用廃機ハンターが行く!

アジア各地に転がる用廃機を見に行くためのガイド(?)

”塗り”はいくら?(塗装工事費のお話)

<編集履歴> 14Feb.2022公開、18Mar.2022見直し更新(第3回目、百里基地雄飛園の機体塗装費に関する記述を見直し)

 

 屋外に置かれた機体は1年もしないうちに陽に焼けて色褪せてくる。

 航空自衛隊で使われている機体は機種や用途にもよるが、おおむね2回目のIRANを行う際にリペイントしているようだ。IRANの間隔は3~4年程度なので6~8年に一度は塗り直すという感じだろう。C-1やC-130Hなどのように”濃い塗装”は特に劣化(褪色・白化)が目立つので、「そろそろIRANかな?」と感じることもよくある。

 機体ごとのIRANにかかる費用は調達情報(契約情報)に契約金額が公表されているので契約機数で割り返してやれば機体当たりの単価がでてくるが、「塗装費だけ」という内訳は分からない。

 「我が家に一台(一機)」を飾るのは夢として、基地や公園などの屋外展示機の維持費のうち、塗装関連工事の費用はどれくらいかかるものなのか?

 入札情報などから確認してみよう。

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写真1 塗装が剥がれたら腐食防止のためにとりあえず何でも塗っておけ。しかし、こんなのでイイのか?(2011年8月14日、台湾宜蘭)

 

【屋内展示なら費用はゼロ】

 まず初めに当たり前といえば当たり前だが、きちんとした屋内に展示されている機体の場合には再塗装費用はほぼ不要だ。例えば小松航空プラザ(1995年11月オープン)、岐阜かかみがはら航空宇宙博物館(1996年3月オープン)、浜松広報館(1999年4月オープン)の屋内展示機を思い浮かべてみよう(屋外展示機の話は別だ。念のため)。2022年2月時点で展示されてから23~26年程度が経過しているが、この間に再塗装をしたものがどれだけあっただろうか。きちんと管理していれば再塗装費用はほぼ不要だが、建物の建設費用だけで約30億円から60億円(この金額については確認中。初年度経費や人件費などを含む場合があると思われ、かなり不正確な値だ)と言われており、これを展示機数で割り返すと「数億円規模」になる。仮に4億円/機としておこう。建物を40年使うとして、単純に割り返すと一機について年間あたり約1千万円、月額約80万円をかけていることになる。

 個人宅に機体を置く場合、自宅のガレージに入れるだけでも維持費(再塗装費)はかなり安くなることだろう。機体前半部を所有するマニアの中には入手した機体を自宅内に設置することを前提に家を建てたという”強者”もおられるようだ。この場合には家を解体するまで二度と機体を取り出すことはできないが、一般的な家の耐久性と建築費用(大都市からやや離れた郊外の家と仮定して)から考えて40年間で4千万円程度を見積もればよいだろうか。年間100万円、月額8万円程度だ。博物館の10分の1の費用ということになる。

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写真 屋内展示なら再塗装費用はかからない・・・。が、見栄えのする展示となるかどうかは建屋の造り(建設費用)と展示方法次第かな?(2021年8月5日るり渓温泉ゼロ戦研究所のT-6G)

 

【再塗装に係る費用】

 さて屋外展示機の再塗装にかかる費用を考えてみよう。ざっと考えて次の費用がかかる。

(1) 塗料代: たとえばT-6 / SNJ / T-34Aクラスの小型機とファントムなどの戦闘機、あるいはYS-11やC-1の再塗装に必要な塗料代が同じであるはずがなく、数倍~10数倍程度の差があることは明白だ。近い将来には「ざっくり計算」で表面積(塗装面積)を求めて「T-6に比べてファントムなら何倍、C-1なら何倍程度」と数値で言えるようにしておきたいと考えているが、少なくとも下地を塗ってから上塗りするか、直接一回の上塗りで済ませるかだけでも必要な塗料の量は倍量変わってくる。一斗缶(18L)で塗装できるのは50~60平方メートル程度と言われている。ネット上に紹介されている製品の値段は5,000~20,000円/缶程度(色調や成分により異なる)が主流だ。

(2) 足場代: 小型機であれば脚立程度があれば十分かもしれないが、高さが2メートルを超えるような高所がある場合(戦闘機の垂直尾翼など)には足場を組んで作業を行うことになる。より安全な作業を行うために頑丈な足場を組めば、必要な資材量が増えるだけでなく、その足場の組立や解体にかかる人件費もかかるので当然高くつく。安く済まそうとして労災を起こしては何にもならない。

