<編集履歴> ??Aug.2018Mixiに海上自衛隊機全般の記事として公開、21Feb.2019はてなBlogに移設して公開、08Nov.2024全般記事からU-36Aだけの単独記事として独立分離、12Nov.2024見直し更新(第3回目、見直し実施)
【概要】
(1) ビジネスジェット機(ゲイツ・リアジェット36)を改造した訓練支援機。翼下に曳航標的を装着して曳航して海自艦艇に対する射撃訓練の支援を行ったり、翼端に設けた対艦ミサイルのシーカーポッドを使って自身が模擬対艦ミサイルとなり、海自艦艇に突入することで、艦艇側では対艦ミサイル防御訓練を行うなどの訓練支援を行っていた。
なお翼端のポッドは、先端から約2mの直径の太くなっている部分がミサイルシーカー部分で、それよりも後の部分は燃料タンクとなっている。通常は左翼側にアクティブレーダーホーミング式のシーカー装着している(レーダーシーカーとIRシーカーのハイブリッドタイプかもしれない)。右翼側は記録用のセンサーポッド(疑似ミサイルであるU-36Aに対して、艦艇側がどのような対応を取ったか記録するもの)を装着するが、稀に赤外線シーカーを装着する(詳細は後述)。
(2) 機体はトーメンが輸入し、国内飛来後に新明和で改装を実施。初号機は1985年に飛来して、改装後の1987年に納入された。9201-9206号機の6機を調達したが、9202号機と9203号機の2機を事故で失っている。
(3) 後述するモデルアート誌には「1994年(平成6年)3月28日からドラッグシュートを装備した」という旨の一文があるが、1993年度末までに全機に装備されたのか、模型として取り上げた9205号機のことを指しているのかが明確ではない。この頃のPAR時に他機にもドラッグシュートが装備されたものと考えておこう。
(4) 導入当時は胴体下面、主翼前縁から胴体中央部付近にHPS-103気象・航法レーダーを収めた大きな黒いレドーム(フェアリング)を設けていたが、2008~2010年度ごろのPAR実施時にハネウェル社製P-700に換装され、撤去されている。
(5) 2022年(令和4年)12月16日に閣議決定された「防衛力整備計画」より、概ね2027年度まで退役させることが明記され、その後、2024年度中に全機が引退すると伝えられた。
(6) U-36AのPAR(定期修理)は徳島航空基地に隣接する新明和の徳島工場で1989年から行われており、最終回で41回目を迎えたという。PAR最終号機(9206号機)は2023年8月22日に海自に引き渡されている。(防衛省近畿中部防衛局の公式Xより)。
(7) 展示機は存在しない。
<機体詳細>
(1) 9201 (cn.36A-054, ex.N1087Z) 上述のとおり1987年に受領した初号機。2009年9月13日以降2009年10月31日の間に胴体下のレドーム撤去。2024年厚木祭で9206号機が展示された際の説明板によると、本機は2023年7月3日に除籍となった。
写真1 お腹の黒いレドームを取り去った後のU-36A初号機。(下総航空基地航空祭、2014年9月27日)
(2) 9202 (cn.36A-056, ex.N3802G) 2003年5月21日午前11時25分ごろ、岩国基地にてT&G訓練中であったが、離陸直後に背面となって墜落炎上して乗員4名全員死亡。28秒前に離陸したUS-1Aの後方乱気流(wake turbulence)に巻き込まれたものとされる。今でこそyoutube動画などでビジュアル化した後方乱気流の様子や、実際に事故が起こる様子などを多数閲覧できるが、事故当時は後方乱気流について、知識としては知っていたものの、ビズジェットクラスの機体でもひっくり返るものかと、個人的には大変驚いた事故事案であった。今は民間の事故報告書も無料でいつでも読めるようになりましたしね、知識量は大いに増えました。事故当時は第31航空群第91航空隊所属でした。
(3) 9203 (cn.36A-058, ex.N4290J) 1991年2月28日、岩国基地でオーバーラン、乗員救助の際に機体を切り裂いたため、損傷した機体を修復せずに抹消したと伝えられている(乗員に死者無し)。オーバーランによる機体損傷の程度は不明だ。
(4) 9204 (cn.36A-059, ex.N1807Z) Nナンバーは9201号機と同一。9201号機輸出により抹消した番号を9204号機で再使用したのだろうか?2009年10月4日以降、2010年9月19日までの間に胴体下のレドーム撤去。2024年厚木祭で9206号機が展示された際の説明板によると、本機は2023年12月4日に除籍となった。
