用廃機ハンターが行く!

アジア各地に転がる用廃機を見に行くためのガイド(?)

【雑談】航空博物館の図書スペースについて

<編集履歴> 22Feb.2022公開、11Dec.2023見直し更新(第7回目、見なおし実施、写真追加)

 

【はじめに】

 浜松広報館では2021年春のリニューアルに際して図書スペースを廃してキッズスペースとイートインコーナーに改装した。月並みな言葉では「リニューアルの内容はどうかご理解ください」と言われる(注:直接、本当に言われている訳ではない)のだが、どうにも「理解・納得」できないので一言書き残しておこうと思う。これはバンパイアなど貴重な機体を展示場から撤去した件とは別次元での批判だ。

f:id:Unikun:20220220131109j:plain

写真1 図書スペースを廃し、キッズスペースとイートインコーナーとした浜松広報館。何も置いていない書棚が悲しい。(2021年12月21日撮影)

 

【定義】

(1) 博物館法による基づく「登録博物館」となっている航空関連の博物館は成田空港の脇にある「航空科学博物館」のみだが、ここでは「国内の航空機展示施設」一般のことを”航空博物館”と称して記載する。

<参考>

博物館法と”航空博物館” - 用廃機ハンターが行く!

国内の主要な航空機展示施設 - 用廃機ハンターが行く!

(2) ここでは「開架式で一般客が自由に書籍を手に取ってみることのできる場所」を「図書スペース」という言葉で表現する。施設によっては大きな一室だったり、休憩スペース脇に置かれた小さな本棚だけだったりと規模は様々だし、「図書館」「図書室」「資料室」「図書コーナー」などいろいろな名称があるが、全て同じ扱いとしておく。なお特定の施設の特定の場所を指す場合には、その施設の固有名称を用いることにする。

(3)「展示物(主として航空機だが)関連について、より多くのことを知りたかったら、こんな書籍がありますよ」と訪問者に対して紹介しようとする意図が認められると考えられた場合に「図書スペースがある」としておこう。

(4) 「蔵書」および「蔵書数」のことを「ライブラリ」と称する。

 

【図書スペースの現状】

 国内の"航空博物館"には"図書スペースは設けられているか?まずは現状を確認してみよう。別記事「国内の主要な航空機展示場所」に記した場所とそれ以外の展示場所について、自分の記憶とネット上の情報から拾った結果を以下にまとめてみた。おおむね北方から南方にかけての順番に並べてある。

 私設博物館に図書スペースが無いことはスペースの都合や設立趣旨からしても仕方がないと思うところはあるのだが、「浜松広報館」のほか「石川県立航空プラザ」「鹿屋基地史料館」のように公的博物館の性格が強い施設に図書スペースが無いのは少々残念に思う。一方、館内には図書スペースが無いものの「市内の図書館」にそれなりのコーナーを設けている岐阜かかみがはら航空宇宙博物館のやり方は高く評価できる。ただし、やはり「機体のある現場」で「すぐに手に取って眺める出来る書籍」はある程度置いて欲しいと思う。

※見落としや誤認がありましたら一報いただければ幸いです。

・参考:国内の主要な航空機展示施設 - 用廃機ハンターが行く!

 

<図書コーナーのある航空博物館>

私自身が訪問し、記憶に残るもののみを紹介します。これ以外にも図書コーナーのある航空博物館はあるかと思いますが、気づいたらUpdateします。なおコロナウイルス感染防止のため、一時的に閉鎖しているところがありますので、ご利用の際には事前に訪問先にお問い合わせください。

(1) 三沢航空科学館(青森県):”博物館付属の図書館”という位置づけで独立した図書室を設けており、そのライブラリは外国出版物(主にアメリカだが)を含めて、充実している。後述する千葉県成田空港脇の航空科学博物館や岐阜かかみがはら航空宇宙博物館が関与している各務ヶ原市図書館(こちらの状況は訪問したことが無いので実際の状況は不明)に次ぐ(自由に閲覧可能な)蔵書数規模で、国内Topレベルと言って良いだろう。2022年7月26日に事前アポ無しで訪問した際に図書室の写真撮影の可否を打診したが許可は得られなかった。

ライブラリー Library | 青森県立三沢航空科学館

 

(2) 航空科学博物館(千葉県):東棟1階に館内図書館がある。博物館の性格上、航空全般や民間機に関する蔵書が多いが、子供用の絵本から軍用機、大戦機関連や航空管制、航空工学関連の教科書など、航空に関する全ての分野の書籍が一通り揃っている。整備のためなのか、2023年12月訪問時には開架式図書の一部を含めて、図書室の1/3程度が入れないようになっていた。

