用廃機ハンターが行く!

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博物館法と”航空博物館”

【はじめに】

 浜松基地では2020年度中に浜松広報館(エアパーク)魅力化委員会を立ち上げ、今後10年を見据えた体制整備計画を策定したとのこと。そして「来場者の皆様が繰り返し来場したくなるような魅力化や未来を担うお子様たちが楽しく過ごせる空間づくりのための努力を続けていく」旨を基地司令挨拶の中で述べている(2021年4月)。

 それはそれで良いのだけれど、自分の中ではどうもしっくりと来ない。アミューズメントパーク化していくような気がしてならないのだな。自分の求める姿は(名前と予算が広報目的であったとしても)一国を代表する「空軍博物館」だ。

 「それでは博物館とは何よ?」と思ったところで日本の法律「博物館法」を確認して自分の求める姿がそこにあるのか、確認してみることにした。

 なお他の記事でも書いているが、法規制等の勉強はマトモにやったことが無い。本記事はあくまでネット上にある文書を読んで、その字面から得た個人的な判断や感想であることを最初にお断りしておく。

 

【博物館法】

 博物館法(以下、単に”法”と記すことがある)。その下に施行令、規則がある。

博物館法の原文はこちら。博物館法 | e-Gov法令検索

 

【法体系】

 基本的法体系は次の通り:  教育基本法―社会教育法ー博物館法

 

【博物館の目的】

 博物館法の第2条に記されている。抜粋すると;

 「博物館とは、歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(育成を含む。以下同じ。)し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業を行い、あわせてこれらの資料に関する調査研究をすることを目的とする」(以下略)。

 

【博物館が行う事業】

 博物館法の第3条には博物館が行う事業が記されている。条文には「おおむね次に掲げる事業を行う」と書かれているので、「記載した事項を”全てやれ”」ということではない。以下、抜粋です。
一 実物、標本、模写、模型、文献、図表、写真、フィルム、レコード等の博物館資料を豊富に収集し、保管し、及び展示すること。
二 分館を設置し、又は博物館資料を当該博物館外で展示すること。
三 一般公衆に対して、博物館資料の利用に関し必要な説明、助言、指導等を行い、又は研究室、実験室、工作室、図書室等を設置してこれを利用させること。
四 博物館資料に関する専門的、技術的な調査研究を行うこと。
五 博物館資料の保管及び展示等に関する技術的研究を行うこと。
六 博物館資料に関する案内書、解説書、目録、図録、年報、調査研究の報告書等を作成し、及び頒布すること。
七 博物館資料に関する講演会、講習会、映写会、研究会等を主催し、及びその開催を援助すること。
八 当該博物館の所在地又はその周辺にある文化財保護法(昭和二十五年法律第二百十四号)の適用を受ける文化財について、解説書又は目録を作成する等一般公衆の当該文化財の利用の便を図ること。
九 社会教育における学習の機会を利用して行つた学習の成果を活用して行う教育活動その他の活動の機会を提供し、及びその提供を奨励すること。
十 他の博物館、博物館と同一の目的を有する国の施設等と緊密に連絡し、協力し、刊行物及び情報の交換、博物館資料の相互貸借等を行うこと。
十一 学校、図書館、研究所、公民館等の教育、学術又は文化に関する諸施設と協力し、その活動を援助すること。

2 博物館は、その事業を行うに当つては、土地の事情を考慮し、国民の実生活の向上に資し、更に学校教育を援助し得るようにも留意しなければならない。

(抜粋終了)

※浜松広報館は博物館の目的にそった事業を行っているじゃないか。だけど2020年度末のリニューアルに関しては上記一より「豊富に収集した博物館資料の展示の範囲を狭めたこと」および上記三より「図書コーナーを潰してキッズスペースにしたこと」が自分の気持ちの中で一番引っかかっているようだ。

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写真1 国内で唯一の「博物館法上の登録博物館」である成田空港脇の航空科学博物館。

 

【博物館法の趣旨】

 本法律は”国立以外の”公立博物館や私立博物館の振興のために設けたものであり、第2条の定義より国立の施設はこの法律の対象から外れている。つまり浜松広報館を「博物館」に格上げして「仮称:国立空軍博物館(「国立の航空自衛隊博物館」と言う方が現実的かな)」とした場合には、この法律は適用されない。(別途、運営規則を設けて運用することになる)

※おっと「”国立空軍博物館”には博物館法は適用されない」という調査結果が早々に(第2条を読んだだけで)得られてしまった(汗)。以下、「それでは他の航空博物館(別稿「国内の主要な航空機展示施設」で取り上げた施設など)は、どんな立ち位置よ?」という視点で話を進めることにする。また機会があれば「博物館法に照らし合わせて浜松広報館はどうよ?」という視点で法律を読んでみようと思う)国内の主要な航空機展示施設 - 用廃機ハンターが行く!