写真2-1, 2-2 本機は2009年10月の海上自衛隊岩国航空基地祭にて祝賀飛行に参加した際にはお腹に黒いレドームがあった。下写真はP-3Cとのツーショット。(2-1: 2009年10月4日岩国基地にて、2-2: 2017年10月7日下総基地にて撮影)
(5) 9205 (cn.36A-060, ex.N1088A) 2008年5月18日以降、2010年10月12日までの間に胴体下のレドームを撤去。2024年11月9日に岩国基地での部隊内行事祝賀飛行にて飛行参加。
写真3 2010年ごろまでは胴体下に黒いレドームがあった。(2008年5月18日鹿屋基地航空祭にて撮影)
(6) 9206 (cn.36A-061, ex.N2601B) 2007年8月24日以降、2009年4月30日までの間に胴体下のレドーム撤去。おそらく2024年度に最後まで残る機体。2024年9月12日飛行確認。
写真4 八戸航空基地サマーフェスタにて。(2024年7月28日撮影)
【翼端ポッド】
本機は自身が模擬対艦ミサイルとなって、艦艇に模擬突入するため、翼端ポッドの先端部には対艦ミサイルの先端部(シーカー部分)を搭載している。シーカーはレーダーホーミング式(Active Radar Homing/AR方式)、赤外線追尾方式(IR方式)、両者の混合型(ハイブリッド式/HYB方式)の三種類があると説明板に記載されていた。これに加えて、通常は右翼ポッド先端には記録用のカメラが装着されている。全部で4種類の「ポッド先端形状」があるハズだが、これまでにHYB方式と呼ばれるポッドの形状は確認されていない。IRポッドとARポッドの両方を装着して同時に作動させればHYB方式となるので、ポッド先端の型式は3種類だけなのかもしれない。
<余談>
さて、2024年11月、本屋でモデルアート2024年11月号臨時増刊No.1145「飛行機模型スペシャルNo.47」掲載記事を立ち読みしていてビックリ!右翼端のシーカーポッドには「赤外線ホーミング方式ミサイルシーカー」が存在していたのだ!このポッドの存在を私自身はこれまで知らなかったな。調べると、この装備名称は「訓練用IRミサイルシーカ・シミュレーターHWQ-3-T」。レーダーミサイルシミュレータの方は「訓練用ミサイルシーカシミュレーターHWQ-2-T(”シーカ”の後に”・”が無い)」というようだ。「現地(岩国)では見慣れているので話題にもしないけれど、全国区的な目で見ると、レアな装備」なのだろう。よくあるハナシだな。
・・・と、いうことで、モデルアート2024年11月号臨時増刊No.1145「飛行機模型スペシャルNo.47」誌は資料としてお薦めであります。私はモデラーでは無かったが、この写真のために、この冊子を購入してしまった。
さて、このポッドの装着記録をGoogle検索やFlyteamさんへの投稿写真にて調べたところ、以下の日に撮影されていた。
2009年04月30日 岩国に着陸する9206号機
2010年09月27日 小牧航空祭に展示された9204号機
2013年09月08日 岩国を離陸する9205号機
2020年10月15日 岩国を離陸する9206号機
【吊るし物】
U-36Aは訓練使用時には翼下に曳航式ターゲットや訓練用電波妨害装置HLQ-2-T(三菱電機製)、チャフポッドAN/ALE-43を吊下することがあるが、岩国基地以外の基地祭に飛来する際にはクレーンな状態でやってくることが多かった。地表と吊るし物のクリアランスが狭く、「飛び石などで傷つくのがイヤ」「バリアケーブルを外さないと降りられない」という理由があるからという説明をうかがったことがある。そんなワケで日曜カメラマンだった私が、吊るし物を装着したU-36Aを目たのは、たしか富山に住んでいた1990-1994年の間に1回だけしかない。有休を使って小松基地に撮影しに行った際に、たまたまターゲットを装着した機体がタキシングしていったのだった。岩国基地祭には数回訪問したが、ターゲットなどを装着した状態で展示されたのはそのうちの2回くらいだったと記憶している。白黒ネガやカラーポジで撮影しているが、当面の間はこれらをスキャン/複写して公開する予定はない。
【Gallery】
写真5 UP-3Dと編隊を組んで祝賀飛行に参加した01号機と04号機。(岩国航空基地、2011年9月18日)
写真6 帰投時のショット。(木更津駐屯地航空祭、2023年10月1日)
写真7 地上誘導員のサムアップに機長が応える。(八戸航空基地サマーフェスタ、2024年7月28日)
以上