(3) 養生経費: 塗装作業をする際に他の場所に塗料が飛び散ったりしないよう、作業後に剥がしやすいテープで目張りをしたり、ブルーシート等で全体を囲ったり覆ったりして対象物以外を守ることを「養生」という。感覚的に分かると思うが、これも小型機と大型機では必要量が数倍~数十倍程度異なる。そして養生に必要な資材の多くは”使い捨て”となるので、作業の都度買いそろえなくてはならないし、作業後には廃棄物処理のための費用が発生する。

(4) 消耗品や機械等のレンタル費用や輸送費など: 塗料があっても筆、刷毛、エアブラシが無ければ塗ることはできない。塗装前に古い塗装を削り落とすサンダー/グラインダーなどが必要な場合もある。また資材を現場に運ぶ輸送手段も必要だ。街中の公園と、人里離れた山の中にポツンと置いてある機体の脇に届けるのでは輸送費は異なるぞ。作業用具のレンタル店から近い場所であれば朝の作業前に借りて、夕方返却することも出来るが、遠い場所にある場合には作業前日に借りて、作業翌日に返却することになる。近場ならレンタル料は一日で済むトコロ、三日分かかることになる。

(5) 人件費・作業費: 上記の作業を行う人に係る経費。読者の皆さんの給料からいくらが適当なのか算出してみよう(笑)。古い塗装を剥がしてから再塗装するのか直接上塗りするのか、熟練者がやるかそれともアルバイトに任せるかという作業の仕上げを加味するかとか、あるいは人手の足りない繁忙期に実施するか仕事が無い時期にやるかなど、作業の質(仕様の細かさ)や時期によって数倍程度の差が生ずることがある。

(6) その他: 各種の保険代や、場合によっては一般人の安全確保ための警備員を配置するなどの配慮も必要になる。廃棄物の処理費用もかかる。あれやこれやの費用がかかる。

(7) 価格の変動要因:上記の各項目の中でも述べているが、地域や作業場所の環境などの特性、景気動向や相場、塗料や備品等の在庫状態、人手、再塗装作業を行う対象の機数や大きさ(塗装面積)、作業仕様書の細かさの程度などにより価格は変動する。また入札時には業者の思惑(今後の仕事・随意契約の獲得や受注の継続)があるので、実態価格とならない場合もある(”1円”入札などが良い例だ)。

 

・・・あくまで「ざっと」挙げた程度だが、これらを合算し、かつ「業者の儲け」を入れていくら?というのが「再塗装工事費用」だ。身近な金銭基準である自分の給料やお小遣いと比較して「高い!」という方が多いが、上述した各項目の値段(相場)を考え、自身で概算計算ができるようになれば「高いの、安いの」という見方は変わると思う。今や表計算ソフトが極めて身近にあるツールなので、常識的に考えられる範囲だけでも必要な物資等の項目・単価・使用量・必要金額くらいで一覧表を作り、積算して自身で確認してみるとよいだろう。繰り返していけば「社会全体のモノの価値」を理解することにもつながり、それは「社会を見る目を養う」ことになる。趣味をやりながら自身の感性も磨くことができるのだ。騙されたと思って何年か続けてごらん・・・。(こうして立派な次世代”用廃機ハンター”が育っていく・・・ハズだ)

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写真 費用を計算しても予算が無ければ対応はできないが、クラウドファンディングで費用を集めるにしても費用の目途(見積)がなければ目標額も定まらない。まずはいくらぐらいかかるのか、自分で考えて計算してみよう。(2021年7月25日、西予市城川町総合運動公園)

 

【再塗装工事費用の実情】

 さて、それでは実際の再塗装工事がどの位の金額で行われているのだろうか。自衛隊の調達情報(契約情報)などの実例を確認してみよう。調達情報の読み方は別記事で解説する(この記事は現時点では用廃機の処分について注目して記述しているが、「展示機の再塗装に関する役務」と読み替えればよい)。

調達情報を読もう - 用廃機ハンターが行く!

 

1. 百里基地雄飛園の展示機の洗浄、再塗装およびコーティングの役務というような名目で2回に分けて入札が行われている(2021年12月17日入札分の契約金額は4,620,000円、1月28日入札分では1,650,000円)

 仕様書が読めないので詳細は不明だが、外周から確認できた再塗装工事の進捗状況から、12月17日入札分はF-1、T-2、F-104J、F-4EJ改およびRF-4Eの5機分、1月28日入札分をF-86D/FおよびT-33Aの3機分として考えてみる。それぞれの金額を単純に機数で割ってやると12月分が1機あたり92.4万円、1月分が一機あたり55万円だ。F-104やF-4の塗装には足場を組んでいたり下塗りもしていたので、そこそこの値段になっているのだろう。F-4EJ改は地色のままでコーティングしているので機体当たりの費用としては安くなっているかもしれない。F-1/T-2クラス以上の戦闘機でおおむね一機あたり100万円チョイ、F-86D/FやT-33Aクラスで55万円程度と考えておいて良さそうだ。