 

【博物館の分類】

博物館法では博物館は次の三つに分類される。法の適用を受けるのは「登録博物館」と「博物館相当施設」の2つのみであり、「その他」は「統計処理や参考として数えるために設けた分類枠」に過ぎない。なお各種文書、統計や分類などではこの「その他」の施設のことを「博物館類似施設」という用語で表現することが多い。このため本Blogでも「博物館類似施設」という用語を用いることにする。

1) 登録博物館:場所、建物、資料があり、学芸員がいる。年間150日以上開館するなどの必要事項は「博物館法」に記載されている。

2) 博物館相当施設:上述した「登録博物館」の規定を満たさないが、博物館にふさわしい建物、資料があり、「学芸員相当の職員(学芸員に非ず)」がいる。年間100日以上開館するなどの必要事項は「博物館法施行規則」に記載されている。

3) その他:上記に準ずる博物館活動を行っている施設。上述の通り本Blogでは「博物館類似施設」ということにする。法規制の対象外なので個人経営でもOKだし、夏休み期間中だけ公開したり、週末だけ公開しても良い。バカ高い入場料金を徴収しても問題はない。

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写真2 法的には「博物館相当施設」である岐阜かかみがはら航空宇宙博物館。

 

【国内の博物館の数】

 さて「博物館法上の定義で国内の博物館を三つに分類」したところで、それぞれどのくらいの数があるのか確認してみよう。 平成30年10月時点での博物館の数を以下に記すと「**博物館」という展示施設(本Blogでは”他人に見せるモノが置いてある場所”という程度の意味)のうち「博物館法が適用される施設」は約20%チョイ(=15.9%+6.5%)でしかないことが判る。また「**博物館」称していながらも「統計対象に含まれていない博物館」が存在するので、実質20%程度未満(全ての「**博物館」のうちの五分の一程度未満)と考えておいてよいだろう。

1) 登録博物館 914館(15.9%)

2) 博物館相当施設 372館(6.5%)

3) 博物館類似施設 4,452館(77.6%)

以上の合計で5,738館(100%)

参考:1.博物館の概要 | 文化庁

 

【国内航空機展示施設の立場】

 国内航空機展示施設(「**博物館」「**ミュージアム」「**展示館」など)が上述の分類のいずれに相当しているのか、各県の教育委員会などのHPにて確認した結果を以下に記す。(見落としがありましたらご一報くださいね)

1) 登録博物館:航空科学博物館(千葉県成田空港脇、平成2年9月10日登録)のみ

2) 博物館相当施設:岐阜かかみがはら航空宇宙博物館のみ

3) 博物館類似施設:統計対象になっていたのは三沢航空科学館のみ

4) 統計対象にもされない、ホントの「その他の施設」: 上記以外

※感覚的には成田の航空科学博物館よりも岐阜かかみがはら航空宇宙博物館の方がより専門的で、展示機も多く、立派な博物館に見えるが「博物館法」では立場が逆転するのだな。浜松広報館や鹿屋の史料館は「国立(防衛省立)」の施設であり、そもそも「博物館法」の適用外なので、この分類には含まれない。石川県立航空プラザは「博物館法上では」統計にカウントされることもない施設に過ぎない。

 

学芸員

 さて博物館法では登録博物館には学芸員を配属するよう求めている。国内で登録博物館となっているのは千葉県成田空港脇にある航空科学博物館だけなので、航空に関する学芸員というのは「航空科学博物館」のみに存在することになる。調べてみると日本初の「航空関係専門学芸員」は種山雅夫氏であり、航空科学博物館展示部長として 同館の開設準備を主導したそうだ。同館では登録博物館の位置づけを維持するためには学芸員を育成しなければならない。実務例を挙げると平成29年には職員に対する通信教育と早稲田大学に短期派遣させることによって学芸員の資格を取得させたという。

 なお博物館法施行令より「博物館相当施設」である岐阜かかみがはら航空宇宙博物館には「学芸員相当の職員」がいるハズだ。その他の展示施設にはどれだけ航空機に精通している人であっても、「博物館法的には」何ら規定のない「ただの職員」ということになる。

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写真3 石川県立航空プラザ。博物館法上では「博物館類似施設」ですらなく、統計対象外の施設の位置づけだ。

 

 以下、法規制等や博物館法改正に向けた論議などを読み漁り、理解を深めながら、適宜本文をアップデートしていきたいと思う。

 なお現時点の自分の知識・理解では「(航空博物館は)博物館法第3条に規定された事業を行うように努力すれば、あえて博物館法上の登録博物館になる必要は無いんじゃね?」と思っている。努力義務の指針として博物館法を活用すればよい、という考えだ。(登録博物館になると、こんな良いことがあるよ!というものがまだ見えていないのだな>自分)

 

 最後に、浜松広報館をアミューズメントパーク化して一時的に人気を高める場にするのは募集対象人口が減りつつある現状では仕方がない部分があるかと思う。だけど博物館法第3条に記された「博物館が行う事業」の項目の筆頭に上げられた「資料を”豊富に収集”して(中略)”展示する”こと」を忠実に実行して欲しいと願う声が募集対象年齢外の人(私だよ)にあることも知っておいて欲しいと思う。冒頭に書いたことではあるが、名前と予算が広報目的であったとしても、浜松広報館は一国を代表する「空軍博物館」だ。その誇りと面子は保って欲しいと思う。

 

以上

編集履歴

20Apr.2021 公開

22Apr.2021 見直し更新(第2回目、字句表現を一部修正)