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【雑談】消えゆく機関砲標的

<編集履歴> 07Aug.2023公開、08Aug.2023見直し更新(第1回目、字句表現等見直し)

 

JASDF seems to be finished their AAG training using with A/A37U-36 AGTS.


 2023年7月30日に行われた千歳航空祭の投稿写真を見ると、どうやら機関砲標的A/A37U-36は展示されなかったようだ。
 コロナ前から展示が無くなる傾向があった。またコロナ明けの昨年度の航空祭はどこも規模縮小気味の公開だったので、展示されていなくても仕方ないやという気持ちがあったが、フル公開となった今年「も」展示されないのは「おや?」と思う。

写真1 A/A37U-36システムの曳航装置(RMK-35)と標的部分(TDK-39)。(2012年9月23日小松基地にて撮影)

 

 映画の中ではステルス戦闘機をも撃墜する固定機関砲。だけどF-35Aでは「お守り」程度の意味合いでデッドウエイトと知りながら搭載しているだけだし、F-2ではAAG(空対空射撃)訓練支援システムは存在しない。近年ではF-15でも、この標的を搭載している姿はほとんど目撃されていない。サラリとTwitter(X)で検索したところ、最後に(最新の写真で)この標的を装着したF-15が撮影されたのは新田原基地で2021年12月16日もしくは21日のことだったようだ。一般公開展示は2019年9月16日の小松祭が最後だったようだ(その後の新田原祭/那覇祭で展示されたという写真はネット上で見つけていない)。

 ここで念のため書いておくけれど、この標的が配備されているのはF-15飛行隊配備基地である千歳、小松、新田原、那覇基地だけだ。F-4EJ改には搭載できたがF-2F-35には搭載できないのだな。

 ここでWikipedia(やたら詳しいですネ)を読んでみると、2019年(令和元年)以降は部品調達も行われていないようだ。もしかしたら、在庫もすでに無くなっているのかもしれない。F-15配備基地の基地祭にて今後も展示されるかどうかに注目していよう。

機関砲標的装置(A/A37U-36) - Wikipedia

 

ベトナム戦争初期にミサイル神話が崩れ、F-4ファントムでは搭載が復活した機関砲だけれど、そろそろ終焉ですかねぇ。

写真2 曳航ポッドのワイヤーリール部分を開けたところ。(2011年12月11日那覇基地にて撮影)

 

写真3 標的部分。本体後部から電波を出し、この電波域を通過する弾数を頭の黒いアンテナを介して曳航ポッド側に送信する。曳航ポッド側で受信した信号(電波域を通過した弾数イコール命中と判定した弾数)をコクピットに表示するか、データとして持ち帰りデブリーフィングで評価するという流れだったようだ。なおネット上の一部の記事には曳航ケーブルを介して情報を伝達するように書かれているが、これは間違いでケーブルは引っ張るだけの機能しか持っていない。(2013年12月15日那覇基地にて撮影)

 

【空対空戦闘用の機関砲は生き残るか?】

 短射程ミサイルの最小射撃距離はAMI-9Lで1km、有効になるのは3km程度と言われてます。この1kmと言う距離は機体間の距離とミサイルの速度を考えれば「真後ろに占位置していれば、発射してまっすぐ飛んで直ぐに当たる」というレベルの話でしょう。長距離側の射程はAIM-9Lで18kmなんていう数値がネット上にありますね。まぁSRM(短距離ミサイル)なら、射程は20km程度かなとは思ってますが。

 さて敵機との距離が上述のとおり1kmを割り込むと機関砲の出番となるワケですが、そのような状況がどれくらいの頻度で起こり得るのだろうか?と個人的には思います(あくまでヒコーキ写真マニアレベルの見識で、ですヨ)。ここ数か月、JW誌では「BOOちゃん教官の空戦教室」(文:小峯隆生)という連載記事をやってますが、2023年8月号p.98では「F-15同士の空中戦では、ガン射撃になるような場面は実はあまりないんですよ」というコメントがでてきますね。

