<編集履歴> 24Dec.2022公開(「海上自衛隊固定翼哨戒機の展示機(??Aug.2018Mixiにて公開、21Feb.2019はてなBlogに移設)」より分離独立)、31Jul.2024見直し更新(第5回目、見直し/写真追加)
【概要】
(1) 海上自衛隊では1983年から101機の哨戒型のP-3Cを調達して運用してきたが、すでに約65機が用廃となり除籍されている。事故抹消機は硫黄島で脚を出し忘れて胴体着陸したあと、出火して焼損した1機(5031号機)のみだ。なお海上自衛隊では2000年前後ごろから任務内容が「潜水艦の哨戒」から「広義の哨戒」となったために「対潜哨戒機」の呼称をやめ、単に「哨戒機」と称している。このため本Blogでは原則としてP-3C導入以前に運用していたS2F-1, P2V-7, P-2Jなどを「対潜哨戒機」とし、P-3CおよびP-1を「哨戒機」と記載する。
(2) 調達した101機の哨戒型P-3Cの中から5機をOP-3Cに改修した。このうちの1機(P-3Cの5039号機→OP-3Cの9133号機)は積雪によって整備中の格納庫が倒壊したことにより、重大な損傷を受けて除籍されたため、残存機数は4機となっている。
(3) 上記のほかにUP-3C(1機)、UP-3D(3機)、EP-3(5機)が存在している。EP-3は令和13年度(2031年度)ごろから減勢が始まる予定であり、後継となる電子情報収集機の開発研究が令和3年度(2021年度)より開始されている。
(4) 事故抹消の話は最下段にて記載する。
(5) 本記事最終版において、海上自衛隊P-3シリーズの用廃展示機は存在していないが、1機(5020号機)が下総航空基地第3術科学校にて教育訓練用に用いられている。また八戸航空基地内に用廃となった5028号機の部品を使用した見学者用の”体験搭乗用”の模擬コクピットが作成されている。機体の大きさと、その維持に係る手間や費用から、恐らくは将来的にも全機保存となる機体は発生しないものと予想している。せめて見られるうちに見て、存分に写真や動画を残しておこう。
【保有機数】
防衛白書に記載されたのP-3C保有数は次の通り(記載した西暦年の3月31日時点での保有機数)。
2014(73), 2015(69), 2016(68), 2017(62), 2018(54), 2019(55、一機増えている!), 2020(50), 2021(44), 2022(40), 2023(35), 2024(32)。
注1:2019年度(令和元年度防衛白書)では保有機数が1機増えている。ファントムやCH-47Jでも確認されている「数え間違い」が、この前年(2018年)に生じている可能性がある。統計数値の信憑性が低くなっていることに注意する。
注2:目撃情報に基づいた「私製の現存機リスト(非公開)」と防衛白書の「P-3C保有数」とを比較した結果、白書に記載された保有数にはUP-3C、UP-3D、EP-3およびOP-3Cの数は「含まれていない」。「哨戒型P-3Cだけ」の保有機数だ。
【P-3Cの展示機・教材機】
用廃となった5020号機が下総基地第3術科学校にて教材として使用されているが、これ以外に基地や博物館などで展示機となった機体は存在しない。なお、参考までに記しておくと、青森県三沢基地脇の航空科学館には米海軍のUP-3Aが展示されており、開館時間中であればいつでも見学もできる。機内も公開しているぞ。
(1) P-3C (5020) 下総基地第3術科学校(3MSS)にて教材として使用中。Flyteamさんへの投稿写真を見ると、2012年1月27日に厚木基地をタキシングする姿が投稿されている。その後、2012年9月29日には部品を外されて基地の片隅に置かれていたようだ。このことから2011年度末に除籍/用廃となり、2012年度に3MSSへ移管されたものと考えている。ラダーを外して、垂直尾翼には3MSSのマークを入れている。一般公開時に設置エリアを開放する際には見ることができる。
写真1-1, 1-2 第3術科学校で整備教育に使用されている5020号機。方向舵は外されている。(2015年9月26日撮影)