写真2 航空科学博物館の図書室。(2023年12月9日撮影)

 

(3) 東京都立産業技術高等専門学校科学技術展示館:学内に図書館があり、都内または近隣地域に在勤の技術者、都内または近隣地域に在学あるいは在住の中学生・高校生を対象として図書館開放を行っている。公立校なので、きちんと申請すれば前述の対象者以外でも閲覧利用は可能だと思う。私自身はこの図書館内に脚を踏み入れたことはない。

 

(4) 所沢航空発祥記念館(埼玉県):展示スペースの一角に書棚とソファがあり、航空雑誌のバックナンバーを読むことができる。商用の航空雑誌が主体だが、学会誌や業界専門誌もある。

f:id:Unikun:20220220131050j:plain

写真3 所沢航空発祥記念館の図書スペース。図書館とは異なり、中身を読ませるよりも「こんなことをやっている世界があるんだ」と「気づかせること」が大事だと思う。興味がわけばネットで調べられるが、そのような分野が世界にあることを知らなければ検索すらできない。(2022年2月18日撮影)

 

(5) 浜松広報館(静岡県): 2021年3月のリニューアルで図書コーナーを撤去したことで本記事を書くキッカケとなった。2022年7月31日時点では軍事系航空雑誌など数誌や自衛隊内新聞などごく少数の発行物は閲覧可能な状態となっており、「図書スペースの有無」で言えば間違いなく「ある」。しかし広報館の施設規模からすると「非常に情けない程度」の図書しかなく、私としては図書の充実を求めたい。

写真4-1, 4-2 浜松広報館の元図書コーナーには月刊航空雑誌など数誌と日本航空宇宙工業会会報「航空と宇宙」、各基地発行の基地新聞などが置いてあった。(2022年7月31日撮影)

 

(6) あいち航空ミュージアム(愛知県):2021年12月に訪問しているが図書コーナーの存在に気づかなかった。本記事を書いたあとの2022年11月12日に訪問して初めてライブラリーコーナーがあることに気づいた次第だ。改めてネットを探ると開館してから1年ほどが過ぎた2018年9月28日付のとある記事中にライブラリーコーナーが存在することが紹介されていた。これまで気づかずに大変失礼いたしました!ライブラリの場所は”飛行”の教室裏手で、航空関連の教科書、月刊航空雑誌、業界誌、戦記、ムック本、写真集など、後述する私自身の理想に近い書籍類がそれぞれ少数だが一通りそろっている。

写真5 あいち航空ミュージアムのライブラリー。こじんまりとしているが、各分野を代表するような書籍や雑誌等は一通りそろっている。(2022年11月14日撮影)

 

(7) 岐阜かかみがはら航空宇宙博物館(岐阜県):館内には無いが各務原市中央図書館2階に特設コーナーを設けているときく。私自身は訪問したことはない。

 

(8) 太刀洗平和祈念館(福岡): 一つの部屋を使った図書室がある。地域限定型博物館のため、収集した「関連した書籍・資料」の種類には偏りがあるが、それはそれで納得できるだけの書籍がそろっている。

写真6-1, 6-2 大刀洗平和記念館の図書室とその図書整理区分。もともとが地域特化型博物館なので蔵書の種類に偏りがあるが、それはそれで納得できるだけのものがそろっている。(2022年9月2日撮影)

 

(9) 万世特攻平和祈念館(鹿児島県):休憩コーナーの脇に小さな書棚がある。

 

<図書コーナーのない航空博物館>

(1) オールドカーセンター・クダン(福島県)

(2) 大慶園(千葉県):商業施設(娯楽施設)なので無くて当然。

(3) 陸上自衛隊広報センター りっくんランド(東京都:埼玉県にするか悩ましい所だが、正規の住所は東京都練馬区・・・):以前は簡易な書棚があったのだが、2023年3月26日に再訪したところ無くなっていた。

(4) 河口湖自動車博物館(山梨県

(5) 航空プラザ(石川県): 一般客閲覧用の図書コーナーは無いが2000年頃までは事務室内に非公開の書棚があり、ここには私が収集して1990年代半ばごろにプラザに寄贈した1950年代末頃から1980年代初めごろまでの航空情報誌などが収められていた。職員の参考資料用として利用したのだろうか。その後、これらの蔵書が表に出されることは無く、現在の状況は不明だ。

(6) ミツ精機株式会社 翼の広場(兵庫県) 社内教育用の展示(自社製品の利用状況の教育)からスタートしていることもあって、図書スペースは無い。

(7) 鹿屋航空基地史料館(鹿児島):図書スペースは無い。

(8) 知覧特攻平和会館(鹿児島県):図書スペースは無い。

 