 F-35Aの場合の携帯弾数は180発です。一般に一回のガン射撃で50発程度が発射されるので3回くらいは撃つチャンスがあっても対応できるという発想なのでしょうし、これが現実的な実態を反映したものなのでしょう。機会は少ないけれど、ここぞという時に撃って当てるということに訓練リソース(弾の費用、ターゲットの整備費用、パイロットの訓練時間などなど)を費やすか、彼我の距離が1kmを割ったら戦術的に失敗と考えて離脱し、必要なら再度ミサイル戦に持ち込むか。

 機関砲標的を調達しなくなったことの原因の一つにはそんな考え方に変化があったのじゃないかな~などと考えております。

 機関砲標的が不要になった原因として考えられる理由は他にもありますね。

 一つにはシミュレーターが発達して、実射する必要性が薄れてきたこと。上述のように、そもそもガン射撃は現代では発生頻度が低い事案となっているようですが、その備えとしてどれだけ訓練にリソースを割くかという話にも繋がります。シミュレータで訓練して相手機にピパーが乗るようになってから実機で空戦訓練しすりゃいいじゃん。その時もガンカメラ(VTR)があるから実際に撃つ必要ないじゃんという話ですね。

 もう一つは航空機の制御が変わったコトとFCSの性能が良くなったコト。一言でいえば「今の戦闘機はタマを当てやすくなった」と言うコトでしょうか。

 1985年頃のT-2CCVによる実証飛行試験の中に目標追尾機能の向上というものがありましたね。T-2CCVの運動機能のほぼ全てを使って空中の1点(試験ではHUDに表示された模擬目標)を追尾し続ける能力の検証において、従来の人間の手による操縦に比べて「相当な」一点集中ができたとされています(日本航空宇宙学会誌に結果の一部が掲載されていたように記憶してます。T-2CCV特集をやった1990年頃の航空機シンポジウムだったかな)。これが、まぁFBW制御機の能力の一端なので、それから40年近く経った現在、FBW制御機では「当たり前のように」使える技術なのだろうなぁと思ってます(FBW制御機とはF-16以降の機体。自衛隊ではF-2F-35ね。F-15C/J辺りではコンピュータは操縦を”補助”するくらい)。より正確に書くとFCSと機体制御技術の統合が進んで、ピパーに捉えた目標にガンが当たるように機首(機銃軸)を目標に向け続けられるように機体を制御できるようになった、ということでしょうかね。いくらFCSが良くても機首(機銃軸)を目標に向けられなければ、何にもなりませんから。

 

 そんなこんなで実射訓練を行う必要がなくなり、機関砲標的は不要になってきたのだろうかな、なんて思うのです(あくまでシロート考えです。念のため)。

 ただし空対空戦闘用の機関砲そのものは「使う機会はほとんど無いけれど、チャンスがあれば逃さない」と言う「保険」のような意味で”まだ”しばらくは必要かなとは思います(だからF-35Aに標準搭載しているものと今は考えている。F-35B/Cは”必要なら後付けガンパック”という考え方ですね)。次世代戦闘機で機関砲は固定装備となるでしょうかね。

写真4 空対空戦闘用の機関砲はまだしばらく必要かな?F-Xでどうなるかが楽しみな装備だ。(2008年8月10日千歳基地にて撮影)

 

【余談/注意】

 本文でところどころ「”空対空戦闘用”機関砲」と書いているのは「対地攻撃用途」があるからです。F-2F-16あるいはスイスのAXALPでF-18が見せる対地射撃やA-10の機首にある30mmアヴェンジャー砲やSu-25のGSh-30砲(30mm)による攻撃ですね。これらは「これまでは」戦果をあげてますが、ウクライナにおける戦闘で見られるように性能の向上した携帯式防空ミサイルシステム(MANPADS / Man-Portable Air-Defense Systems)が普及すると、どう変わりますことやら。

写真5 A-10の30mm砲は話が別よ。(2019年9月15日横田基地にて撮影)

 

以上