUF-XS。外側と内側でエンジンが異なるとか、左右で波消装置の形状が違うとか、実験機ならではの様々な”秘密(トリビア)”が観察できる機体だ。(2019年11月11日撮影)
上述したUF-XSで得られたデータを元にして、戦後初めて開発された対潜哨戒飛行艇PS-1は23機が製造されたが、現在、国内に残されているのは1機のみとなっている。その機体は山口県の岩国基地内に置かれているのだが、残念なことに一般公開日であっても間近に見ることはできない。仕方がないので、今津川の堤防から遠望しよう。岩国市には飛行艇博物館を建設するという構想があるが、もう10年くらい前から「作りたいなぁ」というだけで、進展の兆しが見えてこない。朽ち果てる方が先だろうと個人的には思っている。
写真4 岩国基地公開日に基地内から遠望したPS-1。今津川の堤防からだとゴマ粒レベルだが、いつでも見ることはできる。(2023年4月15日撮影)
【4.US-1/US-1A:岐阜県岐阜かかみがはら航空宇宙博物館および鹿児島県鹿屋航空基地史料館】
PS-1は陸上の滑走路からの「離着陸」はできず、水上に浮かんでから「離着水」することしかできなかったが、これに頑丈な脚を取り付け、陸上基地からの離着陸もできるようにしたのが救難飛行艇US-1だ。9077号機以降はエンジンをパワーアップさせたので、US-1Aと呼んでいる。もちろん超ザックリとした話なので、詳しいことはWikipediaでも読んでください。US-1/US-1Aは全部で20機が製造され、現在では岐阜県の岐阜かかみがはら航空宇宙博物館および鹿児島県の鹿屋航空基地航空史料館にそれぞれ1機が展示されている。展示施設の詳細やアクセス方法は、上述した記事と、それぞれのリンク先などを参照していただきたい。
写真5-1 US-1として製造されたが、後年、US-1Aに改修された鹿屋航空基地史料館の9076号機。この写真を撮影した際にはフラップと方向舵が台風被害によって無くなっていたが、その後、整形・修復された。(2008年5月17日撮影)
写真5-2, 5-3 岐阜かかみがはら航空宇宙博物館の屋外に展示されているUS-1A。溝型波消し装置や陸上基地での運用を可能にした主脚取付部など、独特の構造をジックリと観察しよう。(5-2: 2018年8月19日、5-3: 2019年11月11日撮影)
【5.現役機US-2:見られる場所の紹介】
2025年2月22日時点において、救難飛行艇US-2は9901-9908号機の8機が納入済だが、初号機9901号機はすでに除籍されており、また、9905号機は事故で抹消されているため、6機しか存在していない。これらUS-2の実機を見るには、全国各地の自衛隊航空基地(滑走路のある基地)のイベントに足を運ぼう。自衛隊航空基地では原則として年に一回は「航空祭」、「航空ショー」、「開庁記念祭」などの名称で公開日を設けており、US-2だけでなく各種のホンモノの航空機を間近に見ることができる。開催日は各基地のホームぺージや各県の地方協力本部のサイトなどで確認しよう。なおモロモロの事情によってUS-2が必ず見られるワケではない。本Blogでは”見られる可能性”のある基地を紹介しておく。
写真6-1 US-1Aと並んでタキシングするUS-2の2号機(白青の試験塗装時のもの)。(2009年10月4日、岩国基地祭で撮影)
(1) 毎年見ることができる基地
US-2を運用する第71航空隊のある山口県の岩国基地では例年5月の連休後半に米軍と共に基地公開を行うが、その際には必ず展示される。
(2) かなり高い確率で見られる基地
海上自衛隊大村航空基地(長崎県、5月中旬頃)、海上自衛隊鹿屋基地(鹿児島県、4月末頃)、海上自衛隊徳島基地(徳島県、9月後半頃)
(3) 2~3年に一度くらいの確率で見られる基地
厚木基地(神奈川県、米軍側、4月~5月頃)、海上自衛隊下総基地(千葉県、9月頃)、海上自衛隊八戸基地(青森県、7~9月頃)
(5) US-1時代を含めて展示実績のある基地(運が良ければ見られる基地)
海上自衛隊小月基地、全国の滑走路を有する航空自衛隊の基地
(6) 展示されたことがない(と思われる)基地(諸事情により、まず見られない基地)
陸上自衛隊の駐屯地、海上自衛隊大湊航空基地(青森県)、海上自衛隊館山航空基地(千葉県)、海上自衛隊舞鶴航空基地(京都府)、海上自衛隊小松島航空基地(徳島県)。なお小松島基地には揚陸用のスベリ(滑り台)があるため、PS-1が沖合に着水したのち揚陸して展示されたことがある(Flyteamさん投稿写真より1976年3月8日)が、PS-1引退後は(スベリの保守点検の都合か)US-1/US-2の揚陸は行われていない。
写真6-2 航空自衛隊築城基地航空祭に展示されたUS-2。(2019年12月8日撮影)
6.その他
自衛隊が主催、あるいは協力する海上イベントに参加することがある。過去には観艦式、各地で行われる体験航海、東京・葛西で開催されたレッドブルエアレース2019、能登半島輪島沖や九州佐伯沖でのイベントなどにUS-1AやUS-2が参加している。思わぬイベントで離着水を間近に見られることがあるので、基地・駐屯地・地方協力本部のサイトのイベント情報をこまめに確認しておこう。なお小笠原の父島では急患搬送の実任務や訓練のため月一度くらいの頻度でUS-2が飛来する。機体は海上に着水して揚陸するので、これを狙うのも良いが、一般旅行客が現地に行く場合には東京港から小笠原まで船で片道24時間、往復で6日ほどかかる。
写真7 体験飛行に飛び立つUS-2(9904号機)。(岩国基地公開、2010年9月19日撮影)
7.試験飛行
新明和の工場がある神戸では、新造機の試験飛行や定期点検整備のためにやってくる現用機を見ることができる。ただし新造機の製造は年に1機未満、定期点検整備の頻度は年に1~2回程度。それぞれ試験飛行は3~5回程度なので、年間に見られる日数は多くても10日間程度だ。そのうえ機体の調子を確認する「試験」なので、事前のチェックで不具合が見つかれば、当日予定されていた飛行は中止される。その場を見ることは相当に困難なので、仕事を何日も休んで現地に通い詰める覚悟が必要だ。なお、1967年10月24日のPS-1初飛行(初飛行時の名称は"PX-S")以来、60年近くも神戸沖で離着水を行っているが、今でも着水後には”飛行機が墜ちた!”という通報があるそうな。情報化の進んだ世界になったと言っても、個人の認識レベルはこの程度なのだろう。
写真8-1, 8-2 神戸港周辺では試験飛行を行うUS-2を見られることがある。(7-1: 2020年11月4日、7-2: 2022年5月16日撮影)
以上