【図書スペース設置の意義】

なぜ、ヒコーキの展示場所に図書スペースが必要か。その理由を挙げてみよう。

(1) 博物館で一般書開架式図書スペースを設ける理由のうち、私自身が最も需要だと思うのは「このようなことをやっている分野が、この世の中に存在する」「その分野では、こんなことをやってきた」ということを「訪問者」に「新たに」あるいは「改めて」、「気づかせる」ことにあると思う。訪問者の中には資料(史料)を探しにやってくる人もいるだろうが、そういう人は「調べ方」を心得ているので、ぶっちゃけ本Blogでの議論の範囲からは無視してよい。

一般の観客が博物館に滞在する時間なんぞ、2時間もあれば長い方だろう。その中でヒコーキ関連の図書をジックリ読むなどという時間は10分とは無いだろう。「へぇ!こんな本があるんだ!」「こんな仕組みになっていることを解説した本があるんだ!」「こんなことを主に取り上げる業界があるんだ!」などということに「気づくキッカケ」が生じればそれで良く、また十分だと思う。興味がわけばネットで調べ、ネット情報だけでは満足できなければ、さらに文献を調べ・・・となるハズだ。もっとも、そこまでやる人は訪問者100人のうち1人とはいないだろうけれど。

(例えば高校卒業生のうち、工学系大学に進学し、航空工学系の大学院に進む学生がどれだけいるかということを考えてみよう。令和4年度(2022年度)大学入学共通テストの 志願者数は53万367人。国内で航空工学部のある大学数は29大学(らしい)。一学部200人として5,800人なので、この時点で大学進学希望者(≒大学入学共通テスト志願者数)の1.1%だ。)

 工業高校や航空専門学校などの専門性を有した教育機関から整備部門や地上運行管理部門に進む方や航空機部品製造業関係者を含む「航空関連分野に興味を持った」程度の人なら100人のうち5人くらいは出てくるかなぁと思うが、それで十分だと思う。訪問者の1~5%程度に対して興味を抱かせれば大成功な「書籍の展示物」といってもよいだろう。航空自衛隊浜松広報館が図書コーナーを排したということは、この数%未満の「将来の可能性」を切り捨てることになったと言っても過言ではない。一回の来訪で2時間ほど滞在する見学者に対して、どれだけ「広報」ができると考えているのだろうか。将来の人材を求めながら、自らその可能性を切り捨ててしまったように思えてならないのだ。

 

【デメリットや問題点】

(1) 公開している本は傷むことを前提とする。

 子供が投げる・破るは当たり前。大人でも唾をつけてページをめくったり、ページを破って持ち去ったり、アンダーラインを引くなど、通常の図書館で生じていることは全て起こりうるものと受け止めたうえで開架式図書を置いてほしい。

(2) 盗難も起こりうることを前提とする。

 専門書や写真集などは特にその傾向が高いだろう。監視カメラ(デコイでもよい)を設置して「見てますよ」という状況を作るだけで、いくらかは盗難の発生確率を下げることができるかもしれない。

(3) 書棚を置くことで「展示スペースが無くなる」とか「管理の手間がかかる」ということもあろう。しかし本当に「展示スペースが少なくなる」だろうか?また「管理の手間がかかる」だろうか?休憩スペースの一角に書棚を一つ置き、ボランティアから寄贈された書籍を”非管理”(盗難やページ破りなどを認める状態)で”ただ置いておく”分には問題が無いように思える。この程度でも「入場者に対する啓発」ができれば十分ではないだろうか(前述の通り、対象となるのは入場者の1%未満の方々だ)。最終的には博物館(主催者)側の「情熱」と「ヤル気」の問題だろう。なお施設の管理を下請け管理業者に任せる運営母体は多いので、現場にいる方や施設管理者に対しては「ヤル気を持っている」とは期待をしていない。

 

【航空博物館に希望すること】

 私が希望することは「航空博物館には、開架式の図書スペースを大なり小なり必ず設けて欲しい」。これに尽きる。

 この想いの直接的な発信先はもちろん浜松広報館であり、2022年7月末の時点でかなえられている(注1)が、その他の公的性格の強い「石川県立航空プラザ」などにも言える一般論だ。

注1:ただし前述の通り、蔵書量が少なすぎて現状では大いに不満だ。リニューアル前の状態に戻すことを私個人としては希望している。

さらに細かな希望事項を以下にまとめておこう。

(1) 名称は図書室、資料室、書庫、ライブラリーなどどんな形でもよいが、子供~高校生くらいが「国内外にはこんな世界や社会があるんだ」と気づくキッカケを与える場所であれば良いと思う。もちろん良い歳の大人が「再発見」するキッカケとなればもっと良い。