【P-3Cの操縦席の展示物】
(1) 5028号機 八戸航空基地広報史料館に5028号機(ラジオコールプレートで確認)の計器盤等を利用した見学者体験用の模擬操縦席が設置されている。
写真2-1, 2-2 八戸航空基地広報史料館にあるP-3C(5028号機)の計器盤等を利用した体験用模擬操縦席。(2022年9月10日撮影)
【P-3C解体作業のタイムラプス】
海上自衛隊第2航空群(八戸航空基地)は2021年12月21日付でP-3C(5067号機)の解体の模様をTwitterにて発信した。本Blogとしてはとても興味深い内容なので紹介する。
https://twitter.com/jmsdf_2aw/status/1473100267252228099?s=20
【基地公開時に展示された用廃機】
2023年初夏と秋の2回、八戸航空基地で行われた一般公開行事の際には、用廃P-3Cを間近に見ることができたそうな。秋の公開時ではその数は半減していたという(正確な数や機番が伝わってこないのですが、4機ほどあった機体が秋には2機くらいになっていた模様)。また用廃機のホイールは赤く塗られて現用機と識別されていたとのことです。ただし、この識別は用廃機全てに対して行われていたのか、それとも見学者(報告者)が見た範囲で行われていたのかは確認できていない。
翌2024年7月28日の公開時には3機の用廃P-3Cを間近に見ることができた。このうち5044号機と6063号機は前脚ホイールが赤く塗られていたが、6065号機の前脚ホイールは白色のままだった。「識別色」は「トライアル」として「塗ってみただけ」だったのかもしれない。
写真3 八戸基地内に置かれた3機の用廃P-3C。手前2機(5044号機と5063号機)の前脚ホイールは赤色(朱色)に塗られていた。(2024年7月28日撮影)
【OP-3C】
既存のP-3Cのうち5機を画像情報収集機に改造したもので、胴体下面にレドームを持つほか、専用の偵察ポッドを搭載する。このポッドは着脱可能なようだ。オリジナルのP-3Cから改造した際にS/Nを変えており、9131~9135号機の5機が存在していたが、9133号機は後述する大雪による格納庫倒壊の際に大きな被害を受けて抹消されたため、現存するのは4機だ。既存のP-3CのS/Nは次の通り。カッコ内は元のS/Nだ。
OP-3C: 9131(5043), 9132(5069), 9133(5039、抹消), 9134(5058), 9135(5068)。
写真4 海上自衛隊岩国基地の公開時に上空を通過するOP-3C。偵察ポッドは未搭載。(2009年10月4日撮影)
【UP-3C】
第51飛行隊(厚木基地)で運用されている試験評価専用機で9151号機の1機のみが存在する。評価案件により機体にレドームなどが追加されたり、取り外されたりと外形が幾分変化する。主力がP-1(評価用としてUP-1)に移行した現在、P-3C関連の新型機器の評価事案は恐らくは発生せず、「白い象(White Elephant)」と化している可能性がたかい。AIRBOSSのように機体にこだわらない空中での使用機器や新たな技術の開発実験機として使われる可能性はあるけれど、予算を見る限りではあまり本機を利用した事業案件は無いような気がしている(私の理解の程度が低いだけ?)。テストパイロット養成の過程や、P-3C操縦者の技量維持程度でしか、飛んでいる姿を見ることはできなくなっているのではないだろうか。
写真5 夕方になって厚木基地に戻ってきたUP-3C。AIRBOSS(Advanced Infrared Ballistic-missile Observation sensore System 先進弾道ミサイル感知赤外センサー)搭載中の姿だが、現在ではこれらの突起物は全て撤去され、スマートな姿に戻されている。ただし、評価用の長い標準ピトー管は残されたままだ。(2019年3月20日撮影)
【UP-3D】
