用廃機ハンターが行く!

アジア各地に転がる用廃機を見に行くためのガイド(?)

海上自衛隊 P-3シリーズの用廃機

<編集履歴> 24Dec.2022公開(「海上自衛隊固定翼哨戒機の展示機(??Aug.2018Mixiにて公開、21Feb.2019はてなBlogに移設)」より分離独立)、31Oct.2023見直し更新(第3回目、P-3C保有機数追加)

 

【概要】

(1) 海上自衛隊では2000年前後ごろから任務内容が「潜水艦の哨戒」から「広義の哨戒」となったため「対潜哨戒機」の呼称をやめ、「哨戒機」としている。このため本Blogでは原則としてP-3C以前を「対潜哨戒機」、P-3Cおよび以降の機種を「哨戒機」と記載する。

(2) さて海上自衛隊では1983年から101機のP-3Cを調達して運用してきた。このほかにUP-3C(1機)、UP-3D(3機)、EP-3(5機)があり、また既存のP-3Cから5機を改修したOP-3C(積雪による格納庫倒壊により1機損傷抹消、残存4機)が存在する。事故による抹消は1機のみだ(積雪による格納庫倒壊に損傷抹消3機を含まず)。哨戒型P-3Cはすでに約60機が用廃もしくは事故等で抹消されている。事故抹消の話は最下段にて記載する。EP-3は令和13年度(2031年度)ごろから減勢が始まる予定であり、後継となる電子情報収集機の研究が令和3年度(2021年度)より開始される。

保有機数】

防衛白書記載のP-3C保有数は次の通り。

(記載した西暦年の3月31日時点での保有機数)

2014(73), 2015(69), 2016(68), 2017(62), 2018(54), 2019(55、一機増えている!), 2020(50), 2021(44), 2022(40)。

※2019年度(令和元年度防衛白書)では保有機数が1機増えている。ファントムやCH-47Jでもあった「数え間違い」がこの前の年(2018年)に生じている可能性がある。統計数値の信憑性が低くなっていることに注意する。

※※目撃情報に基づいた「私製の現存機リスト(非公開)」と防衛白書の「P-3C保有数」とを比較した結果、白書の保有数にはUP-3C、UP-3D、EP-3およびOP-3Cの数は「含まれていない」ものと考えている。

 

P-3Cの展示機・教材機】

 用廃となった5020号機が下総基地第3術科学校にて教材として使用されているが、基地や博物館などで展示機となった機体は存在しない。なお参考までに記載しておくと青森県三沢基地脇の航空科学館には米海軍のUP-3Aが展示されており、開館時間中であればいつでも見学もできる。機内も公開しているぞ。 
(1) 5020 下総基地第3術科学校にて教材として使用中。ラダーを外して3MSSのマークを入れた機体の写真で、ネット上にある最も古いものはFlyteamさんに投稿された2012年9月29日撮影のもののようだ。2012年1月27日には厚木基地をタキシングする姿が投稿されているので2011年度末に用廃となり、2012年度に3MSSへ移管されたのではないだろうか。

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写真1-1, 1-2 第3術科学校で整備教育に使用されている5020号機。方向舵は外されている。(2015年9月26日撮影)

 

P-3Cの操縦席の展示物】

(1) 5028号機 八戸航空基地広報史料館に5028号機(ラジオコールプレートで確認)の計器盤等を利用した見学者体験用の模擬操縦席が設置されている。

写真2-1, 2-2 八戸航空基地広報史料館にあるP-3C(5028号機)の計器盤等を利用した体験用模擬操縦席。(2022年9月10日撮影)

 

P-3C解体作業のタイムラプス】

海上自衛隊第2航空群(八戸航空基地)は2021年12月21日付でP-3C(5067号機)の解体の模様をTwitterにて発信した。本Blogとしてはとても興味深い内容なので紹介する。

https://twitter.com/jmsdf_2aw/status/1473100267252228099?s=20

 

【基地公開時に展示された用廃機】

 2023年初夏と秋の2回、八戸航空基地で行われた一般公開行事の際には、用廃P-3Cを間近に見ることができたそうな。秋の公開時ではその数は半減していたという(正確な数や機番が伝わってこないのですが、4機ほどあった機体が秋には2機くらいになっていた模様)。また用廃機のホイールは赤く塗られて現用機と識別されていたとのことです。ただし、この識別は用廃機全てに対して行われていたのか、それとも見学者(報告者)が見た範囲で行われていたのかは不明です。

 

【OP-3C】

 既存のP-3Cを画像情報収集機に改修したもので、胴体に下面にレドームを持つほか、専用の偵察ポッドを搭載する。9131~9135号機の5機が存在したが、9133号機は後述する大雪による格納庫倒壊の際に大きな被害を受けて抹消されたため、現存するのは4機だ。既存のP-3CのS/Nは次の通り。カッコ内は元のS/Nだ。

OP-3C: 9131(5043), 9132(5069), 9133(5039、抹消), 9134(5058), 9135(5068)。

写真3 海上自衛隊岩国基地の公開時に上空を通過するOP-3C。偵察ポッドは未搭載。(2009年10月4日撮影)