(2) ここにはいわゆる一般書と言われる次のような図書を国内発行図書に限らず、できれば海外発行図書まで、航空に関する様々な分野の書籍を集め、子供から大人に対して公開して欲しい。理由は上述の通り「見学者に対してこのような世界が存在する」ことを知らしめることにある。収集し、公開する書式は次のモノを含むことを希望するが、目的が最新知識の普及ではなく、「このような世界があることの紹介」であるので最新版である必要はない。やる気があれば、廃棄する古い雑誌などを格安で入手して揃えられるはずだ。予算的には大きな負担にはならない。

・航空関連の商用定期発行誌(月刊誌、季刊誌など。性格上、軍事関連誌を含む)

・専門誌および専門書(学会誌、業界誌、工学関係書籍、運行/運用マネジメント関連書籍)

・航空機関連の写真集(軍民を問わず)および撮影指南書

・機種ごとあるいはテーマごとの特集本(ムック本など)

・歴史本(戦争史、運用史、技術史、個別の機体の開発史など)

・各種の単行本、手記、回想録、航空関連小説、コミックなど

写真7-1, 7-2 参考例として北海道苫小牧市科学センターの(主に)宇宙・天文に関する書籍を集めた図書コーナーを紹介する。通路の一角や展示物(年表)の下のスペースに置かれており、”興味があれば、ヒョイと取り上げることができる”ようになっている。浜松広報館では、どうしてこれくらいのことができないのかなぁ?(2022年7月24日撮影)

 

(3) 貴重な文書や資料・記録などは上記とは別にして管理して欲しい。たとえば別途入場制限のある資料室や、あるいは鍵のかかる資料棚に置き、管理・監視の下で閲覧させるという方法だ。子供が戦前に発行された貴重な本を投げ合ったり、閲覧者が唾を付けてページをめくったり、図書にアンダーラインを引いたりする人が無いように監視できるようにするというのが趣旨だ。

(4) 図書コーナーの設置方法の提案として、例えば休憩スペースの脇に飲料の自動販売機程度の大きさの書棚を置き、古本屋や寄付などによって入手した一般誌を(持ち去られることを前提で)置くだけでも「一般の訪問者」に対しては十分な啓蒙となるのではないだろうか。筑波海軍航空隊記念館での実施例を写真10に紹介しておく。

写真8 筑波海軍航空隊記念館の休憩スペースにある書棚。太平洋戦争中の戦記物が多いのは記念館の特色として当然だが、現代の機体に関する本もある。特筆すべきはミュージアムショップコーナー(写真には写っていない)にて地元の古本屋とタイアップして主に太平洋戦争前後の戦記や航空機に関する古本を多数販売していること。中には新鋭ジェット戦闘機のムック本や近年発行された航空雑誌も混じっているが、その種類と量はこの書棚より多いくらいで驚かされた。興味を持った方にその場で手に取っていただき、購入につなげるという意味では良いビジネスモデルだと思う。しかし、そもそもの訪問者がそれほど多い施設ではなく、売り上げのほどは不明だ。(2022年5月29日撮影)

 

 参考例として埼玉県の大宮駅近くにある鉄道博物館のキッズライブラリーの様子を紹介しておこう。写真を見て分かるように、関係図書は表紙を表にむけ、「こんな本があるよ!」ということを強調した配置としている。本棚にギッシリと詰め込んで背表紙さえもよく分からないような書架とは違うぞ。子供目線が届かない高所にも本があるが、お父さんお母さんには分かるような配置となっている。「こんな本があるよ」という「展示室」だ。私は現在の航空博物館における図書コーナーの在り方はこれで良いと思う。別途、大人のリサーチャーのための専門図書室・資料閲覧室があれば言うことなしだ。

写真9 鉄道博物館のキッズライブラリーの様子。読書スペースもあるが、まさに鉄道本の展示室。(2023年6月8日撮影)

 

【海外の事例】

 韓国ソウルの金浦空港の敷地内に開館した国立航空博物館には図書室が一室設けられている。ただし私が訪問した2023年10月末の時点では11時30分~13時30分の間は殺菌消毒作業と担当者の昼休みのために閉室中であり、中に入ることはできなかった。私自身は他に訪問したい場所があったので、ガラス戸から中をチラリと覗いただけで、その場を立ち去ってしまった。興味ある方は立ち寄ってみて欲しい。

以上