お腹と背中にレドームを持つ電子戦訓練支援機で9161~9163号機の3機が存在する。9161号機は後述する大雪による格納庫倒壊の際に大きな被害を受けたが、修理されて任務に復帰している。用廃後に本機種が展示機になることはないだろう。
写真6 岩国基地公開行事にて、2機のU-36Aを従えてフライパスするUP-3D。(2011年9月18日)
【EP-3】
電子情報収集機で背中に3つ、お腹に2つの大きなレドームがあるほか、各所にアンテナがある。本機には型式の数字の”3”の後には"C"とか"D"というサブタイプは付かないので「EP-3C」などと記載しないように注意しよう。9171~9175号機までの5機が存在する。このうち9174は後述する大雪による格納庫倒壊の際に大きな被害を受けたが、修理されて任務に復帰している。本機種が用廃後に展示機になることは絶対に無いと考えている。
写真6 大きなレドームが目立つEP-3。(岩国基地公開行事にて、2011年9月18日)
【事故抹消】
(1) 5032号機は1992年3月31日に硫黄島で脚を出し忘れて胴体着陸した後に出火し、焼損・抹消となった。現時点では唯一の事故抹消機だ。
余談だが、事故機はなまじ原型を留めていたために、修理/再使用の可否を判定する業務が生じたようだ。写真を見せられ「これ、修理可能ですか?」と尋ねられた民間技術者一同、声を揃えて「絶対ムリっ!!」。その場で廃棄するコトが即決されたという。その後は重機を硫黄島に運んで解体したというウワサ話も流れていたが、本当の話は私自身も知りません。こんな話は、基地の脇でヒコーキの飛ばない暇な時間にマニア同士が”情報交換”している際の、”他愛もないウワサ話"の一つです。事実の一部が誇張されて伝わったものだと思っていますが、マニア的には面白いので、ご紹介まで。
(2) 2014年2月15日には大雪のために厚木基地敷地内にある日本飛行機(株)の整備格納庫の屋根が潰れる事案が発生。この時、格納庫内で整備中だった3機のP-3C(5026, 5049, 他1(他機の目撃情報より5042号機と思われる(注1~4))と1機のOP-3C(9133)は大きな被害を受け、修理不能と判断されて抹消された。この時にはEP-3(9174)とUP-3D(9161)も損傷したが、数年にわたる修復作業の後に任務に復帰している。さらに同じ格納庫内で整備中だった4機の米海軍のP-3C(159329, 159503, 160283,161338)も大きく損傷して廃棄されている(注5)。
注1:Flyteamの2014年5月17日付ニュースでは大雪で被害を受けて抹消された機体は5027, 5049, 5087としているが、5027と5087はその後も飛行していることが確認されている。https://flyteam.jp/news/article/35527
注2:「日本で見られる軍用機ガイドブック 最新版」(イカロス出版2020)によると大雪で被害を受けて抹消された機番は上記のFlyteam同様に5027, 5049, 5087となっている。上述の通り5027と5087はその後も飛行していることが確認されている。
注3:Scramble on the webのAccident Reportでは大雪で被害を受けて抹消された機体は5066, 5044, 5077とされているが、全機その後も飛行が確認されている。
注4: 自分自身の調査では被害にあった機体は5041号機か5042号機のどちらかだということまでしか絞り切れなかった。
注5: 2014年5月6日付Sters and Stripesでは「損傷した4機のうち3機を廃棄」と報道していたが、結局は4機とも廃棄されたようだ。
Three Navy P-3 Orions crushed in Japanese hangar collapse declared total losses | Stars and Stripes
<余談> 日飛関係者には当日朝に「会社がつぶれた!」と連絡があり、一瞬「ついに現実になったか」と思ったとか、思わなかったとか(苦笑)。後日「まさか”物理的に”潰れるとは思わなかった」と述懐している。(これも基地の脇で耳にしたウワサ話(笑い話)の一つです)
以上