 

【UP-3C】

 第51飛行隊(厚木基地)で運用されている試験評価専用機で9151号機の1機のみが存在する。評価案件により機体にレドームなどが追加されたり、取り外されたりと外形が幾分変化する。主力がP-1(評価用としてUP-1)に移行した現在、P-3C関連の新型機器の評価事案は恐らくは発生せず、「白い象(White Elephant)」と化している可能性がたかい。AIRBOSSのように機体にこだわらない空中での使用機器や新たな技術の開発実験機として使われる可能性はあるけれど、予算を見る限りではあまり本機を利用した事業案件は無いような気がしている(私の理解の程度が低いだけ?)。テストパイロット養成の過程や、P-3C操縦者の技量維持程度でしか、飛んでいる姿を見ることはできなくなっているのではないだろうか。

写真4 夕方になって厚木基地に戻ってきたUP-3C。AIRBOSS(Advanced Infrared Ballistic-missile Observation sensore System 先進弾道ミサイル感知赤外センサー)搭載中の姿だが、現在ではこれらの突起物は全て撤去され、スマートな姿に戻されている。ただし、評価用の長い標準ピトー管は残されたままだ。(2019年3月20日撮影)

 

【UP-3D】

 お腹と背中にレドームを持つ電子戦訓練支援機で9161~9163号機の3機が存在する。9161号機は後述する大雪による格納庫倒壊の際に大きな被害を受けたが、修理されて任務に復帰している。用廃後に本機種が展示機になることはないだろう。

写真5 2機のU-36Aを従えてフライパスするUP-3D。(2011年9月18日)

 

【EP-3】

 電子情報収集機で背中に3つ、お腹に2つの大きなレドームがあるほか、各所にアンテナがある。本機には型式の数字の”3”の後には"C"とか"D"というサブタイプは付かないので「EP-3C」などと記載しないように注意しよう。9171~9175号機までの5機が存在する。このうち9174は後述する大雪による格納庫倒壊の際に大きな被害を受けたが、修理されて任務に復帰している。用廃後に本機種が展示機になることはないだろう。

写真6 大きなレドームが目立つEP-3。(2011年9月18日)

 

【事故抹消】

(1) 5032号機は1992年3月31日に硫黄島で脚を出し忘れて胴体着陸した後に出火し、焼損・抹消となった。現時点では唯一の事故抹消機だ。

<余談> 事故機はなまじ原型を留めていたために、修理/再使用の可否を判定する業務が生じたようだ。写真を見せられ「これ、修理可能ですか?」と尋ねられた民間技術者一同「絶対ムリ!!」。この場で廃棄するコトが即決されたという。その後、重機を硫黄島に運んで解体したという(これもまた)ウワサ話が流れていたが、本当の話は私自身も知らりません。これらの話は基地の脇でヒコーキの飛ばない暇な時間にマニア同士て”情報交換”している際の”他愛もない”ウワサ話の一つです。事実の一部が誇張されて伝わったものだと思っていますが、マニア的には面白いので、ご紹介まで。

(2) 2014年2月15日には大雪のために日本飛行機(株)の整備格納庫の屋根が潰れ、格納庫内で整備中だった3機のP-3C(5026, 5049, 他1(他機の目撃情報より5042号機と思われる))(注2~5)と1機のOP-3C(9133)は大きな被害を受け、修理不能と判断されて抹消された。この事故ではEP-3(9174)とUP-3D(9161)も損傷したが修復され任務に復帰している。さらに同じ格納庫内で整備中だった4機の米海軍のP-3C(159329, 159503, 160283,161338)も大きく損傷して廃棄されている。

注1: 2014年5月6日付Sters and Stripesでは「損傷した4機のうち3機を廃棄」と報道していたが、結局は4機とも廃棄されたようだ。

Three Navy P-3 Orions crushed in Japanese hangar collapse declared total losses | Stars and Stripes

注2:Flyteamの2014年5月17日付ニュースでは大雪で被害を受けて抹消された機体は5027, 5049, 5087としているが、5027と5087はその後も飛行していることが確認されている。https://flyteam.jp/news/article/35527

注3:「日本で見られる軍用機ガイドブック 最新版」(イカロス出版2020)によると大雪で被害を受けて抹消された機番は上記のFlyteam同様に5027, 5049, 5087となっている。上述の通り5027と5087はその後も飛行していることが確認されている。

注4:Scramble on the webのAccident Reportでは大雪で被害を受けて抹消された機体は5066, 5044, 5077とされているが、全機その後も飛行が確認されている。 

注5: 自分自身の調査では被害にあった機体は5041号機か5042号機のどちらかだということまでしか絞り切れなかった。

<余談> 関係者には当日朝に「会社がつぶれた!」と連絡があり、一瞬「ついに現実になったか」と思ったとか、思わなかったとか。後日「まさか”物理的に”潰れるとは思わなかった」と述懐している。(これも基地の脇で耳にしたウワサ話(笑い話)の一つです)

以上