2. 茨城空港のファントム2機の再塗装工事(2022年2月): クラウドファンディングの際の記載情報より、総工費は約800万円なので一機あたり約400万円。百里基地雄飛園の展示機の約4倍の値段となっているが、細かいステンシル(機体に描かれた説明書)が残される細かい作業となっている。

3. 三沢航空科学館のファントム再塗装(2021年末頃): 2,035,000円。

4. 浜松広報館のC-46D再塗装(2021年10月25日入札):3,850,000円。塗装に関する仕様がかなり細かいものであった。

5. 入間基地のC-46D再塗装他2件(2020年12月8日契約):2,750,000円。当時の仕様書を確認していないが、この落札価格で恐らくはF-86FとナイキJの再塗装も行っている。C-46Dの塗装に約200万円、F-86Fとナイキにそれぞれ40万円程度としておこう。

6. 熊谷基地のF-86FとT-33Aの再塗装(2021年1月26日契約):1,628,000円。一機あたり814,000円。

7. 個人所有のT-1の機体前半部を再塗装した際に要した塗料スプレー缶は6缶程度だったと伺ったことがある(私信)。どの程度の容量の缶を用いたのか、どんな塗料を使用したのか、またどの程度の仕上がりとしたのかは不明だが、塗料1缶の値段は格安で1,000円として6,000円。機体後半部が存在したとして倍の1.2万円、主翼も尾翼もあったとしてさらに倍にしても2.4万円(これがT-1クラスを一機丸ごと塗る場合の最低価格と考える)。個人趣味なので他の費用は一切かからないが、再塗装後、屋外に置いていたら数か月で退色して元の汚れた機体になったという話であった。仮に年4回塗装するとして塗料費用は10万円/年。10年続ければ100万円。ちょくちょくキレイになるが、労力を考えると10年間公園に放置された機体を一度再塗装する際にかかる費用とあまり変わらないような気がしている。

<実績まとめ>

 上記の実績から一機当たりの再塗装工事費用をまとめると概ね次の通りです。

1) T-6G/SNJ, T-34A, T-3クラスの小型機: データが無いので不明

2) F-86F/D , T-33A:40~80万円

3) F-104J/F-1/T-2クラス:90~100万円

4) F-4ファントム:100~400万円

5) C-46クラス:200~400万円。(入間基地での落札額275万円から他2件(恐らくF-86Fとナイキミサイル)を40万円×2件として引いた200万円をC-46再塗装費用とした)

6) C-1クラス:美保基地展示機が2020年度末ごろから2021年度にかけて行った再塗装整備費用不明。

 

 ファントムを綺麗に再塗装するために400万円かかるとした場合、再塗装の実施頻度を10年に1回程度(120か月)と考えると月額3.3万円程度を積み立ておけば良いという勘定になりますかね。インフレを考えて月5万円程度以上としておきますか。毎月10万円程度を積み立てられる金策があれば(例えば入場料収入など)、3~4年に一度くらいは塗り替えることができるということになりますね。また塗装2回分として約一千万円を用意しておけば「期間限定でスペシャルマーキングを復活させる」ことが可能かもしれません(別途、各方面との調整が必要となりますが)。

 

 これまでは展示機の再塗装工事に関する費用には注目していなかったので、契約金額が分かる例が少ないのだけれど、もう少しデータを集めてみたいと思っています。今後、データを入手したら本記事を改訂するつもりです。

 読者の皆さんが「我が家に一台(一機)」飾る際の参考にでもなればと思います。

【最後に】

 私自身は工事関係の積算なんぞはやったことは無いし、プラモデルすら作らないので「塗装(工事)の何たるや」を語ることはできません。「こんな話を書くなら、この辺りくらいは読んどけや~」という成書・文献・HPなどがありましたら、コメントにてご紹介いただければ幸いです。それを理解できるかどうかは別次元の話なのですが・・・。どうかよろしくお願いいたします。

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写真 再塗装されることもなく34年間展示された後に廃棄されたPS-1。(2010年4月25日、天草パールセンター)

 

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写真 国内に唯一残るP2V-7の現状。1980年に全機退役しているので40年ほど屋外に置かれていることになる。再塗装は恐らく2002年前後と2012年前後に実施されているので、おおむね10年に一度と考えて良いだろう。2022年度には再塗装されるかな?そ・れ・と・も・・・(汗)。(2022年1月20日撮影、海上自衛隊鹿屋航空基地史料館)

以上